22 辺境伯領
王都に近づいていたはずなのに、何故かまた辺境伯領に来ている。
何でも父さんの部下、つまり騎士団員の実家らしい。
その人はまだ王都で騎士団員をやっているはずらしい、と父さんは言うけれど、もう十年以上会ってないからわからないよね。
しぱらくはこの町外れで生活する事になった。
さっそく冒険者ギルドに寄って依頼を確認してから森へ向かった。
シオンも久しぶりの討伐に張り切ってる。
今日の依頼はオークの討伐だ。
最近、この辺りの森に出没するようになったらしい。
シオンがいるから楽勝だな。
「シオン、頼んだよ」
『俺の手にかかったら赤子の手をひねるようなもんさ。任せとけ』
頼もしいけど、やりすぎて素材回収出来なくなるのだけはやめてくれよ。
以前、ファイアボールを出したはいいけど、真っ黒焦げにしてくれたからな。
張り切るのはいいけど少しは手加減てものを知ってほしい。
『そろそろ近いぞ』
シオンに言われて警戒を強める。
突然、前方の茂みがガサガサっと揺れたと思ったら、オークが2匹飛び出した。
1匹はシオン、もう1匹は僕を目掛けてくる。素早くウインドカッターをお見舞いする。
良かった。一撃で仕留められた。
シオンは、と見ると既に倒した後でお食事タイムに入っていた。
そんなにお腹空いてたのか?
素材まで、食べるなよ。
オークを解体して素材を取ったあと、食料用にと肉を取る。
解体も随分手慣れてきた。
不要な部位は土の中に埋めて痕跡を消した後、更に奥へと進んで行く。
しばらく歩き回ったけど、他のオークには出会わなかった。
「もうオークはいないみたいだね。帰るか」
冒険者ギルドに寄ってから幾つかの素材を買い取ってもらい、家に帰った。
まだ、誰も帰ってないと思っていたのに、先に父さんが帰っていた。
「あれ、父さんいたの? お客様?」
家にいたのは父さんだけじゃなかった。
父さんより少し若い男の人がいた。
着ている服からすると貴族かな。
「おお、これはフェリクス王子。ご無事でしたか」
僕の前で跪かれる。
こんな対応を受けるのは久しぶりすぎてワタワタする。
「今は王子じゃないですよ。頭を上げてください」
「とんでもない。私にはあの宰相が王だなんて認められません」
なおも頭を上げない人を無理矢理立たせて、話を聞くためにテーブルへと移動する。
「自己紹介が遅れました。私はここで領主をしているレオナルド・パウリーと申します」
「今はフェルと名乗ってます。よろしくお願いします」
レオナルドさんは、懐かしいものを見るような目で僕を見つめた。
「本当に王妃様にそっくりですね。髪の色が一緒だったら瓜二つだ」
そんなに似てるかな。
別々に見るからそう思えるのであって、実際に並んだらそうでもないって事があるよね。
「レオナルド。それで王都はどうなってる?」
「王都はグレイがほぼ牛耳ってます。多少反発していた貴族がグレイの言いなりになってからは、対立する貴族は近寄りもしません。グレイが貴族達を洗脳しているという噂でもちきりですよ」
ああ、やっぱりグレイは闇魔法を使っているんだな。
「レオナルドもどちらかといえば、対立している方だったか?」
「はい。ですからグレイとはふたりきりにならないようにしてきました。それから少し予定より早かったけれど、父の跡を継ぐために五年前にここに戻って来たんです」
レオナルドさんは僕を見据えて言った。
「大半の貴族はフェリクス王子が十八歳になって、王都に戻ってくる日を今か今かと待ち望んでいます。どうか必ず王位を取り戻してください」
そんな期待を込めた目で見つめられると、なんかいたたまれなくなっちゃうな。
「僕にどこまでできるかわからないけど、頑張ります」
この世界に転生してつくづく思うよ。
上に立つ者がいかに大変かって事が。
王族なんて、皆に傅かれて贅沢三昧できていいなって思ってたけど、国を治めるって大変なんだな。
独裁も駄目だけど、かといって家臣の言いなりになっても駄目だしね。
王位を取り戻しても、僕はちゃんとやって行けるんだろうか。
レオナルドさんはしばらく父さんと話をしたあと帰っていった。
僕が十八歳になるまであと一年だ。




