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関係改善をあきらめて距離をおいたら、塩対応だった婚約者が絡んでくるようになりました  作者: 雨野六月
第一部

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35/116

初恋の終わり

 会場を抜けると、カインが気づかうように問いかけた。


「殴られたところは大丈夫か?」

「大丈夫です」

「足の方はどうだ」

「大丈夫です。今日は協力して下さってありがとうございました」

「いや、俺は大したことはしてないよ。それより君の方こそ、最後までよく頑張ったな」


 カインが優しく微笑みかけると、彫刻のように端正な顔立ちが、ふわりと柔らかい印象になる。その顔、その表情を、ビアトリスは呆けたように、ただぼんやりと見上げていた。


「どうした?」

「いえ……」

「やっぱり痛むのか?」

「いいえ、そうではないんです」


 ビアトリスは苦笑するように言った。


「……カインさま、私がカインさまがクリフォード殿下ではないかと思った理由を、前にお話ししましたわね」

「ああ、色々言ってたな」


 市井育ちとは思えぬ所作の美しさ、深い教養、シリル・パーマーの態度。


「実はあの他にもう一つあるんです」

「もう一つ?」

「はい。私、カインさまの笑顔を見ると、いつもどこか懐かしい気がしましたの」


 カインが優しくほほ笑むたびに、いつも胸が締め付けられるような、泣きたくなるような、言いようのない懐かしさを覚えていた。会って間もない彼に対する、この感情はなんなのか、最初の内は分からなかった。


「ある日ふっと気がつきましたの。カインさまの笑顔は、まだ私に優しかった頃のアーネストさまの笑顔に似ていたのです。もしかしたらお二人には血の繋がりがあるのではないかと考えて……そこからすべてが繋がったんです」

「そうか……」

「カインさま……私、アーネストさまの笑顔が好きだったんです。あの頃の優しいアーネストさまのことが、本当に、大好きだったんです……」


 カインは口を開きかけたが、涙を流すビアトリスを前に、結局何も言わなかった。

 

 本当はとうに気づいていた。

 自分が恋した少年は、もうどこにもいないということに。

 それなのに気づかないふりをして、アーネストの中にその面影をずっと探し続けていた。

 冷たくされ、邪険にあしらわれながらも、ずっと諦めきれなかった。

 あの優しい少年のことが、本当に大好きだったから。


 涙は枯れることなく、あとからあとから溢れ続けた。

 それは長い初恋の終わりを悼む、弔いの涙だった。


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コミック8巻の予約受付中です。とても素敵な漫画なのでよろしくお願いします!
関係改善をあきらめて距離をおいたら、塩対応だった婚約者が絡んでくるようになりました⑧
コミック8巻の書影です
― 新着の感想 ―
[一言] ざまぁタグが付いてるけど、爽快感はあまりない。 他に方法がないからマシな選択をしたって感じかなあ。タグに偽りはあるけど、物語としては面白かった。
[良い点] 頑張ったねビアトリス ふと、この一番の被害者はカインだよね。 死んだことにされて、結局、お鉢が回ってきて、でも、好きな女(ビアトリス)はお相手にはならない、これから婚約者を政略結婚。しか…
[一言] ビアトリスの父親は頭かかえそう 思春期の娘が婚約解消してほしいっていい出したのをよくあるすれ違い程度に思っていたんでしょう。噂もアーネストが元凶ではなく貴族同士の足の引っ張り合いの延長でそれ…
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