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番外編 苦労人 前編

 時は少し遡る。

 夏樹とクロの間にあった隔たり。共同生活最初にぶつかった問題は、阿冶、爛、ロアの後押しによって無事解決することができた。これは、その問題が解決する間に起った妖界での話し。

 もう日は完全に暮れ、暗闇が世界を包み込んでいる中。賑わいを見せる街があった。

 通りには明かりがずっと続き、往来は昼間よりも多い。そんな街並みの中心には、一際目を引く大きな建物が堂々と佇んでいる。

 その建物は、和風の城のような大きさと見た目をしてはいるが、その外装は朱を基調としたものが多く、また内装も煌びやかに彩られている。発せられる明かりもぼんやりと赤く、どこか遊郭を連想させる艶めかしさすら感じられる建物だった。

 そんな雅な城の廊下をいつも通りのフォーマルな黒スーツに身を包んだ一人の女性が歩いている。

 ロアである。

「………」

 今日も城下はにぎやかですね

 ふと、足を止め私は朱に彩られた手すりに手をつき城下を見下ろした。

 ここまで聞こえてくるほどの露店の店主たちの客引きや、人々の楽しそうな会話。夜ということもあり食事処や屋台が多く開店しているせいか、鼻腔をくすぐる良い香りがこんなところにまで漂ってくる。

 昼夜を問わない活気ある街。この町をあの九尾の幼女が作り上げているのだから不思議なものだ。

 まぁ、作り上げているというより、自由にさせているだけのような気もしますが

 表だってそれを表現はしないですが、私はこの町を存外気に入っている。

 人々が何にも縛られることのないこの町を見てると、頭の中が軽くなる気がしてくるから。

 しかし、今日ばかりはそうもいかないようで、私の胸中はずっしりと重たい。

 クロは大丈夫でしょうか

 夏樹さんからの連絡をいただいて、クロは変わらず壁を築いているようだった。

 あの子は悪い子じゃないんです。素直になれないだけ、素直になることを許されなかっただけ

 そう言葉にしてみればひどく軽く聞こえてしまう。特に、あの狐の幼女がクロと初めて出会い、そして手を差し伸べるのを隣で見ていた身としては――



 クロと出会ったのは、十年ほど前の事。

 狐の幼女と私は城下の視察に出ていた時に、たまたま薄暗い路地に横たわっているクロを見つけた。

 体はやせ細り、髪の毛には土埃、あちこちに擦り傷を負った小柄な少女。

 かろうじて息をしているのは分かりましたが、それも虫の息。このまま放って置けば遠からず命を失われてしまうことは明白だった。

 そんな少女に、この町の主である幼女は、近づき、声を掛け、そして手を差し伸べた。

 それが、クロとの初めての出会い。



 ――軽はずみにクロについて語ることは出来なかった。

 故に、夏樹さんにも詳しいことは言わなかった。

 でも、その選択がクロのために役にたったのかは分からなかった。

「結局私にできたことと言えば、夏樹さんに頭を下げてお願いすることしか出来ないのです。何とも情けの無い話です」

 しかし、今度は私たちの手ではなくクロ自身も成長しなければならないのも事実。そう考えれば今回はいい機会になるのかもしれないとも思う。

 頭の中が心配と厳しさと情けなさが混ざり合っていくのが自分自身でもわかった。

「………過保護すぎるのかな」

 しかし、親代わりで育ててきたのだから仕方がない。

 子供を持たない私にとって、我が子のように育ててきたのだから。

 奔放に育てようとするあの幼女から悪影響を与えられないように守ってきたのだから。

 人一倍の愛情を注いできたのだから。

 心配でたまらない。

 この世界――全世界を合わせても、唯一私の心をかき乱すことができる存在になっているあの子を心配せずにはいられない。

「………」

「ロア様! ロア様!」

 心配で落ち込む私の下に、血相を変えた声で私を呼ぶ声が聞こえてきた。

 すごく嫌な予感がしますね

 後ろを振り返ると、城内の見回りをしている警備係の一人が小走りに私の所にやってきていた。

「どうかしましたか」

 何が起こったのか大体想像がつきますが

 緊急事態のように見えるが別に珍しい事ではないため、私はため息交じりに警備兵に聞きました。

 すると、警備兵はさっきまでの慌てふためいた様子とは一転して、申し訳なさそうに言葉を紡いだ。

「その……幼狐様がいなくなりました」

「……またですか」

 まったく。ただでさえ、クロの事でいっぱいいっぱいだったのに、あの幼女は……

 最近ため息をつくのが癖になってきた気がします

 私に寄せられることは多くあるが、緊急的なものの9割はあの幼女が関係している。

 まぁ、考えようによっては、こちらに集中することで気を紛らわすことは出来るかもしないですが

 私は、あきれ交じりに片目を抑えて、いつも通り――一言一句違わない言葉を発する。

「わかりました。こちらで探しておきます」

こんにちは、五月憂です。

今回から、私情により日曜日更新にすることにしました。

日曜日更新一回目から番外編。スポットを妖界に当ててみました。

苦労人のロアは心配が絶えないようですね。その上、幼狐が脱走!

この後どうなるのでしょうか。ここまで読んでいたらなんとなくわかる気もしますが……

次週も是非読んで見てください。

最後になりましたが、「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。

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