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20 オーギュの伝言

『おいっ! いつまでやってるんだ!』


 シオンがお姉さんの腕に噛み付くと、ようやく僕を離してくれた。


 え、シオンに噛み付かれて大丈夫なのか?


『ちょっと! フェンリルの分際で何するのよ!』


 お姉さんがシオンに噛み付かれたままの腕をブンと振ると、シオンがふっ飛ばされた。


 シオンはくるりと一回転して着地する。


 シオンに噛み付かれたはずなのに、血が出るどころか歯型すら残ってない。


 やっぱりただの鳥じゃないな。


『自己紹介が遅れたわね。フェニックスのクレアよ。オーギュに言われて来たの』


 オーギュって、ドラゴンの?


 てか、フェニックスってそんな軽いノリで言っていいのかな。


 おまけに肉食系女子なんて、イメージが崩れる~!


 目をパチクリさせていると、シオンが僕とクレアの間に割り込んで来た。


『それで一体何の用だ』


『あんたじゃなくて、フェリクスに用があるのよ!』


 何か一触即発って感じなんだけど、この二人(?)相性悪いのかな?


 どうでもいいけど、そんな睨み合いはやめてほしい。


 僕はシオンをどうどうと落ち着かせてからクレアに尋ねた。


「それで、オーギュは何て?」


『伝言を言付かっただけよ。闇魔法は使い手が死んだら解除されるってね。但し、使い手は一人とは限らない』


 一人とは限らない?


 もしかしてグレイだけじゃなく、カインも闇魔法を使うって事?


 使い手が死んだら解除されるという事は…。


 つまり、グレイを殺せという事か?


 最悪の場合はカインも…。


 殺すんじゃなくて、あわよくば幽閉するだけで済むかもしれないと思っていた僕は甘いんだろうか?


 僕に二人を手にかける事が出来るだろうか。


『そんなに悩んじゃって。やっぱりかわいいわ。食べちゃいたい』


 クレアが豊満な胸を僕の顔に押し付けてくる。


 くっ、苦しい、窒息する~。


 再びシオンが噛み付こうとすると、パッと鳥の姿に戻って飛び上がった。


『じゃあね~。確かに伝えたわよ』


 そう言い残すとさっさと飛び去っていった。


 辺りはキラキラとした残滓で光っている。

 

 危うく貞操の危機だったよ。


 ちょっと惜しかったかな、とも思ったりしたのはナイショにしとこう。


 それにしても何か嵐みたいな人?だったな。


「何か疲れた。シオン、帰ろうか」


『くそう! あの女、俺のフェリクスになんて事を! 俺だってした事ないのに!』


 え? 今何かおかしなワードがなかった?


 いやいや、聞き間違いに決まってる。


 色んな意味で疲れた僕はそそくさと家路についた。


 その夜、久しぶりにロビンさんから連絡があった。


 通信用の魔石をテーブルの上に置いて皆で話を聞く。


 僕は朝、クレアから聞いた話をロビンさんに伝える。


「闇魔法の使い手が死ぬと解除される、ですか?」


「うん、そう言ってたよ」


 ロビンさんはしばらく黙っていた。


 やがて、また魔石がピカピカと光出してロビンさんの言葉を伝える。


「グレイの祖母に闇魔法を使ったという噂があったのはご存知ですよね」


「ああ。 父さんから聞いた」


「その頃、ある人物の行動が急におかしくなってしまった事があったそうです。けれどグレイの祖母が亡くなった途端、何事もなかったように元に戻ったとの事です」


「えっ? それって…」


「もう古い話ですから、どこまで信憑性があるのかわかりませんが、そのフェニックスの話が本当なら辻褄が合いますね」


 という事は、グレイの祖母は実際に誰かに闇魔法をかけていた事になる。


 そしてグレイの祖母が亡くなった事で元に戻ったという事か。


「グレイだけでなく、カインも闇魔法を使えると言ってるのですね」


「具体的に名前は言わなかったけど、そう捉えてもいいと思う」


「そうですか。…フェリクス王子は二人を討つ覚悟がお有りですか?」


 単刀直入に聞かれ、うっと言葉に詰まる。


 でも、それしかないならやるしかない。


「他に方法がない以上、やるしかないよ」


「そうですか。わかりました」


 ロビンはそう言って通信を切った。


 ふうっとため息をつくと、父さんが真剣な顔をして僕に向き直った。


「フェリクス王子。グレイは私に討たせてください。お願いします」


 深々と頭を下げられてお願いされた。


 今は父親でなく僕の臣下としての対応をしなくてはいけないのだろう。 


 だから僕も『父さん』ではなく名前で呼ぶ。


「ジェイク、どうして?」


「友人として、そして彼を止められなかった罰として、私が引導を渡してやりたいのです」


 今決めたのではなく、おそらくこの十年ずっと考えていたんだろう。


 ジェイクの決意のこもった顔に僕はただ頷くしかなかった。

 


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