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Tycoon0-災厄王女が初恋の人に会いに行ったら残念イケメンに囲まれた上に天災魔女にも目をつけられました-  作者: 甘酒ぬぬ
第五章 届かない距離

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5-2 術法院

 術法院はコの字型をした二階建ての建物だった。

 王城から見て北西の位置にあり、建物の周囲には通常ありえない色をした様々な木――ガラスのようにすべてが透きとおっていたり、葉が七色だったり、見る角度によって色が変化したり――が生い茂っている。建物の外観自体はごくありきたりなのだが、それがかえって異質を引き立たせていた。

 建物の外観同様、中もごく普通の役所といった風情をしていた。そこかしこに置いてある、不可思議なオブジェを除けば。


「はじめまして。准術士長のル・フェイと申します」


 サヴィトリとジェイを出迎えたのは、たれ目でおっとりとした印象の女性だった。袖口の広い長衣をまとい、その上から白いケープを羽織っている。

 よく見ると、術法院の中にいる者はみんなル・フェイと同じような格好をしていた。制服なのかもしれない。


 ヴィクラムは急用ができたと言って、どこかへと行ってしまった。

 いちいちカイラシュに報告するのも面倒くさく、王城区の中にある建物に行くだけだから別に構わないだろうと、サヴィトリはジェイと二人で術法院にやってきた。


 アポイントを取っていなかったにもかかわらず、二人はすぐに応接室へと通される。

 今まで見てきた中で、最も雑然とした部屋だった。

 極彩色の薬品や、用途のわからないオブジェ、読めない言葉で書かれた本など、様々な物が部屋のあちこちに散乱している。サヴィトリにはすべてがらくたにしかみえない。

 おまけに、やけに甘ったるい匂いが部屋中に漂っている。色々な種類のお菓子を混ぜ合わせて煮詰めればこんな匂いになるかもしれない。


(ここは客を通す部屋か?)


 サヴィトリは疑問に思わざるを得ない。が、アポなしで来ているのであれこれ文句を言える立場ではない。

 ル・フェイは椅子やテーブルの上に乗っている物を、手当たり次第空き箱に放りこみ、強引にスペースを確保する。何事もなかったかのようににこやかに微笑み、「どうぞお座りください」とサヴィトリとジェイをうながす。


「本当にひどい所で申し訳ありません。慌てて消臭剤振りまいたけどまだ匂いますわね。応接室でもあればよかったのですが、特異な施設ですから、あまりお客様をお迎えすることがなくって」


 ル・フェイは断りを入れ、いつの間に淹れたのか、湯気の立つカップをテーブルに三つ置く。中身は紅茶のようだった。


「確かここに隠してあったはずですわ……と。ふふふ、やっぱりありましたわ。炎使いは単純ですこと」


 ル・フェイは呟きながら部屋の奥にある棚をごそごそとあさり、焼き菓子の入った小袋と浅い皿のような編み籠を取り出した。


「それにしても、イェル術士長に用があるだなんて更に更に珍しいですわね。あの人友達少ないですから。しかも若い女の子だなんて……あらぬ詮索をしてしまいますわ」


 編み籠に飾り紙を敷き、その上に焼き菓子を出しながらル・フェイは言う。


「はぁ」


 サヴィトリは曖昧にうなずく。なんとなく飲み物に手をつけるのははばかられた。見ると、ジェイも膝の上に両手を置いたままでいる。


「どんなご関係?」


 柔和な雰囲気とは裏腹に、ル・フェイはテーブルの上にどんと編み籠を置いてサヴィトリに詰め寄った。


「どんなというか、まだそのイェル術士長という人が私の探している人なのかどうかわからないですし……」


 サヴィトリはのけぞり気味に答える。

 ル・フェイはサヴィトリがさがった以上に、更に顔を寄せた。


「もしかしてもしかしてもしかして、お名前は、サヴィトリさんとかって仰る?」

「はい……っていうか私、受付でちゃんと名前書きましたよね」


 サヴィトリの応えに、ル・フェイは満足げな笑顔を浮かべた。サヴィトリの両手を取って上下にぶんぶんと振る。


「やぁっぱり! 最初見た時からなんとなく既視感があるなぁと思っていたんですのよ。術士長から散々吹きこまれてましたからねえ。ほんと、あのツンツン術士長がデレッデレになるだけあって可愛いらしいですわ」


 ル・フェイは勝手に一人で何かを納得し、じーっとサヴィトリの顔を見つめた。


「えーっと、どういうことですか?」


 サヴィトリは苦笑をこらえつつ尋ねる。

 こっそりジェイの脇腹を肘でつついて救援を求めたが、出された焼き菓子に夢中になっていて気付いてもらえなかった。むしろそんなに美味しいのなら自分も食べたいとサヴィトリは思う。


「ことあるごとに術士長の口にのぼるんです。サヴィトリという一緒に暮らしていた妹のような女の子がいて、その子がどんな性格の子で、どんなものが好きで、どんな風に迷惑をかけられたか、とか。兄、というよりは子離れできない母親のような語り口でしたね」


 サヴィトリの心がぐらりと揺らぐ。急に視界が滲みはじめた。

 もしかしたら、本当にナーレに会えるのかもしれない。


「その人は……ナーレは今どこにいるんですか!?」


 ル・フェイは微かに眉根を寄せた。


「縄をくくりつけて引っ立てでも会わせてあげたいところですが、あいにく研究塔のほうに出てしまっていて、最低でもあとひと月は戻らないんです。研究塔までは遠くはないのですけれど」

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