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093 「まるで夢から覚める瞬間」

それは、まるで夢から覚める瞬間のようであった。

彼女は、そこが本の中であることを、何より直感で理解する。

彼女と、アリスの乗った車は、石造りの建物の前に止まっていた。

彼女と、アリスは車から降りる。

夜ではない。

頭上に広がる青い空は、人工のものとは思えなかった。

そして、あたりを覆う空気や色彩は、あるものを彼女に呼び覚まさせる。

それは、彼女が子供たちを産んだ島の、記憶であった。

はっきりとした根拠があるわけでは、もちろんない。

彼女の理性は疑いを捨ててはいなかったが、こころの奥では確信に近いものとなっていた。

アリスは、アサルトライフルを構え、油断なくあたりを見回っているが。

彼女は、そこがとても平和でのどかな場所のように、思える。

彼女は、石造りの建物を見上げた。

中世の西欧で造られた教会であるかのような、少し荘厳な感じのする建物である。

車は、その建物の前にある広場に、止まっていた。

あたりは森に囲まれており、見晴らしはきかない。


いくつかの可能性。

彼女とアリスが気を失っている間に、車ごとここへ連れてこられた。

そうした可能性は、現実性を持ちそうにない。

道はあるが、舗装されているでもなく、車が通った跡もなかった。


彼女は、大きく伸びをする。

ひとの気配はなく、どこかから監視されているふうでもない。

おそらく、アリスも同じ判断なのだろう。

彼女は、思わずこころの中に浮かんだことを、口にする。


「平和だね」


その言葉を、待っていたかのように。

落雷のような、轟音が轟く。

アリスは、皮肉な笑みを浮かべた。


「はじまったな」


彼女たちは車に乗り、音がしたほうへと向かう。


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