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第四十五話 短距離走

「見て見て〜。あそこの集団」

「うわー、すごいメンバーだ」

 俺たちは一番最初に短距離走をしようとグラウンドに移動していたのだが、そんな移動中でもあらゆるところからヒソヒソ声が聞こえてきた。

 それもそうである、ここには学年トップの人気がある音無さんと近衛に、美人で噂の転校生四人が揃っているのだから。

 すれ違う人々が足を止めてこちらを見てくるのも当然だ。

「はぁ、今日も音無さんは素敵だ」

「いいな。俺もあの集団に囲まれたい」

「きゃー、今近衛お姉様と目があったわ」

「うそー、今のは私でしょ」

「どうしてあのメンバーの中にあんなさえない人がいるの?」

「あれは誰だ! うらやまけしからん」

 などなど、6人の人気とカリスマ性を讃える声となぜその中に俺がいるのかという声が飛び交う。

 俺は、やっぱりこうなったかと。自然と大きなため息が出る。

「なんだよ夏樹。ため息なんてついて、これから走るんだから気合い入れろよ!」

 爛さんが俺の背中を叩きながら言う。

「痛いですって。まったく誰のせいだと思ってるんだか……それよりわかってますよね約束のことを」

「わかってるって。あたしに任せとけって」

 爛さんが自信満々にずんずんと先頭を切っていく。

 本当に大丈夫なのかあの人は

「むぅ、やはり織田等とやけに仲がいいな夕月」

 俺がじとっと爛さんを見ていると、後ろにいた近衛から声をかけられた。

 珍しいな。近衛から声を掛けてくるなんて

「そうか? 普通だと思うけど」

「そんなことはない。今までそんな風に女生徒と仲良くする姿など見たことがなかった」

 鋭いな

 近衛の指摘に冷やっとする。

「まぁ、みんな明るく接してくれるから」

 疑っていたわけではないが、この様子だとやっぱり音無さんから俺たちの関係は聞いてないんだな。少し安心した

「そうか。まぁ、気さくなのには賛同するが……」

 どうしたんだろう。本当に珍しいなこんな近衛は。歯切れが悪いというか、もやついているというか

 体調でも悪いのか?

 そんなことを考えているうちにグラウンドにたどり着いた。

「はーい、じゃぁ三人組に分かれてくださいねー」

 記録係の誘導に従って、一走目が爛さん、クロ、近衛、二走目が阿冶さん、守璃さん、音無さんとなった。

 ちなみに俺は後ろに並んでいた他の男子生徒と走る。

 というわけで、早くも一走目。

 雷管の破裂音と共に三人が走り始めた。

 頼むから爛さん本気で走らないでくれよ。最悪近衛だけは抜かさないでくれ!

 相変わらず早い近衛が先頭、次いで爛さんクロである。

 どうやら無事乗り越えられそうだ……って、ゴフッ

 俺は安堵と共にとある事に気がつきむせた。

 というのも、体のラインが良く出る体操服に女性らしからぬ豪快なフォームの破壊力。つまり、その……揺れているのだ。どことは言わないが、とある部位が上下に揺れている。

 辺りを見回すが、男子はもちろん女子も、さっきまで「キャー、近衛様ー!」と近衛を熱狂的に応援していた近衛のファンでさえ、頬を赤らめ生唾を飲み込んでいるのだった。

 走り終えるとあっと言う間で、作戦通り人より少々規格外程度の記録には終わったのだが、確かに爛さんは浮いていた。その魅力的なスタイルで。

 作戦は成功だけど……予想外にみんなが注目しちゃったな。まぁ、それは良いんだけど

 第二走がスタート位置に着こうとしたころに爛さんは俺の元に手を振りながら戻ってきた。

 俺は、爛さんの姿を見て先ほどの事を思い出し、顔から火が出るように熱くなり顔をそむけたのだが、そんなことはお構いなしに爛さんは俺の顔にグイッと顔を近づけて囁いた。

「胸ばっか見てたろ……スケベ」

「っ!」

 俺は、驚いて爛さんの顔を見るが、その様子を見た爛さんはニマニマといやらしい笑みを浮かべていた。

 ばれてたのか

 確かに、爛さんの視力だったらこちらまで見えそうだけど。

「いやっ、あれは――」

「気にすんなって――」

 爛さんは俺の腕に体をくっつける。

「夏樹も男の子なんだからな」

 ギュっとその柔肌を感じると、もう頭の中が真っ白になりそうになった。

「ねぇ、あれ見て……」

「やだ~、こんなところで~」

 辺りの視線が突き刺さる。

 こ、これはまずい

「分かってないです。分かってないです。そういうことは自重してくださいって」

「ちぇっ、素直じゃねえなぁ。まぁ、いいかいつでもできるし」

 今までがっちりと固められるように掴まれていた腕を爛さんは解放した。

「まったく……」

 遅れて、クロと近衛、それに後に走った三人も一緒に戻ってきていた。

 どうやら爛さんが俺をからかている間に二走目も走り終えてしまったらしい。

 見てなかったけど、まぁ大丈夫だろう。どっちかと言えばこっちの方が騒ぎになっていたし。

「……夏樹。……クロ。……どうだった?」

 短パンをグイグイ引っ張りながらクロが聞いてくる。

「うん。大丈夫。……よくやったな」

 俺は、ついいつもの様にクロの頭をグシグシと撫で、クロもまた普段他人に見せなることのない気持ちよさそうに安らいだ表情を見せる。

 そして、その光景を見た辺りから――

『ロリコン?』

 という言葉が聞こえてくるのはある意味当然だった。

「……夏樹。……ロリコンって何?」

「っ! ……何だろうな。本当に。アハハハ……」

 思った以上の渇いた笑いが、一種目からの俺の疲れを如実に表していた。

こんにちは五月憂です。

皆さん今回はどうだったでしょうか。

爛のセクシーさが久しぶりに見られたのではないでしょうか。

次回は、一応クロの話になると思います。まだ書き始めていないので何とも言えませんが。

次回も是非読んで見てください。

最後になりましたが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

こんごとも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。


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