27 王宮(カイン視点)
馬を走らせるとやがて王宮へと帰り着いた。
シェリルを連れてそのまま父上の寝室へと向かう。
父上はベッドの中で目を閉じていたが、私達が入ってきた事に気づいて目を開けた。
長く寝たきりになっているせいか、その頬は痩せこけ、目も落ち窪んだようになっている。
「…カインか。…一緒にいるのは‥‥アネット? いや、まさか‥‥」
父上の口から亡くなった父上の妹の名前が発せられる。
どうやら父上もシェリルが誰なのか気づいたようだ。
「ええ。父上が昔捨てさせたシェリルですよ。懐かしいでしょう?」
ベットの側に立ちシェリルを父上の方に押しやった。
シェリルは戸惑いながらも、父上の顔をじっと見ている。
「お前の母親の兄だよ。つまり私とは従兄妹になる。最も何処の馬の骨ともわからない男の娘など従兄妹とは認めないがね」
「カイン! 何を‥‥」
父上が私をたしなめようとするが、今更取り繕ったところで何の意味もない。
「父上だってそうでしょう? 他の貴族と婚姻させようとした矢先に、未婚で子供を産んだ叔母上を酷く罵っていたではないですか。挙げ句に叔母が亡くなると、すぐに侍女に命じて、シェリルを何処かに捨てさせたくせに、何を今更」
シェリルは自分の母親の話に驚きつつも、黙って私達の話を聞いていた。
自分がどうして捨てられたのかが納得できたのだろう。
やがてシェリルが意を決したように口を開く。
「このペンダントには両親の名前が刻んであるのですが、ゼフェルという方はご存知ないですか?」
シェリルが服の下からペンダントを覗かせるが、それはシェリルが産まれた時に叔母上が作らせていたペンダントだった。
シェリルが居なくなってから、見当たらないとと思っていたが、まさか彼女が持っていたとは…。
おそらく世話をさせていた侍女がシェリルを捨てに行く際にこっそりと持たせた物だろう。
だが、『ゼフェル』という名前に聞き覚えはない。父上も同じらしく首を横に振る。
「アネットはどんなに問い詰めても相手の名前は言わなかった。大体、この国に赤毛の人間はいない。…だが、そなたは私の姪である事は間違いない。今まで本当に済まなかった…」
はらはらと涙を流しながら、シェリルに許しを請うと、父上はゆっくりと目を閉じた。
また意識をなくして眠りについたようだ。
シェリルに会えた事で気が緩んだのだろう。
「さぁ、もういいだろう」
シェリルを連れて私の部屋へと向かった。
侍女にお茶の準備をさせて下がらせる。
「フェリクスが来るまでお茶でもどうだ? 別に毒なんか入ってないぞ」
私が飲んで見せるとシェリルも恐る恐るお茶に手を付けた。
私が飲んだふりをしていたのに気づかなかったようだ。
私はお茶を飲むふりをしながらこっそりとシェリルを観察した。
真っ赤な髪の色をしているが、顔立ちはやはり叔母上にそっくりだ。
途端に幼かった頃の記憶が甦る。
母親に邪険にされて泣いていた私を、叔母上は何度も優しく接してくれた。
(この女を汚してやったら、フェリクスはどうするかな?)
ふと、そんな邪な考えが頭をよぎる。
シェリルの横に座ると、彼女は警戒したように身体を強張らせた。
「どうだ? フェリクスなんか忘れて私の物にならないか?」
そうして無理やりシェリルの腕を掴んだ時、部屋の扉が開いた。




