18 カインの悪行
王都の町でさまざまな店が立ち並ぶ中を、如何にも高貴な人物だとわかる集団が歩いている。
この国の今の王太子、カインが護衛騎士や側近を伴って歩いている。
すれ違う人々は難癖をつけられないようにと、そそくさと道をあける。
買い物に来たのか、と思えばそうでもないようだ。
一体何が目当てなのだろうと、ただ遠巻きに見ていると
「あの女がいいな」
と、一人の娘を指差した。
露店の手伝いをしている十七~八歳位の少女だった。
「はい」
側近の一人が少女に近付き、有無を言わさずに連れ出そうとする。
娘は必死に抵抗するが、力でかなうはずもなく、逃げられない。
父親らしき店主が慌てて
「な、何をされているんですか?」
娘を取り戻そうとすると、護衛騎士の一人が剣を抜き、その喉元に突き付けた。
店主が怯んだすきに娘は無理矢理連れて行かれる。側近がその手に金貨を一枚渡した。
「王宮でしばらく奉公させる」
「そ、そんな! 娘には婚約者が‥‥」
その言葉にカインはクッと笑う。
「待たせておけ。飽きたら返してやる」
そう言い捨てて来た道を戻って行く。
その一連の行動にざわめいていた辺りも、カインが居なくなると同時に元に戻っていった。
ただ一人、泣き崩れる店主を残して。
露店から連れ出された娘は、馬車に乗せられた。泣き喚いて馬車の扉を開けようにもびくともしなかった。
このまま自分はどうなってしまうのか、不安を抱えたまま馬車の中で震えていると、やがて王宮に辿り着いた。
ようやく馬車の扉が開けられ、外に出る事が出来た。逃げようにも周りを騎士で固められ、どうする事も出来ない。
促されるまま、建物の中に足を踏み入れた。
そこは見たこともない位、豪華な造りだった。その絢爛豪華さに恐怖を忘れて見入ってしまった。
やがて、とある部屋の前に来ると中に入るように促される。
そこは浴室だった。
三人の侍女に衣服を脱がされ、湯浴みをさせられる。
その後で、侍女と同じようなお仕着せを身に着けさせられた。
お化粧も施され、何処からどう見ても侍女の一人であった。
「こちらへどうぞ」
一人の年配の侍女に案内され、部屋へと通された。
そこには、テーブルの上に食事の用意がしてあった。
「あ、あの、私は何を」
慌てて娘が侍女に問うと
「こちらで王太子様にお酌をしていただきます」
そう言って扉を閉めて出ていった。
(お酌? それだけでいいの?)
どうしていいか立ち尽くしていると、扉が開いてカインが入って来た。
ビクリとして立ち竦むと、王太子は娘の姿を目で舐め回し、ニヤリと笑った。
「ほう、結構見られるようになったな」
そのまま席に着くとグラスを持ち、娘に向かって差し出した。
「注げ」
娘はビクリと身体を震わせたが、すぐに酒を注ぐのだと判断した。
テーブルの上にあるボトルを手にして、カインの持つグラスへと注ぐ。
だが、緊張しているせいか、プルプルと手が震え、グラスの外へと酒が飛び散った。
「も、申し訳ございません!」
娘はすぐにボトルをテーブルの上に戻し、側にあったナプキンで、酒に濡れたカインの手を拭こうとした。
だが、それよりも早くカインが娘を切りつけていた。
「ギャアッ!」
娘は斬られた手を押さえつけて床に倒れ込む。
「無礼な奴め! 酒も満足に注げないのか!」
カインは床に転がってのたうち回っている娘を更に斬りつける。
「ギャアッ!」
鮮血が娘の身体から吹き出し、辺りの床を真っ赤に染め上げる。
カインはそれを見ながらゆっくりとグラスを傾ける。
「カイン様! 何事ですか!?」
年配の侍女が扉を開けて、惨状を目の当たりにして「ヒッ」と息を呑む。
「この娘を連れて行け! まだ治癒魔法を使えば助かるかもしれんぞ」
カインはそれだけを告げると、部屋から出て行った。




