032 「セイバー・オブ・ブラック」
わたしは無造作にトラップの仕込まれたゾーンに踏み込む。
突然。
光が炸裂した。
無数に煌めくガラスの破片が、撒き散らされたように。
そして。
黒と黄金の竜が、姿を現す。
夜の闇がごとき漆黒の鱗に覆われた身体に、黄金の竜巻のような金色の鱗が巻き付いている。
そして、夜の果てから巻き起こるような紫の朝焼けを思わせる翼を、大きく開いていた。
明けの明星のように輝く瞳で、黒と黄金の竜はわたしたちを見下ろしている。
美しい。
とても、美しい竜だ。
>まったく、暗黒竜のトラップを踏むたあ、なんて馬鹿だよ
>あらそう。
わたしは、わたしのモンスターカードを取り出すと叫ぶ。
>血の契約に基づき汝を召喚する、セイバー・オブ・ブラック。
モーンダンジョンの世界では、モンスターカードを使ってモンスターを呼び出すことができる。
わたしたちは呼び出したモンスターを使役することもできるし、わたしたち自身がそのモンスターに変化することもできた。
わたしは後者を選択し、わたし自身が漆黒の剣士となる。
黒い革の鎧を身につけ、手足と顔には黒い包帯を巻きつけ、黒曜石のように輝く剣を手にし。
わたしは、竜に向き合う。
わたしの後ろで、男が叫ぶ。
>あんたあ、まさか
そのとき、黒と黄金の竜は息を吸い込む。
攻撃の予備動作だ。
男は慌ててモンスターカードをとりだす。
>血の契約に基づき汝を召喚する、キング・オブ・ヴァンパイア
男は漆黒のマントに身を包んだ、吸血鬼の王へ変化する。
かなり高位のモンスターだ。
わたしたちは、モーンダンジョンを訪れるとデフォルトのカードを得ることができる。しかしそれは、ゴブリンやオークのような低位のモンスターだ。
ダンジョンの中でモンスターを倒すことにより、そのモンスターをカードに変え手に入れられる。
キング・オブ・ヴァンパイア。
不死身であり、強力な魔力を持つモンスターは無敵に近い。
それでも。
それでもなお、目の前の暗黒竜が繰り出す攻撃は恐るべきものであった。
黒と黄金の竜は雄叫びを上げると、息を吐く。
ドラゴンブレス。
それは全てを焼き尽くす灼熱の焔。
あたりは深紅の暴風に埋め尽くされた。




