表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第二部一章「東の海の海王歌」
110/111

110 金音と号令

 流石にアーネスの妖精歌も、効果が切れてしまったらしい。

 掌底からの噴出を終えた彼は、改めて俺とノエルに向かい合った。


「レーダ、ノエル、二人とも無事か?」

「うん、おかげさまで」

「気を休めるのはまだ早いよお二人さん。早いとこ建物を出たほうがよさそうじゃない?」


 言われてみればその通りだ。一応、この部屋の炎は勢いを失ってくれてはいるが、奥の部屋は多分未だに燃えたまま。建物に木材が多いことも考えると、早いところ脱出したほうがいい。


「もう行こう。レーダもそれでいいな? ヤツの正体が何であれ、俺たちを狙ってたことは間違いなさそうだし」

「そうだね、急ごう。ノエルもそれでいいか?」

「……うん。そうだね」


 ……やはりノエルも、何か引っかかる気持ちはあるようだ。

 正直咄嗟に思いついた対抗策にしては、うまく行き過ぎた節はあるし、あの炎男を本当に打ち倒せたのか、確信を抱けない気持ちはわかる。

 だけど作戦会議をするにしたって、さっさと外に出たほうが良いのは確かだ。そんな思いを胸に、俺たちは出入口の扉へ向かう。


「俺が開く。一応警戒しといてくれ」

「わかった」「りょーかい!」


 先頭はアーネス、殿は俺。間にノエルを挟んでそれぞれ警戒。

 後ろを見てみれば、ぼちぼち火の手が広がり始めている。

 カウンターや棚なんかにも燃え移って、建物ごと焼け落ちるのも時間の問題に思えてしまった。


 そんな中で、アーネスは外の様子を確認し終えたらしい。


「……野次馬がいる」

「だったら都合がいいよ。流石に町の人全員敵ってことはないでしょ」

「そうだな。行こう」


 口ぶりからして、これ以上の警戒は必要はなさそうだ。

 ノエルに軽く手を引かれたので、俺もすぐさま外へ走る。

 三人そろって走り込んでいれば、俺たちを保護してくれる親切な大人もいるかもしれない。


「三人とも、無事だったかぁ!!」


 思った通りだ。

 外に出れば、野次馬の中から見覚えのある人影が近づいてきた。

 髭もじゃは髭もじゃでも、こっちは人の良い方の髭もじゃ。つい昨日までお世話になっていた救出船の船長さんと、その乗組員の皆さんだ。


「みなさ……」

「待て、レーダ」


 咄嗟に駆け寄ろうとして、アーネスに制された。

 どうして、と口走りそうになって理解する。

 そうだ、そういえば、アーネスは確かさっき……


「教えろ、船長。なんで俺たちを罠にハメた」


 彼らからこのギルドの場所を聞いたような素振りを見せていたはずだ。

 でも、だとしたら、どうして……?


「な、なんのことだよ……」

「とぼけるな。このギルドに居たヤツのこと、知ってるだろ」

「あ、ああ。あの気のいい姉さんだろ? もちろん知り合いだぞ?」

「……は?」

「そう、俺の昔の知り合いで名前は――」


 困惑するアーネスをよそに、船長さんは「本来の受付嬢」である女性の特徴を述べていた。容姿、服装、名前、そのすべてに聞き覚えない。少なくとも彼は、例の炎男について、何も知らない。


「だったら、なんで……」


 そうして疑念が深まり……

 俺たちがまた、考え込みそうになったところでのことだった。


「ッ! うしろからっ!」


 ノエルが叫んで、咄嗟に振り向いた視界に、火の手が映る。

 建物から不自然に伸びてきた、炎の螺旋が映る。

 見覚えのある形状の、それが凄まじい勢いで伸びてくる。


 その炎は、まるで人の顔のように揺らめきながら、恨めそうに何を叫んでいるかのようにも見えた。

 勘違いでなければ、でたらめなことに。

 その炎はどことなく、例の大男の顔と似た面影をもっているように思えた。

 消えかけだったアイツの意思が、その炎の中に宿って、俺たちを焼き尽くそうとしているかのように思えた。


「嬢ちゃんらぁ! 走れええッ!」


 どのみちもう、手札はない。

 本当に船長さんが信用できるか、迷っている暇なんてない。

 三人の意思も統一できなかったが、どうせ考えは同じなはずだった。

 俺も、ノエルも、疑っていたアーネスも、大人たちの方へ走った。


 ――そのうちの三人が、それぞれ俺たちに向けて走りこんだ。

 それと同時に、背筋が凍りつくような感覚を覚えた。

 まさかとは思うが――!


「船長ォ! やりますか!!?」


 目の前の大人たちから、そんな声が聞こえた瞬間、

 ――間違えた。と思った。

 何故なら彼らは、その腰から獲物を抜いていたからだ。

 人を殺すことにしか使えないはずの獲物を、一斉に抜いていたからだ。

 白銀に光るサーベルを、その両手に握りこんでいたからだ。


「いいぞ! やれいッ!!」


 今更、進路を変えることもできない。

 このまま――殺されると思った。


「ああ……あ?」


 でも、何か様子が違った。

 彼らは一斉に「イエッサー!!」と叫び。


 ――カァアンッ!!


 とサーベルを、そのまま両手で打ち合わせていた。

 力強く金音を響かせながら、大きく息を吸っていた。

 それはもう、コォオッと音が響くほどに、強く強く口先を細めて……


 ――そのまま、解放した。


「「「すぐさま歌え果敢海歌かかんかいかッ!!」」」


 空気を震わすほどの大音量で、港に男たちの号令が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ