25 略奪
シェリルに出会って、僕の人生はバラ色に変化した。
今まで王位を奪還するためだけに生きてきたけど、もちろんそれが嫌ではないんだけど、何か物足りなさを感じていた。
そんな僕に変化を与えてくれるシェリル。
彼女といると毎日が楽しくって仕方がない。
けれど…。
あと数日で僕は王宮へ向かう。
グレイとカインに対峙するために。
援軍は整ったと聞いている。
コンラッドさんも味方になってくれるという。
でも、もしかしたら返り討ちにあうかもしれない。
生きて帰れる保証はどこにもない。
そんな僕がシェリルに愛を囁ける資格があるのだろうか?
いつものようにシェリルとの待ち合わせ場所に向かった。
いよいよ明日は僕の十八回目の誕生日。
もしかしたら、シェリルと会うのはこれが最後かもしれないと思いながら…。
待ち合わせ場所に近づくにつれ、何かが変だと思い始めた。
いつもなら先に来ているはずのシェリルの姿が見えてくるはずなのに、その姿は何処にもない。
珍しいな。遅れて来るのだろうか?
そう思った矢先、孤児院の方が騒がしい事に気づいた。
「赤毛の子が‥‥」
「とうとう、こんな所まで‥‥」
そんな言葉がとぎれとぎれに聞こえる。
何の話だろうか。
何か嫌な予感がする。
急いで騒ぎの方へと走っていった。
何やら人だかりがしてる。
すぐ近くにいた男の人に尋ねた。
「何かあったんですか?」
男の人は振り向きざま僕を見て
「うわっ! こんなところにも美人がいる。お嬢さん、すぐに隠れるんだ。王太子の美女狩りだよ。早く逃げな!」
その人は僕を女性だと勘違いしたらしく、必死に逃げるようにと訴えてくる。
王太子の美女狩り?
何だ、それ?
まさか? シェリルが?
僕は男の人が止めるのも聞かず、人混みを押し分けて前に出た。
そこには背の高い男に腕を掴まれたシェリルの姿があった。
シェリルの腕を掴んでいるあの男は‥‥
カインか?
「シェリル!」
僕の呼びかけに二人が同時にこちらを向く。
「フェル!」
シェリルがこちらに来ようとするが、カインに腕を引っ張られよろめく。
その体をカインが逃さないとばかりに抱きとめる。
「もしかしてフェリクスか。久しぶりだな。‥‥何だ? もしかしてこの女はお前の恋人か?」
カインもひと目で僕とわかったようだ。
ニヤリと笑うと空いている方の手を僕の方に差し出す。
その手が光ったかと思うと僕の髪の色が元に戻った。
「‥‥フェルの髪が。えっ?」
シェリルが僕の髪の色を見て驚いている。
自分から打ち明けたかったのに、こんな風に他人に暴露されて非常に腹立たしい。
「何だ。恋人なのに知らなかったのか? あいつは元王子だ」
「フェルが元王子?」
カインの暴露に驚きながらも、シェリルはその腕から逃れようとするがびくともしない。
周りにいる人達も僕が元王子と知ってざわざわとし始める。
僕はカインへと詰め寄ろうとしたが、カインの側近が剣を構えていて迂闊に近寄れない。
下手に魔力を使えば、周りにいる人達にも被害が及ぶのは目に見えている。
「お前が用があるのは僕だろう? シェリルを離してくれ!」
僕の訴えにカインはなおもニヤニヤと笑うだけだ。
「お前の恋人なら、尚更返すわけにはいかないな。王宮でお前の代わりに可愛がってやるよ」
「‥‥嫌です! 離してください!」
シェリルが抵抗すると、カインが何やらシェリルに囁いた。
その途端、あれだけ抵抗していたシェリルがすっと力を抜いた。
一体何を言われたんだ?
「シェリル?」
僕が呼びかけてもシェリルは俯いたまま、僕を見ようとしない。
「返して欲しければ王宮まで来い! 最も無事に辿り着けるかな?」
そう言い残すとカインはシェリルと馬に跨がり、側近と共に王宮へと走り去った。
すぐに後を追いかけようとした僕の腕を誰かが掴んだ。
「よせ! 罠に決まってる。後一日辛抱するんだ!」
いつの間にか側に来ていた兄さんに止められる。
「でも、兄さん! シェリルが!」
「女一人の為に、この十三年を無駄にする気か!」
そう言われてはっとした。
この十三年を思うと、ここで躓くわけにはいかないと思う。
だけど‥‥。
「あと少ししたら父さんも援軍を連れて帰ってくる。お前一人を王宮に向かわせるわけにはいかないんだ。とりあえず家に帰ろう」
兄さんに促されて家に向かう。
本当にこれでいいんだろうか。
シェリル。
不甲斐ない僕でごめん。




