11 野営
日も傾いてきたので、今日はここで一晩明かす事になった。
流石に徒歩ではこの大きな森は抜けられなかった。
野営に向きそうな場所を探しながら歩くと、少し開けた所に出た。
マジックバッグからテントを出す。
これも魔導具だからボタンを押すと一瞬でテントになる。
おおっ、凄い!
中も割に広くて快適そうだ。
僕と兄さんが集めてきた木切れに父さんが火を着けた。
焚き火の火って何だかいいな。
ずっと見ていられるよ。
『ちょっと行ってくる』
顔を上げて耳をそばだてていたシオンが草むらに飛び込んて行った。
何だ? 狩りにでも行ったのかな。
しばらくすると何かをくわえて戻って来た。
ウサギによく似てるけれど、その頭には一本の角があった。
「ホーンラビットじゃないか」
へえー、これがホーンラビットか。
でも自分と同じ位の大きさのホーンラビットを仕留めるなんて、やっぱり小さくてもフェンリルなんだな。
父さんが捌いてくれて焚き火で焼いて食べた。シオンは生肉の方がいいそうだ。
テントの周りは結界を張ってあるから見張りの必要は無いらしいが、用心のため、父さんはもうしばらく起きていると言うので、僕と兄さんとシオンは先に休む事にする。
僕と兄さんの間にシオンが横たわる。
抱き寄せるとモフモフで暖かい。
しばらくシオンのモフモフに和んでいると兄さんがためらいがちに口を開く。
「なぁ、本当に良かったのか?」
兄さんの質問の意味がわからずきょとんとする。
「何が?」
「僕と父さんと家族になるって事がさ」
言われて、あぁと納得する。
あの小屋を出発してから、兄さんはずっと一歩引いたような態度だった。
やはり僕が王族という事で、どこか遠慮している部分があるんだろう。
そんな事気にしなくてもいいのに。
確かに父上も母上も優しかった。
でも顔を合わせるのは食事の時だけ。
偶に一緒にお茶を飲む時もあったけれど、二人共、公務で忙しくてそんなに遊んで貰った事もない。
夜も僕は一人で別の部屋だった。
乳母や侍女が側に控えていたから、完全な一人きりではないけど…。
高貴な身分と引き換えに孤独を押し付けられたみたいだ。
「兄さん、僕はずっと兄弟が欲しかったんだ。それにこうやって誰かと一緒に寝られるっていうのが嬉しいんだ」
そう言ってにっこり笑うと兄さんはようやく納得してくれたようだった。
「そうだな。私も父上と初めて野営をして、テントで一緒に寝た時は嬉しかった。屋敷では私も一人で寝てたから…」
「兄さん、平民の子供は私なんて言わないよ」
僕がクスクス笑うと兄さんはバツの悪そうな顔をする。
「癖になってるんだ。気を付けるよ」
「ふふっ。おやすみ、兄さん」
「フェル、おやすみ」
既に眠っているシオンをもう一度抱き寄せて僕は眠りについた。
夢の中、父上と母上が僕に会いに来てくれた。でも二人共何も言わず、微笑んでいるだけだった。
これは僕の願望が見せた夢なのか、オーギュがくれた優しさなのかわからない。
でも、最後にありがとうとさようならを伝えられた。
僕、頑張って生きるよ。
朝、目が覚めると、涙でびっしょり濡れていた。だけど、もう泣くのはこれで最後だ。
父さんも兄さんも既に起きているみたいで、シオンも側にいなかった。
テントから出ると二人が朝食の仕度をしている。
「おはよう」
「おはよう。朝ご飯を食べたら出発するぞ」
父さんに言われて慌てて食べ始める。
「慌てなくていいから、ちゃんと噛んで食べろよ」
ちょっとむせた僕に兄さんが苦笑しながらコップを渡してくれる。
シオンは昨日のホーンラビットの骨をガジガジかじっていた。
テントを片付け、野営の痕跡を消してから出発する。
今のところ、追手の気配はないが、用心に越した事はない。
お昼頃には着くだろうと言う父さんの言葉通り、町の入口が見えて来た。
門番が立っているが、基本、身分照会無しで入れるらしい。
王都は流石にそうはいかないけどね。
それでも指名手配されているかもと、ちょっと警戒しながら門をくぐったが、特に止められる事もなく、町に入れた。
先ずは、冒険者ギルドに行って登録だ。
ちょっとワクワクしながら父さん達の後を追う。この世界の町並みも初めてなので、何もかも珍しくて仕方ない。
「あまりキョロキョロしてると転ぶぞ」
父さんの言葉に兄さんも笑ってる。
そういう兄さんだってあちこち珍しそうに見てたじゃないか。
ちょっと納得いかなくてむくれる。
やがて大きな建物の前で父さんが足を止めた。
冒険者ギルドに到着だ。




