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29 カインの告白

 カインに引き摺られるように、王宮の中を歩く。


 歩きながら、随所に幼い頃の記憶が蘇る。


 こうして見ると記憶にある王宮とあまり内装は変わっていないようだ。


 この先は確か両親の寝室だったはずだが、そちらへ向かっているのだろうか。


 やはり両親の寝室だった部屋の扉をカインは開けた。


 そこには以前とは違うベッドが置かれ、その中にグレイが横たわっていた。


 グレイは病気なのか?


 ベットの中のグレイはやつれて昔の面影はまったくなかった。


 顔はシワだらけでまるで百歳近い老人のようだ。


 ベッドに近づく前にカインは僕の髪の色を母上と同じピンクブロンドに変えた。


 そして僕を連れてグレイの枕元に立つ。


「父上。マリエル様をお連れしました」


 その声にグレイはうっすらと目を開けると僕の顔を見て目を見開いた。


「…ああ、マリエル。…来てくれたのか…」


 そう言ってはらはらと涙を流している。


 僕を母上と勘違いしているのか?


 母上が死んで十三年も経っているのに記憶が混同しているのだろうか?


「さぁ、父上。薬を飲んでください」


 カインはグレイの体を起こすとグラスを手渡した。


 グレイが震える手でグラスを持ち中の液体を飲むのを見届けるとボソリと呟いた。


「あの日、マリエル様達に飲ませたのと同じ薬ですよ」


 今、何と言った?


 驚いてカインの顔を見ると冷ややかな目でグレイを見つめている。


 すると、グレイの手からグラスが滑り落ち、布団の上に液体をぶちまける。


 グレイはもがき苦しみながら喉を掻きむしるとそのまま後ろに倒れた。


 グレイの口の端から赤い血が流れ落ち、喉を掻きむしっていた手がバタリとベッドの上に落ちた。


 既にこと切れているのは明白だった。


 見開いたままのグレイの瞼をカインはそっと閉じさせた。


「カイン! 何故実の父親であるグレイを殺した!」


 カインはグレイから目を逸らさず淡々と告げる。


「私が手を下さなくても、もう長くはなかったよ。これ以上苦しむ事がないようにしただけさ。‥‥それに母上の復讐の意味もあったかな」


 母上ってカインの母親の事か?


 カインはそれほどまでにグレイを憎んでいたのだろうか。


「お前も聞いた事はあるだろう? 私の母上とお前の父親が婚約寸前だった事を」


 確かに父さんから聞いた事がある。


 コクンと頷くとカインは更に話を続けた。


「母上は嫁いできた当初はその話は知らなかったそうだ。まだそんなにこの国に馴染んでなかったし、すぐに妊娠したため社交から遠ざかったからな」


 カインは一旦、言葉を切ると布団の上のグラスをサイドテーブルに戻す。


「ところが出産後、社交に戻るとお喋りな連中や、我が家の足を引っ張りたい家の者が有る事無い事吹き込んだそうだ。王妃はどちらとも肉体関係があっただの、今でも宰相と関係が続いてるだの。おまけに父上は王妃に心酔していたからな。母上がその話を信じるには充分だったよ」


「それをどうしてカインは知ってるんだ?」


 小さい頃なら大人達の言うことは理解出来なかったはずだ。


「母上の死後、母上に仕えていた侍女が教えてくれたよ。彼女は母上が幼い頃からずっと側にいた。母上が死ぬと後を追うように亡くなったよ。母上を守れなかったと悔やみながらね」


 カインは一旦言葉を切ると僕を見つめた。


「父上は母上が妊娠した途端、閨を別にしたそうだ。私の母上を子供を産む道具くらいにしか思ってなかった。母上に良く言われたよ。『あなたなんか産まなければ良かった』『あなたが女なら、後継ぎを産むまで相手をして貰えたのに』ってね」


 カインはずっとそんな言葉を実の母親から聞かされて育ったのだろうか。あまりにも酷すぎる。


 いや、元はと言えば僕の両親が無理矢理婚姻をしたから、こうなってしまったのか。


 そう言えばさっきカインは『マリエル様達に飲ませたのと同じ薬』だと言った。


 と、言う事は…。 


「僕の両親に毒を飲ませたのはカインなのか!?」


 カインに詰め寄るとフッと笑って答えた。


「ああ。あの日、二人共何の警戒もせず僕を迎えてくれたよ。そこで闇魔法で操りお茶会室に連れて行った。目の前で毒を入れたお茶を何の躊躇いもなく飲んだよ」


 カインも闇魔法を使えたのか。


 だけど何故カインが僕の両親を殺すんだ?


「どうしてお前が‥‥」


 怒りで声を絞り出すのがやっとだった。


「父上への復讐だよ。父上は国王を排除してお前の母親を手に入れるつもりだった。私の母上は王妃への恨みも募らせてたよ。『あの女さえいなければ』ってね。私の体は母上からの呪詛でまみれているんだ」


 カインは僕の正面に立つと、僕の目を覗き込んだ。


「聞きたい事はもう終わりかい? 思い残す事がないのなら、そろそろ終わりにしようか」


 ああ、もうここまでなんだな。

 

 僕は死を覚悟した。


 

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