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第三十四話 罰と始動

 守璃さんとの試合をしてから数日後の朝、俺たちは全員そろって居間に座っていた。

 もちろんただ座っているだけじゃない。テーブルをどかせて、テレビが正面に来るように中央に座っている。

 毎度恒例のこの形。これからあの面倒くさく、そして面倒くさがりのあの幼女と通信をするために集まっているのだ。

「準備はいいですか?」

 阿冶さんが、全員の確認をとってから通信を開始した。

 しばしの砂嵐の後、煌びやかな赤色の着物に身を包んだ幼女とフォーマルな黒色のスーツに身を包んだ妙齢の女性が映し出された。

「カッカッカッ、久しぶりじゃのう」

「皆様、お久しぶりです」

「して、今日は何の用じゃ」

「それは――」

「幼狐様。私から、お話をしてもよろしいでしょうか」

 俺の言葉を遮って守璃さんが言った。

 責任感の強い守璃さんらしい。今日話す内容については、自分から話したいのだろう。

「ほう、守璃が来たのか」

 面白そうに幼狐はニヤつく。

「はい、遅くなって申し訳ありません」

「よかろう。話すがよい」

「はい。先日、私は夕月夏樹……様に暴行を振るいました。今日はその件についてのご報告でお時間をとらせていただきました」

 すごい間だな。それなら呼び捨てでもいいのに

「暴行ね……詳しく経緯を話すのじゃ」

 珍しく幼狐は慎重な面持ちになる。

 いつもあまり表情を変えないロアさんですら少しだけ顔色を変えたため、こちら側も少しだけ緊張が走る。

 それから、ゆっくりと詳しく守璃さんが事の経緯を話し始めた。

「……なるほどのう。なるほど」

「人間界を代表する夕月夏樹……様への暴行。いかような罰もお受けします」

 そう言って、守璃さんは幼狐が口を開くのを待つ。

 そんな、大事みたいに言わなくても、それに誤解を生むようなことがあった時点で俺にも非はあるんだし

 俺は、いろいろと言いたい事があったがそれを発するか迷っていた。

 この報告が始まる前に守璃さんに余計なことは言うなと釘をさされていたからだ。

 でも、幼狐とロアさんの表情から、何だかまずい事になりそうな雰囲気を感じ、つい言葉を発そうとした。そんな時――

「クックックッ……カーッカッカッカッカッカッ」

 妖狐は押し殺した笑いをこらえきれず、決壊したように盛大に笑い出した。

 俺達――何よりも守璃さんは間の抜けた表情になっている。

「いやー、面白い。まさか、ここまで面白いことになるとは、クックックッ、さすが夏樹じゃ」

「笑い事ではありません。下手をしたら世界間での大問題に発展しているところです」

 ロアさんは、目頭を押さえながら呆れたように幼狐を諫める。

「どういうことだ」

 訳が分からなかった俺は、幼狐に漏らすように聞く。

「なーに、お前たちの環境と守璃の性格を鑑みれば何かしら一悶着起こるとは思っとったんじゃ。まさか、一対一の試合をしてボコボコにされるとは思うとらんかったがのう」

「守璃さんの性格?」

 振り向いて守璃さんを見るとプイッと顔をそむけられた。

 相変わらず心を開いてはくれないようだな

「守璃はな。男嫌いなんじゃよ」

「男嫌い?」

 思い返してみれば、そんな節もあった気がする。

 出会ってすぐ敵視されたし、勘違いとは言え言い訳する余技なく家から放り出されたし。

 ただ、真面目過ぎるだけなのかと思っていたけど。そういう事情があったのか

 それなら、守璃さんがこんなに遅れてやってきたことも納得がいく。

「そんなことはどうでもいいのです。私への罰はどうなったのですか」

 すると、幼狐は途端に面倒くささをにじみだしてきた。

「黙認」

 本当に興味ないことにはやる気をださないな

「それでは、私の気がおさまりません!」

「強情な奴じゃなー」

 幼狐は、少しだけ考えて、何か嫌な事を思いついたようにいやらしい笑みを浮かべた。

「では、これから夏樹のトレーニングにお前も付き合うのじゃ。そうじゃのう。お前は攻撃のよけ方、防御の仕方を教えよ。爛より適任じゃろう」

「なぜ、私がこの男なんかに」

 遂に、この男呼ばわりか

「男嫌いには、よい罰じゃろう。良いか、これはお前への罰じゃからな」

「……分かりました」

 あれよあれよと俺の口を挟む間もなく話を進み、そして承諾された。

 あれ? 俺はとばっちりじゃね

「さて、これで役者はそろったのう。夏樹よ。これが当初予定されておった面々じゃ。これから、お前はこの四人と共に生活を送ってもらう」

 そう締めくくって、幼狐はこの話を終わらせた。

 そして――

「さて、夏樹よ。明日は暇かの?」

「明日? 何でそんなこときくんだよ」

「明日は、ワシの休養日での。暇なのじゃ。しゃべり相手になってくれんか」

「明日は、昼からならいいけど」

「昼から?」

「明日から学校だからさ。昼には帰ってくるけど」

「あーなるほどの。学校……」

 突然、幼狐の顔色が真っ青に変わる。

「……すまんのう。急な予定を思い出した。夏樹、明日の予定はやっぱり無しじゃ。それじゃぁのう」

 そう言って突然通信は途絶した。

 何だったんだ?



「すみません。すみませんなのじゃ」

 夏樹との通信を切ったワシはすぐにロアへ土下座をした。

 それを見てロアはワシの意図を察した用で、途端に殺気を頭上から浴びた。

「あれほど言っておいたのにですか」

「……」

「大丈夫だとご自分でおっしゃいましたよね」

「それは……」

「さっさと取り掛かりなさい! 明日のお休みもなしです!」

「はいなのじゃー!」

 この後、ワシは二日ほど不眠不休で働かせられ続けることになった。


こんにちは、五月憂です。

今回は、前回の出来事に対しての後始末がメインの話になりました。

相変わらずの幼狐。一体何を忘れていたのか。そして何が「始動」するのか。

是非次回もお楽しみに。

そして、来週再来週と急遽お休みさせてもらいます。ちょっとゼミの発表が控えていまして……

最後になりましたが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。

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