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第三十三話 眠り姫

 殺す

 殺さなければならない

 殺したい

 殺すしかない

 だから、貫け

 振り抜け

 容赦を捨てろ

 生き抜くために――コロス

「ハッ!」

 目が覚めると、俺は自分の部屋で横になっていた。

 酷い悪夢だった。

 俺を黒一色に塗りつぶすような夢。

 まるで、タールの海に落とされたようにドロドロとしたものが体にへばりついていくような夢。

 そして、一層の快楽と解放感へと誘い誘惑するような夢。

 一歩間違えれば永遠に目を覚まさなかったのではないかと思うような変な危機感を感じた。

 俺は、荒い息を整えて体を起こすと――

「痛っ!」

 全身に様々な痛みが走った。

 打撲に筋肉痛。

 あれだけ、激しく打ち込まれて、地面に壁にたたきつけられればこうもなる。

「こんな体だったら悪夢の一つや二つも見るか……」

 そう言えば、試合の結果はどうなったんだろう

 後半の記憶がひどく朧げで霞がかっている。

 不意に辺りを見回すと、おにぎりとメモ用紙が布団の傍に置かれていた。

『みんなで作りました。目が覚めたら食べてください』

 おにぎりを見ると、形がバラバラのおにぎりが四つ。

 おそらく、柔らかい丸みを帯びたのが阿斗さん、一番小さいのがクロ、少し不格好なのが爛さんだろう。そして最後が――

「このきっちり一角60度で握られた正三角形のおにぎりは……守璃さんかな。ははっ、皆の個性が良く出てる」

 不思議と笑っていた。

 馬鹿にしたわけではなく、あの守璃さんが俺のためにおにぎりを握ってくれた。その結果だけでも、それをするだけには俺を認めてくれたって言うことなんだから。

 それがすごくうれしかった。

 おそらく、勝負の結果も良かったんだろう。

 俺は、安心感と幸福感を感じながら、皆が作ってくれたおにぎりを食べた。

「さて、風呂に行くか」

 汗を流したかったし、傷も冷やしたかった。

 ガラッとドアを開け、居間にまで歩いてきてから、もうすっかり夜であることに気づいた。

「どおりで静かなはずだ」

 俺は、随分長い時間眠っていたようだ。

 そのまま居間を通り過ぎて、風呂場の前まで来て俺は立ち止まる。

「………」

 まさかな。

 俺は、過去の経験から予測した。

 中に守璃さんがいて、再び家を追い出される。

 ……あり得る。大いにあり得る。

 こんなことでまた追い出されるなんてまっぴらだ。

 危なかった

 俺は、戸を二度ノックした。

 返事はない。

 今度は三度。

 返事はない。

 最後に四度。

 やっぱり返事はない。

 用心深く戸をゆっくり開けて中に誰もいない事を確認する。

「誰も居ないよな」

 ここまで確認して、やっと俺は安心して脱衣所に入った。

 服を脱ぎ、側面に備え付けられた大鏡を見る。

 やっぱり痣だらけだ。

 胸に首にと正面で見る限り十か所以上。青痣や内出血が見受けられる。

 背中の方は……

 やっぱり痣だらけだ。でも、

「気のせいかな背中の中心にある痣が色濃くなったような……」

 元々あった痣がよりはっきりした気がする。

 まるでタトゥーのように黒ずんでいる。

 それに、前より形も変わったような……

 コンコンッ

 不意に戸をノックされた。

 俺は、心臓が飛び出る思いだった。

 というのも、その相手が――

「夕月夏樹、居るか?」

 守璃さんだったからだ。

「は、はい!」

「こんなところですまない。ただ、傷の具合を確認はしておこうと思ってな」

 守璃さんなりに心配してくれたのかな

「大丈夫ですよ。大した傷はありません」

「そうか……」

 安堵したように守璃さんは、ホッと息を吐きだす。

「今回の勝負は、君の勝ちだ。だが、不埒な事は今後も許さないことを肝に命じておけ。それも伝えに来た。それじゃ」

 用件だけ言ってさっさと帰ろうとする守璃さんを俺は呼び止める。

 そして――

「おにぎり。ありがとうございました」

「ッ……大したことじゃない。阿斗に薦められたから作ってみただけだ」

 そう言って、足早に守璃さんは去って行った。

 どうにか、これからもやっていけそうだな

 春休みももう終わる。最後で最大の問題はやっと解決を迎えた。



 赤と黒を基調とした部屋。

 部屋という割には、酷く広く。宝石などを装飾こそしていないが、部屋にある物すべてが高級感漂うものばかりです。

 人が二、三人は余裕で横になれそうなベッドに一人の女性が眠っている。

 緩くウェーブがかかった黒髪と白い肌が特徴的で、華奢で細い体つきと静かに眠っているところから眠り姫を彷彿とさせる美しい女性は、私たちの主です。

 先ほどまで、胸の痛みを訴えてお眠りになりましたが、とても心配で物陰からずっと主の女性を見守っていました。

「お体の具合は大丈夫ですか?」

 傍使えの中年の男性が静かにベッドに近づいてそう聞きました。

 ひげこそ生えているけど小奇麗で、しかし、体つきはがっちりとしていてボディーガードとしての役割も担えそうな中年の男性は私の夫。

「えぇ、もう大丈夫よ」

「やはり、もうお体がもたないのではないでしょうか」

「いいえ。まだまだよ」

「しかし――」

「私はね。あの子の力になれることがうれしいの。私が苦しみを味わう分あの子の助けになっている。それが至福。だから、例え死んだとしても私はやめないわ」

「そうですか……」

 その弱弱しくも清々しい笑顔を向けられては夫も何も言えない。冷えたタオルをとりに出て行ってしまいました。

「そう……これでいいの」

 それは、母親のような温かく優しい顔で発せられた言葉でした。

 しかし、私はあなたにも亡くなって欲しくはないと思っています。

 私は――私達には一体何が出来るのでしょうか。

 どうしようもない事への胸の痛みをグッとこらえて、私はもうしばし我が主を見守るのでした。


こんにちは五月憂です。

やっと守璃編が終わりました。

これで、一章大きな流れは終わった感じです。

今後の流れは、来週はお休みします。

そして、次の週から1~3回は特別篇をやる予定です。

キャラをたくさん出すので区切り毎にキャラまとめを入れていけたらと思っています。

そして、次章は学校編。

最後になりますが「突如始まる異種人同居」を読んでいただきありがとうございました。

今後とも「突如始まる異種人同居」をよろしくお願いします。

次週は、お休みいただきます。

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