111 東の海の海王歌
ジャッ、ジャッ、ジャギィン!! とリズムを刻む。
サーベルの金音にタップ音が続く。
ハッ、フン、オーッワ! と、掛け声が乗る。
ハッ、フン、オーッワ! と、男たちが歌い、
「アタマのちっせぇグールがいるぞ!」
「アタマのちっせぇグールがいるぞ!!」
「アタマのちっせぇグールがいるぞ!!!」
「「「すぐさま歌え果敢海歌!!!」」」
勇壮な男たちの掛け声と共に、歌が始まる。
魂に響くようなそれぞれの低音が、港に響く。
肺の中身をそのまま吐きつけるような、息が混ざる。
剣を打ち鳴らす男たちを見ても、何が起こっているのわからない。
が、彼らが何か、背後のボヤに向かっているのは確かだ!
「くねくねダイモンも船酔いしてらぁ!」
「くねくねダイモンも船酔いしてらぁ!!」
「くねくねダイモンも船酔いしてらぁ!!!」
「「「すぐさま歌え果敢海歌!!!」」」
ソロ、ソロ、ソロに合唱。
男たちが声を重ねるたび「グオオオッ!」と聞こえる。
振り向けば「グアアアッ!」と呻く炎の巨人が居る。
リズムに押されて全身を揺らめかせ、苦し気に萎縮する炎が見える。
「干し肉も乾パンもオレンジもねぇぞ!?」
「干し肉も乾パンもオレンジもねぇぞ!!?」
「干し肉も乾パンもオレンジもねぇぞ!!!」
「「「すぐさま歌え果敢海歌!!!」」」
衝撃波を幻視するほどの勢いで、圧縮された音が心臓を打つ。
ドッドッドッと響きを受ける度、炎の勢いが弱まっていく。
カカカッと踵のタップがなる度、小刻みに炭が散っていく。
「かーつて! 東の海の王は言ったッ!!」
「昼だか夜だか知らねぇし、悪鬼だか悪魔だかしらねーが!!」
「俺の名の響く場所で身勝手は許さん!!」
「どーしたって我慢ならんやつらは、この歌を持って藻屑と散れと!!」
変調を受けて、勢いに押されかけていた正気が戻って。
ここまで来れば流石にうっすらと察しがついた。
かつて、まだ知り合ったばかりのリーラントに教えてもらったことだ。
この世界の歌には種類があり、妖精の力を借りるのが妖精歌だと。
ならば、この口ぶりはおそらく彼らの言う「王」の力を借りている。
「さあ野郎ども! 息を吸え!!」
「呼吸を揃えろ、剣を打ち踵を慣らせ!!」
「そうすりゃあおまえらも俺らの仲間さぁ!!」
「そうすりゃあおまえらもこの船の仲間さぁ!!」
彼らの言う歌「果敢海歌」の正体はおそらくそれだ。
奇妙なのは、それが一人で歌うものではないということか。
そして参入する声色が、凄まじい勢いで強まっているということか。
そう――もはや歌を歌っているのは船長さんたちだけではなかった。
「「「海! 空! 陸に至るまで!!」」」
「この名において横暴は許さんッ!!」
「「「この韻! この音! この声が響く場所で!!」」」
「俺の名の響く場所で身勝手は許さん!!」
船乗り、商人、道行く人の皆々。
この港に集う全員が、声を揃えて叫んでいた。
「わかったらぁ!! 行くぞ野郎どもおお!!」
「「「おうよっ!!!」」」
「どうすりゃいいか、口揃えていってみろぉ!!」
「「「おうよっ!!!」」」
男性も女性も無く――ハッ、フン、オーッワ!
老体も幼子も――ハッ、フン、オーッワ!
皆々が息を揃え――ハッ、フン、オーッワ!
しまいには俺たちも混ざり――ハッ、フン、オーッワ!
「「「すぐさま歌え果敢海歌!!!」」」
そして、勢いに押された邪悪な炎は。
見るからに、勢いを弱めて、空へ向けて散った。
追い打ちのように響いた柏手が、散った火の粉さえ消し飛ばした。
やがて、本当の終わりを告げる音が響いた。
――グアアアアアアアッ!!
と怨霊の断末魔めいた声が重なって響いて。
炎に包まれていた冒険家ギルド前は、港の人々は。
その声をまるっきり一丸と貸して――成し遂げたのだ。
「「「すぐさま歌え果敢海歌!!!」」」
――彼らは、ほとんどその声量だけであの炎の悪鬼を退けたのだ。




