6-6 会えない理由
術法院の地下の一番右隅にあるナーレンダの私室兼研究室をカイラシュが訪れたのは、サヴィトリから話を聞いたその日のうちだった。
『毎度毎度思うのですが、このゲロ甘い殺人臭、もうちょっとどうにかなりませんか?』
『いきなり人の部屋に来ておいてその言いぐさはなんなのさ。甘い物が主食なんだから仕方ないだろう』
『そんなんだからいつまでたってもそんな童顔なんですよ。夜中出歩いて憲兵に保護されかけたのはどこのどの野郎でございますか?』
『ねえ、君は僕にわざわざ喧嘩を売りに来たわけ? 消し炭にされる前に帰ったら?』
『わたくしとてそこまで暇ではありません。単刀直入に尋ねます。ハリの森に住んでいるサヴィトリという名の少女をご存知ですか?』
『知ってるよ、全部ね。まさか僕に森から引っ張り出しに行けとでも言うの?』
『もうすでに他の者に引っ張り出されて今は王城にいます。ナーレンダという名前の男を探しているということなので、来たくもないここにわざわざ足を運ばせていただきました』
『……会えない』
『はい?』
『あの子には、まだ、会えない』
『申し訳ありません。わたくし察しがあまりよくないので補足説明をいただけますか?』
『言葉どおりだよ。あの子には会えない』
『わたくし、力には多少の自信があります。特に理由がないのであれば担いででも連れて行きますが』
『理由はあるけどお前には言いたくない』
『術士長、ナーレンダ・イェル殿。その小生意気な面をお殴りしてもよろしいでしょうか?』
『馬鹿かお前は! 駄目に決まってるだろう! それに、これから研究塔のほうにひと月ほど行かなきゃなんなくて忙しいんだよ。その間にどうにか適当な理由をつけるなり誤魔化しといて。……本当に、まだ会えないんだ。――あ、あと、ヴィクラムの方にも口止めよろしく』
『……まぁ前半はともかく、後半はご自分でおやりください。極力あの野郎とは顔を合わせたくないので』
『仲がいいね、相変わらず』




