24 出会い(シェリル視点)
いつものように、お昼寝をする子供達を寝かしつけたら、ベスに呼び止められた。
「ねぇ、トールを見なかった?」
「えっ、見てないわ。いないの?」
「そうなの。さっきから探すけどどこにも見当たらないの。手伝って貰おうと思ったのに‥‥」
トールは一昨年位からここに来た十歳の男の子だ。
母親と二人暮らしだったが、その母親が他所へ働きに出るというので預けていった。
「生活の基盤が出来たら迎えに来ます」
そう言って去っていったきり、未だに連絡がない。
そんな風に置いていかれた子供はもう何人も見てきた。
彼らも最初のうちは家族が迎えに来るのを待っていたけれど、やがて諦めていった。
まだ小さいのに、どこか人生を達観したような様は見ていて辛いものがある。
それでもトールはやんちゃで活発な子供だった。明るいのはいいけれど、少々度が過ぎるのも困りものだ。
そう言えば、昨日‥‥。
「もしかして、森に行ったんじゃ‥‥」
昨日、他の男の子と何やら話していたっけ。
魔獣が怖いか怖くないかで言い争っていたような気がする。
「まさか? いくらなんでも‥‥」
ベスは否定するけど、絶対とは限らない。
「私、探しに行って来る」
「一人じゃ、駄目よ。シェリル!」
ベスが止めるのを聞かずに私は孤児院を飛び出した。
この孤児院は王都の外れだから森に近い場所にある。
走っていくと数分で森の中に入った。
「トール! どこにいるの!」
声の限りに叫ぶけれど返事がない。
諦めて帰ろうとした時、前方の茂みがガサガサッと揺れた。
「トール?」
けれどそこに現れたのは一匹の大きなオークだった。
咄嗟に逃げようとしたけど、足が竦んで動けなかった。
オークは徐々に詰め寄ってくる。
「キャーッ!」
飛びかかってくるオークを避けようと前に出した手のひらが光った。はずみで後ろに倒れ込んでしまう。
あれ? オークが倒れてる?
目の前には血を流したオークが倒れていた。
何がどうなったのかさっぱりわからない。
「大丈夫ですか?」
突然、声を掛けられてびっくりして振り向くと綺麗な男の人が立っていた。
女の人かなと思ったけど、どうやら男の人みたい。大きな犬(?)を連れている。
怪我は?と聞かれて、多分って答える。
なんかドキドキして上手く答えられない。
オークを私が倒したと言われてもピンとこなかった。
それよりも、私がゴダール国の王族?
彼が言うにはゴダール国の王族は私のような赤い髪をしているらしい。
‥‥どうしよう。
ここで私が貴族の娘かもしれないって言った方がいいのかしら?
でも、王族の血を引いているなら尚更、私は邪魔な存在かもしれない。
私は首を横に振って否定した。
出会ったばかりの彼に打ち明ける事ではないと思ったから…。
手を差し伸べられて初めて自分が座り込んだままなのに気づいた。
凄い! 王子様みたい。
彼の佇まいが凄く素敵で物語に出てくる王子様ってこんな感じかしらなんて余計な事考えちゃった。
ドキドキしながら手を取って立ち上がろうとした途端、
「痛っ!」
足首に痛みが走る。
どうやら捻挫したみたい。
肩を支えて貰って歩こうと思ったのに、何故かお姫様抱っこされている。
やだ! 私きっと重たいと思うんだけど。
身じろぎしても降ろして貰えない。
犬(?)が何か言ってるみたいなんだけど、気のせいかしら?
彼はなんでもない事のように私を軽々と抱えて歩き出す。
私も諦めて大人しくされるままだけど、心臓がドキドキしてうるさいくらい。孤児院があまり遠くなくて良かったわ。
それなのに‥‥。
いざ、孤児院の前に着いたらもっと距離があったらいいのに、と思ってしまったの。
足の痛みはフェルさんがヒールで治してくれたけど、だったら最初から治してくれても良かったのに‥‥。
思わずフェルさんをジト目で見てしまった私は悪くないと思うわ。
彼もバツの悪そうな顔をしてたから、最初から気づいてたと思うの。
それでもフェルさんと離れがたくていつの間にか彼の服を掴んでた。
「また会えるかな?」
そう聞かれて、思わず
「はい、もちろん!」
って食い気味に答えちゃった。
もう恥ずかしくって顔から火が出そう。
それでも嬉しそうに笑ってくれた笑顔が眩しくってドキドキが止まらない。
私、フェルさんの事、好きになっちゃったのかしら?




