10 救助
いつこの場所を発見されるかわからないため、急いで旅立ちの準備をする。
訓練のため動きやすい服装だったが、それなりに上質な生地なので、平民用の服に着替える事にした。
僕が着替えている間、ジェイクとアレクシスは何やらひそひそ話をしている。
「母上」という言葉が聞こえたから、アレクシスの母についてだろう。
彼女は僕の母上の護衛騎士をしていた。
処刑はされてないと思うが、夫であるジェイクが国王夫妻を殺害したとされる以上、拘束されている可能性もある。
このまま連絡も取れずに離れ離れになってしまうのは辛いだろうな。
何もしてあげられないのがもどかしい。
「フェリクス王子。準備は出来ましたか?」
「ああ、大丈夫だ。それより、この先、僕を王子と呼ぶのは不味いだろ」
「ふむ、確かにそうですね」
ジェイクはちょっと考えて、申し訳なさそうに
「それでは、私の息子、アレクシスの弟と言う事でよろしいですか?」
「構わないよ。っていうか、親子なら敬語は使わないよ」
「すみません、つい癖で」
まあ、おいおい慣れるだろう。
マジックバッグに食料や武器など必要な物を詰め込む。ここにはいつ帰って来られるかわからない。
準備を終えて出発しようか、という頃にアレクシスが待ったをかけた。
「父上。フェリクスの髪、色を変えた方がいいのでは?」
えっ? 何か問題が?
「確かにこれでは目立ってしまうな」
そうだった。このシルバーブロンドは王家の色だった。
慌てて魔法で二人と同じ茶髪にする。
髪の色を同じにしたから、ちゃんと親子に見えそうだ。
「これからは平民の親子だ。名前も変えよう。私が父親のジェイ。長男のアル。次男のフェル。いいな?」
「わかった、父さん。兄さん」
にっこり笑って返事をすると、アルはコクンと頷くとそっぽを向いた。
耳が赤くなってるから照れているんだろう。
最終点検をして小屋を出て、父さんが隠匿の魔法をかける。
「これから何処へ行くの?」
「森を抜けて隣のローザス領に行こう。そこで冒険者ギルドに登録する。冒険者ならあちこち転々としても怪しまれないだろう」
冒険者ギルド。
なんかワクワクしてきた。
歩き出そうとしたところで、父さんが何か言いたげに僕を見る。
「何?」
「いや、お前の歩くのが遅いようなら、おんぶでもしようか?」
えっ、おんぶ!?
いやいや。
見た目5才児でも中身は大人、ってどこかで聞いたようなフレーズだけど、とにかく全力でお断りする。
「身体強化出来るから大丈夫」
「ハッハッ、そうか」
ニヤニヤ笑ってる。からかったな。
僕はちょっとむくれて、スタスタと先に歩き出す。
「フェル、あまり離れるなよ」
っと、そうだ。
どこで魔獣に出会うかわからないからな。
魔法攻撃は出来ると思うけど、まだ実際に戦った事がないから、どこまで通用するかわからない。いきなり全滅なんて洒落にならないよね。
しばらく歩くと、何やら騒がしい音がする。
魔獣か?
身構えながら先へ進むと、小さな犬が、大きな熊に襲われていた。
あれはグリズリーか?
「助けなきゃ!」
「待て! フェル!」
父さんに止められたが、ほっておくわけにはいかない。
子犬に当たらないように魔法を繰り出す。
「ウインドカッター」
ちょっと逸れたか。
でも、グリズリーの注意をこちらに向ける事が出来た。グリズリーは子犬から離れてこちらに向かってくる。もう一度、ウインドカッターを放つ。
よし、当たった!
グリズリーはかなわないと思ったのか、背中を向けて逃げようとしたが、そこを父さんが斬りつけた。
おおっ、かっこいい!
流石は騎士団長。
一撃で仕留めちゃったよ。
素材採集は二人に任せて、僕は子犬の元へ駆け寄った。
うわっ、ひどい。
あちこち傷だらけで、血と泥で汚れている。
ヒールで傷を直してクリーンをかけてやると、真っ白な毛並が現れた。
抱き上げるとモフモフでかわいい。
しばらく撫でてたら、目を開けて僕の頬を舐める。
「ふふっ、くすぐったい」
『ねぇ、名前ちょうだい』
「えっ? 今喋ったの、君?」
『喋るっていうより、意思疎通が出来るんだ。名前つけて』
名前をつけるっていう事は従魔になるって事だよね。
あれ? 子犬じゃなくてフェンリル?
「君はもしかしてフェンリル? 名前をつけたら従魔になるんだよね?」
『うん! 従魔になるからつけて』
「じゃあ、シオンでいい?」
シオンは嬉しそうにパタパタとしっぽを振る。
素材採集を終えた父さんと兄さんが、僕の側に戻って来た。シオンがフェンリルだと気付いて驚いている。
従魔の契約をしたからしょうがないと連れて行くのを認めてくれた。
こうして三人と一匹の旅が始まった。




