23 出会い
王都を離れて約十三年、ようやく帰ってくる事ができた。
僕の十八歳の誕生日まであとひと月に迫っていた。
小高い丘の上から王都の町並みを見下ろす。
こうして町並みを見るのは初めてだから、正直懐かしいとかいう感情はない。
それでもなんだかノスタルジックな気分になってくる。
『そろそろ戻るか』
「そうだね」
シオンと森の中を歩いていると、
「キャーッ!」
と女性の甲高い叫び声が聞こえた。
「何だ?」
声のした方へと走っていく。
前方の木立の陰に赤いものが見えた。
赤い‥‥髪?
近づくと確かに赤い髪の女の人が座り込んでいる。
その数歩先に、オークの死骸があった。
この人が倒したんだろうか?
「大丈夫ですか?」
声をかけると、その女性はびっくりしたように振り返った。
いきなり僕が現れたからか、大きく目を見開いている。
年は僕と同じくらいかな。
赤い髪がフワフワで柔かそうだ。
(あ、かわいい)
いや、そんな事よりこの人が怪我してないか確かめなきゃ。
「怪我はないですか?」
「えっ。‥‥多分…」
「このオークは君が倒したの?」
僕の問い掛けに彼女はブルブルと首を振る。
「わからないわ。急にオークが出てきて襲われそうになったから、手を前に出したら何か光ったみたいになって。‥‥気が付いたらオークが倒れてたの」
『このオーク、ウインドカッターで切られたみたいだぞ』
オークの死骸を調べていたシオンが教えてくれた。
「ここには君しかいなかったんだよね?」
彼女はコクリと頷く。
「君はゴダール国の人?」
「えっ、ゴダール国?」
「だって髪の毛が赤いから。ゴダール国の王族が赤い髪をしてるって聞いたよ」
彼女はちょっと黙っていたがやがて首を横に振った。
「私は捨て子なんです。この先にある孤児院に捨てられていたの。ゴダール国の王族じゃないと思うわ」
確かに彼女の着ている服は小綺麗だけど粗末なものだった。
「そっか。でも魔力はあるみたいだね」
「えっ、私が?」
「だって、どう考えてもオークを倒したのは君しかいないよ」
僕の言葉に彼女は半信半疑みたいだ。
自分の手を不思議そうに見つめている。
「立てる? 孤児院まで送るよ」
彼女は僕が差し出した手に掴まって立ち上がろうとしたが
「痛っ」
と、また座り込んでしまう。
どうやら足を捻ったみたいで、ちょっと腫れている。
「歩けないみたいだね。僕が連れてってあげるよ」
いわゆるお姫様抱っこで抱き上げると、顔を真っ赤にしている。
意外と軽い。それにいい匂いがする。
『おい、何やってるんだよ。ヒールで治してやればいいだろ』
シオンが文句を言ってるけど、無視して歩き出す。
彼女も最初は恥ずかしがって少し身をよじっていたが、やがて諦めて大人しくされるままになった。
「そういえば、名前を言ってなかったね。僕はフェル。一緒にいるのはシオンたよ。君の名前は?」
「私はシェリルって言います」
「どうして森に来たの?」
「孤児院の男の子がいなくなって、どうやら森に行ったらしいって聞いて探しに来たの。だけど、どうしても見つからなくて、帰ろうとしたらオークが‥‥」
「そっか。ちゃんと孤児院に帰ってるといいね」
もっと彼女と一緒にいたいなと思ったけど、案外早く孤児院に着いた。
彼女を降ろす時にヒールをかける。
なんかちょっと恨みがましい目をされたのは気のせいかな。
「それじゃ」
と、別れようとした時、くいっと彼女に上着の裾を掴まれた。
彼女も無意識だったみたいで、慌てて手を離し顔を真っ赤に染めている。
「‥‥ごめんなさい。私ったら‥‥」
その様子が可愛くて思わず抱きしめそうになったけど、ぐっとこらえた。
流石に初対面でそれはないよね。
「あのさ、また会えるかな?」
偶然を装ってここに来ようかと思ったけど、やっぱりちゃんと約束したい。
「はい、もちろん!」
シェリルは勢いよく言った後でまた顔を真っ赤にしてる。
なんだろう、この気持ち。
今までも、あちこちで女の子に出会ってきたけど、こんなに別れるのが寂しいと思う事はなかった。
彼女の事を好きになっちゃったのかな。
まだよくわからないけど、また会いたいっていう気持ちは嘘じゃない。
これをきっかけに僕達は逢瀬を重ねていった。




