119 「最後の舞台の特等席」
パイロンは、少し疲れた顔をして言った。
「一応言っておくけれども」
パイロンは、わたしのほうを向いて、言葉を重ねる。
「道化の提案を受け入れて行動を決めるのは、あまり良識的な判断とは言えないね」
わたしは、嘲笑をパイロンに返す。
「一応、言っとくけど」
わたしは、挑むようにパイロンを、睨んだ。
「わたしたちは子供だから、良識なんてしらない。そんなものに振り回されて後悔する気もない」
パイロンは、肩を竦めた。
「まあ、君たちはそれでいいのかも知れないが、そのカードを発動するにはエリカの協力も必要なんだろう」
パイロンは、エリカのほうを見る。
「あんたは、おとななんだから、相応の判断をするよな」
「もちろん」
エリカは、自信たっぷりの顔をして、答えた。
「そのカードの発動に、協力するわ」
その言葉に血相を変えたのは、日出男だった。
「エリカ様、我々はまだ戦時下にあります、今はそのような」
「戦時下にあるからこそよ」
エリカは、厳しい口調で日出男に答える。
「今は大アルカナの使い手がひとりでも多くほしい。パイロンは信用できないのだから、リズとリサを分離することには、戦術的に大きな意味があるわ」
その言葉に、パイロンは少し苦笑し、日出男は顔をしかめる。
「せめて、一度ドクター・ディーに相談なさってから判断されては」
「日出男」
エリカは、剥き出しの刃のように、鋭い口調で言った。
「わたしに提言するなとは言わない。けれど、今それ以上言葉を重ねるなら、不敬と見なす」
日出男は、蒼ざめた顔で、膝をついた。
「御意のままに」
こわい。
エリカこわいよ。
まあ、エリカは本気で一国の宰相のつもりなんだろうと思う。
パイロンは、せせら笑った。
「あんたもガキの仲間入りとはな、エリカ」
エリカは冷たい目でパイロンを睨んだが、何も言わなかった。
わたしは、沙羅のほうを見る。
彼女は、ひどく蒼ざめた顔をして、わたしたちを見ていた。
わたしは、彼女に微笑みかける。
「大丈夫だよ、わたしたちを信じて」
沙羅は、わたしのなんの根拠もない確信をどう思ったかはともかくとして、覚悟を決めた顔をしている。
「いいよ」
沙羅は、血の気のひいた顔で、でも、しっかりと言った。
「あなたたちの、好きなようにやりなさい」
わたしは、にっこり微笑むと、道化のほうを向く。
「さあ、あんたの用意した最後の舞台の特等席へ、案内しなよ。ティル・オイレンシュピーゲル」




