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15 (カイン視点)

 父上が王位を継いでから六年が過ぎた。


 私ももうじき十八を迎える。


 そうなれば、父上に代わってこの国の王になる事も可能だ。


 だが、まだその時期ではないと自分でもわかっている。


 私にはまだ婚約者が決まっていないため、夜会の度に年頃の娘を持つ貴族達がこぞって娘を連れて挨拶に来る。


 正直、それが鬱陶しくて仕方がない。


 父上からも『早く相手を決めろ』と言われるが、まだそんな気にはなれない。


 私自身、自分がまともな結婚生活を送れるとは到底思えないからだ。


 先日、侍女に髪を梳かせている時の事だった。


 何が引っかかったのか、髪が引っ張られ、「イタッ」と声をあげた。


 侍女は真っ青な顔をして「申し訳ございません」と頭を下げた。


 旗からみれば大した出来事ではないが、何故かその時の私はその侍女が許せなかった。


 私は黙って立ち上がると、頭を下げている侍女を思い切り蹴った。


「キャアッ!」


 蹴られた侍女はその場に倒れ込み、蹴られた箇所を押さえてうずくまっている。


「お、お許しください…」


 泣いて許しを請う姿に身悶えするほどの歓びを感じていた。


 ああ…。


 やはり私はどこか壊れているのだろう。




 私が小さい頃、屋敷で小鳥を飼っていた。


 鳥籠の中の小鳥は可愛くて、よく人に懐いていた。


 鳥籠から出してやると、私の手に乗って来た。


 ふとした拍子に飛び立とうとしたので思わず掴んでしまった。


 小鳥の体温が手に伝わる。


 すると何やら邪な考えが頭をかすめた。


 ギュッと力を入れるとバタバタと暴れる様が面白くて更に締め付けた。


 更に、更に強く…。


 母上が気付いて取り上げなければそのまま締め付けて殺していただろう。


 その時、母上は私が普通ではないとわかったのだろう。


 何か恐ろしい物を見るような目を私に向けた。


 そして母上なりに少しでも邪悪な考えを反らせたかったんだろう。


 剣の訓練をさせ、魔獣を討伐させる事で発散させるようにした。


 その母上も病気がちで寝込むようになった時には、呪詛を吐くようになった。


 父上の心を捉えて離さない王妃。


 王妃が望んだ事ではないにしても、母上にとっては憎い女だった。


「あの女さえいなければ‥‥」


 その言葉は私の全身を覆い尽くした。


 更に何倍にも膨れ上がり、王妃だけでなく、フェリクスまでも憎いと思うようになった。

 

 そしてあの日、フェリクスに斬りかかった。


 一太刀で殺してしまうには勿体無かったので、軽く背中を斬りつけてやった。


 人を斬るのはそれが初めてだった。


 魔獣は何度か倒したが、それとは比べようもない位の快感だった。


 もっと遊びたかったのに、逃げられてしまったが…。


 あれから六年、今頃何処へ逃げているのか。


 あの時のフェリクスの顔を思い出す。


 憎らしい位、王妃にそっくりな顔。


 次に会った時には必ず仕留めてやる。


 だが、それよりも誰か人を斬りたくて仕方がない。


 剣で斬りつけた瞬間、血が飛び散る様を見るとゾクゾクする。


 王宮にいる使用人達を斬りたいが、大概が末端貴族の子女なので、後々面倒くさい事になる。


 どうにかならないかと思った時、平民ならば好きなように出来ると思い至った。


 平民の娘を連れて来て、侍女をさせ、粗相をしたと言って斬りつける。

 

 なかなか楽しそうだ。


 いつ王都の町へ繰り出そうかと思案しながら、剣を振る。


 フェリクス。


 待っていろ。


 今度会った時は一撃で仕留めてやる。



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