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第五十四話 仮説と困惑

「誰かが意図したってことですか?」

「かもしれないという話しだ」

 永遠さんは押し殺したような声で『かもしれない』を強調する。

 どこまで先を見ているのかは分からない。ただ、この時までは俺と永遠さんの間には大きな認識の差があっただろう。

 なぜなら、偶然なのか。必然なのか。

 必然だとすれば誰が何のために。何を意図して俺を彼女たちに引き合わせたのか。

 あれこれと考えてみるが何もこころ辺りはなく、すぐにその実感が湧かなかったからだ。

 すると、その様子を見た永遠さんは顔を急に近づけてきた。

「ここだけの話だが。先ほどお前の怪我を診た阿冶は何を思たと思う」

「阿冶さんが思ったこと……」

「おいしそう、だ」

 たった一言。永遠さんの口の動きを見つめていた俺の背中に寒気が走った。

 初めて心がざわつくのを感じた。

 嫌悪を感じたわけではない。畏怖を覚えたわけでもない。

 それは吸血鬼として当たり前の感情。何らおかしなことはない。

 唯、初めて俺ははっきりと言われた。俺が阿冶さんにとって食料として見えているということを。

 それが俺に抱くすべてではないとはわかっている。

 それでも、体温が――血管を流れる血液が凍り付いたように冷たくなっていくのを感じた。

「勘違いはするなよ。最初は確かに心配していた。しかし、ほんの一瞬――吸血鬼という本能が阿冶を襲った」

「それは当たり前なのでは――」

「それが万人に対してならな」

 万人ではない。永遠さんはそう示した。

 そしてさらに続けた。その瞳をきつくし事実を突きつけるように。

「以前私はお前の血を魔性の血だと言った。しかし、それが間違いだと実際に学校に行ってみてわかったよ。人間の血も魔界の住人の血も対した違いはない。つまり、人間だから――それも一番最初に摂取した相手だから私たちは惹かれたんじゃない。夕月夏樹の血だから私達は惹かれたんだ。魔性の血なんてものじゃない、唯一の血なんだよ。それに加えて、守璃を倒す程の力に(もののけ)を認識する力も併せ持つ。これが偶然だというだろうか」

「確かに……」

 言われてみれば出来過ぎている。

 この時初めて俺は永遠さんが言っていることを理解した。

 そして納得したとたんに自分が自分じゃないような気になってきた。

 自己の喪失とでもいうのか。自分自身に疑心暗鬼になる。

 生まれた時から今までの俺を知っている人がいない。

 それがこの感覚を加速させる。

 俺は自分を抱えるように腕を組んで、それ以上感覚が広がらないように言葉を発する。

「だとしたら、幼狐はこのことを知っているんだろうか。あれで頭は回る奴だから気づいていてもおかしくないけど」

「あえて黙っている可能性は否定できないな。しかし、選定者は天界のはず。いかに幼狐であろうと何かを仕組むことは出来ないと思うのだが……」

 考えがまとまらない。

 仮説を積み上げたような情報は多いのに、登場する人物については性格な情報が少なすぎるのだから当たり前だ。

 苦悩する俺を見てか永遠さんは急に立ち上がった。

「困らせるようなことを言ってすまない。あくまでも仮説で確実性はない。唯、言わなければと思ったのだ」

 気を使ってくれた永遠さんは、自販機に向かい冷たいジュースを買って再び俺の首筋に当ててくれた。今度は、ちゃんと支えてくれて。

 冷たさが不思議と頭をクリーンにしてくれた。

 さっきまでのジュースはぬるくなっていたのかとその時に初めて気がついた。

 それほどまでに俺の視野は狭くなっていたのだ。

「ありがとうございます。落ち着きました」

 一人で不安になるのはやめよう。分からないなら分かるように努力すればいい。

 情報をそれとなく集めて仮説を否定していけばこの不安を拭えるのだから。

「そうか」

 薄らと笑ったときに見えた永遠さんの牙に俺は少しも恐ろしさを感じなかった。



「さて、そろそろ行きますか」

「そうですね」

 しばらくしてから俺は立ち上がりながら阿冶さんにそう言った。

 永遠さんはあの後すぐに引っ込んでしまった。

 どうやら予想以上にジュースを支えているのが恥ずかしかったようで、歩いている人にジロジロ見られたのが決定打となり阿冶さんと交代してしまった。

 もちろん阿冶さんは永遠さんと俺とのやり取りを知らない。

 以前永遠さんが言っていたように、永遠さんと阿冶さんは相互的にパスが通っているわけではなく、一方的にパスがつながっている。だから、何も知らずにいつも通りの優しい笑みを向けてくれた。

 そのことが、何より俺を安心させた。

 もう、あの時の背筋が凍る気持ちもない。

 目の前にしたらはっきりとわかる。この人は敵ではない。

 むしろ、俺の居場所なんだと。

「夏樹さん。どうかしましたか?」

「いやっ、何も。行きましょうか」

 そう言って、お花見場に向かおうとすると、

「もしかして夕月君?」

 不意に背後から声を掛けられた。

こんにちは五月憂です。

私事ですがいよいよ明日は私の誕生日です。

とはいっても、おそらく一人ぼっちっで送ります。ローソンで買った小さなケーキで(悲)。

私の事はこれぐらいで、前回から引き続き永遠がずっと出てくる話でした。

けっこうシリアスな雰囲気に登場させやすいキャラクターなんですが、いつか永遠との日常パートも書いてみたいと思います。ほのぼのとした雰囲気での永遠。銀髪だから私服のイメージは黒かななんていろいろ考えています。

次週も頑張って書きますので是非読んで見てください。

最後になりましたが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。


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