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「ライラ!もうそろそろいい頃合いだと思うの!とりあえず領都だけでも見たい!」
7歳になったエメリアは女神の記憶を取り戻した時から人がどのように生活しているのかを覗いてみたくてうずうずしていた。もちろん、エメリア本人も領主の娘として生活をしているが、どうやら領民の生活とは違うという事も知っている。 そんな悲しい思い出も今日で塗り替えるのよ!っとエメリアは嬉しそうに外出の準備をする。
「それにしても良かったですね。テオバルト様と共に領都を見て回ることができて」
ライラの言葉の通り、テオバルトがエメリアに会いに来るのでせっかくだから近くの街並みを見に行ってもいいですか?とエメリアが前もって両親を説得していたのだった。
「そうだね。テオバルト君が一緒なら大丈夫だね。ライラもタカーギ君も傍にいてくれるからね」
今回見学するコースはライラが家令から事前に説明を受けているのでエメリアはテオバルトと同じく話を聞く側に回ることになった。
エメリアの役に立てるのが嬉しいライラは前日までに完璧に説明する内容を覚えていた。
「ライラはシュテイラー領の事ってどれくらい知っているの?」
外出の準備を終えテオバルトが来るまでに時間があったのでエメリアは疑問に思っている事を聞いた。
「そうですね。前職では私はあくまでもエレニ様付きの侍女ですので、シュテイラー領については詳しくありません。エレニ様が女神としてシュテイラー領を守護されるまでに知識はつけないといけないなとは思っていましたが」
「へぇ〜。じゃあ、シュテイラー領付きの天使も存在するの?」
「はい、もちろんです。天使だけではなく妖精もいますよ。あっでも私は、エメリア様専属ですからね!」
ライラは大切な事なので二度伝えますと真剣に言った。
エメリアは知っていますよ~!私のライラだもんねと言うと喜んで少し光そうだったので慌てて落ち着かせた。そして、話を元に戻す。
「そうなんだ~。でも私は妖精を見たことがないわ」
「そうですね。基本的に人は妖精を見ることができません。妖精に好かれると話は別になりますが。そしてエメリア様としては聖魔法が少し使えるという設定になっていますので妖精が好んで近くにはこないですね。しかし、女神として本気で呼べばたくさんきますよ。みんな女神様が大好きですからね」
ライラの話を聞きながら昔天界で学んだことを思い出した。
確か、女神が直接指示を出すのは天使に対してのみで妖精には天使がお願いをすることがあっても指示を出すことはない...。と
そのことをライラに聞くと、フフフと笑いながら
「そうですね、妖精は気まぐれですからね。聞いてもらえればラッキーぐらいの事しかお願いしませんね。どうしても実行して欲しい場合は上位の妖精に依頼しますね」
「色々あるんだね」
「...。一応、エメリア様もその辺は学びましたからね?覚えておいてくださいよ。ちなみに、女神が妖精に直接お願いをすると、時々天使に昇進したりしますからね。気を付けてくださいね。それだけ力が強いということですからね!」
ライラの最後の言葉遣いが母様に見えた...。気を付けよ。
エメリアとライラが楽しく?天界トークをしているとテオバルトが到着したことが伝えられた。
2人は邸のエントランスにテオバルトを迎えに行きしばらくすると、テオバルトとタカーギがいつもとは違う平民が来ている服装で現れた。
「エメリア嬢、お待たせしましたか?」
テオバルトは微笑みながらエメリアに尋ねると、エメリアは首を横に振った後
「いいえ、私達も今準備ができたところですよ」
と答えた。
今日は、すぐに外出する為エメリアの両親への挨拶は後回しでよいと言われていたので早速領都へ向かうことになった。
今回はお忍びなので普段使用している馬車よりも質素な使用人が外向きの用事がある時様の馬車に乗って向かった。
エメリアは向かい側に座っているテオバルトを見た後
「テオは、アル兄様から何か聞いていますか?」
と質問をした。
テオバルトは少し驚いた後、タカーギを見る。するとタカーギはライラに目配せをしたあと一つ頷いた。
「はい。アル兄さんからエメリア城がシュテイラー領の女神であること、そしてアル兄さんの実の妹であることを聞いています。」
「そうでしたか...。実は、女神時代の記憶を思い出したのは、魔力鑑定の時なんですよ。」
「えっそうなんですか。僕は婚約した時には既に女神の記憶があると思っていました。」
エメリアは首を横に振ると
「ライラが私の記憶を戻すタイミングを見計らってくれていまして。そのタイミングになりました。」
「そうでしたか...。でしたら、僕の事は何か聞いていますか?」
「テオ様もどこかの男神なのですか?えっ親戚?兄弟?」
エメリアは一瞬パニックになった、さすがに身内と結婚するのはどうなんだろう?と思った。
段々顔色が悪くなるエメリアを見たテオバルトが思わず吹き出すと
「ふっ、すみません。大丈夫ですよ。僕は別の世界の神の子なんです。この世界には留学で学びにきているのですよ」
「えっそうなんですか?」
驚いているエメリアにテオバルトは微笑みながら一つ頷いた。
「はい、そして隣にいるこのタカーギは私の御使い、エメリア嬢のいつもお傍にいるライラさんと同じ立場の人です。」
とテオバルトに紹介されたタカーギは、エメリアにむかって小さくお辞儀をした後
「佐久様の御使いの命を承りますタカギと申します。以後宜しくお願い致します。」
と自己紹介をした。その姿は、黒髪・黒目で普段の姿とは少し違っていた。
「僕の神名は佐久って言うんです。でも、この世界ではあまり聞きなれない音なのでこの世界の両親に付けてもらった『テオバルト』でお願いします。あっもちろんこれまでどおりテオって呼んでくださいね」
僕の本来の色もタカーギと同じなんですよ。と教えてくれた。
馬車移動の短時間だったがテオバルトとの距離がぐっと近くなったような気がしたエメリアだった。
話が落ち着いたのでしばらく馬車から見える風景を楽しんだ。
そして、今回使用している馬車は外装は質素だが内装はそこまで悪くなかった。時々両親もこれを使って外に出ているんだろうなとエメリアは思った。
「この馬車は、見た目と違い座り心地がいいですね~」
とテオバルトもエメリアと同じことを思ったみたいで少し嬉しかった。
「そうですよね。きっと私の両親もお忍びの時に使っているのだと思います」
とエメリアはクスクス笑いながら答えた。テオバルトも納得したらしく「なるほどね~」と呟いていた。
30分ほど馬車に揺れた後、街の入り口にある馬車の停車場に着くと四人は馬車から降りた。ライラは御者に帰宅予定の時刻を伝えると皆の元に戻ってきた。
「お待たせいたしました。さて、さっそく街中をご覧になりますか?」
ライラの問いかけにエメリアはブンブンと音が鳴りそうな勢いで頷いた。
隣でテオバルトが笑っていたけれど聞こえなかったことにした。
領都ということもあり、とても栄えていた。活気のある市場に行きかう人々の笑顔をみるとエメリアは無意識に心が暖かくなった。元々は貴族街を覗く予定だったがエメリアがどうしても平民の生活が見たいと我儘を言ったのでテオバルトにも付き合ってもらうことになった。
エメリアが嬉しそうに街並みを見学していると、隣でテオバルトは目を輝かせながらライラやタカーギに色々質問していた。
エメリアも聞きたいことがいっぱいあったが人々の笑顔や会話の風景を見ているだけで心が満たされていくのでもういいかなっと思い始めていた。
「みんな本当に幸せそうな表情をしているわ」
エメリアは思わず呟くと斜め後ろを歩いていたライラが
「それは当然です。ここの領民は女神さまに愛されていますからね!」
と嬉しそうに答えていた。
すると、その会話を偶然聞いていたお店の主人が
「そうだよ!シュテイラー領の女神エレニ様は慈悲深く俺たちを見守ってくれているからこうして安定した生活を送ることができるんだよ!あっもちろん領主様の統治力もすばらしいけどね!」
主人の言葉を聞いたエメリアはそうなんですね~と答えながら目頭が熱くなるのを感じた。
ライラはすばやくハンカチをエメリアの目元に当てる
「お嬢様、これをお使いください」
「ありがと」
そして、テオバルトもエメリアの背中をそっと触れると
「エレニア嬢良かったですね」
とエレニアにだけ聞こえる声で伝えてきた。
エレニアも嬉しくなって思わず頷いた。
すると、主人の隣で店番をしていたおかみさんも
「女神様もそうだけど、聖女ローザ様も時々街に降りてきては癒しの力で助けてくださるんだよ!」
と嬉しそうに教えてくれた。
「聖女ローザ様ですか?」
テオバルトはおかみさんに尋ねると
「そうなのさ、女神様に愛されているのが聖女様さ。どうやら妖精様付きで癒しの力をもっているんだよ。時々教会にきては困った人を助けてるんだよ。坊ちゃんも気になるんだったら見に行っておいで。すごくかわいい女の子だよ!」
「ああ、そうさせてもらうよ」
とテオバルトはお店の商品をいくつか買いながら答えていた。
「まいどあり~」
買った商品を近くの広場で食べることにした。
ちょうど開いているベンチがあったのでライラとタカーギが準備を始めた。
それを眺めているエメリアに
「聖女様って昔エメリア嬢が言っていたあの子のことかな?」
エメリアはライラとタカーギを見ながら
「ええ、そうです。従妹のローザ姉さまの事ですね。でも、私の印象はテオバルト様に初めて伝えた時とあまりかわらないのですね。」
と言いながら小さく溜息を付きテオバルトの方をみながら
「領民が幸せなのでしたらそのままでも良いのかなと思ったりします。」
「エメリア嬢は本当にここの民を愛しているのですね」
テオバルトが感心しながら伝えると
「できればテオバルト様にも領民を大好きになってもらえると嬉しいですね!」
エメリアは微笑みながらテオバルトを見た。
「そうですね...。僕も、領民に認めてもらえるように頑張ります」
と言いながらテオバルトはエメリアの手をギュッと握った。
「エメリアお嬢様よかったですね」
とライラはそっとテオバルトの手を外しながら話しかけた。
少しシュンとなったテオバルトをタカーギが慰めていた。
「少しずつ行きましょう...。」と言いながら。
テオバルトはタカーギに苦笑いをしながら頷いた。
「皆様、冷めない間に頂きましょう」
ライラが声を掛けてくれたのでみんなで座って食べることにした。
先ほどの店主が打っていたのはベビーカステラ風の焼き菓子だった。
一口サイズの甘いお菓子を皆で少しずつ食べたのだった。
「あまり食べすぎるとせっかくのお昼ご飯が入らなくなりますよ!」
とライラに注意されたエメリアとテオバルトだった。
お菓子を摘んだ後、少し教会に寄ることにした。
もしかすると聖女が活動しているかもしれないからだった。
「聖女様のご活躍も見学しましょうね」
ライラは気に入らないらしく少し棘のある言葉で表現していた。
エメリアはそんなライラの感情が珍しいなと思いながらも教会へ向かった。
教会は街の中心に時を知らせる役割も兼ねて建てられていた。
「私は、シュテイラー領の教会を訪れるのは初めてです」
テオバルトは興味深そうに教会を見上げた。
「基本的に教会の形は変わりませんよ。ただ領によって祭られている神像は違います。テオバルト様の領は男神ですがさきほど店の主人も言っていたようにシュテイラー領は女神が守護しているので女性の像ですね。」
ライラは得意げに説明をしていた。まあ、自分の領域だもんね。テオバルト様少しライラの自慢話にお付き合いください。とエメリアは心の中で謝っていた。
教会にも小さな広場があり時々教会主催のバザーなどが行われていた。
「今日は、広場に何か行われているみたいですね?」
先に進んでいたライラが小さなテントに人が集まっているのを見つけた。
「少し先に行って確認してきます」
と伝えるとタタッとそのテントを確認しに行った。
しばらくすると
「今日は、聖女様が体調の悪い人を見ているみたいです。そばで見学するの事もできるみたいなので一応見てみますか?」
別に見なくてもいいと思いますがと小さく付け加えていた。
「せっかくだからローザお姉さまの雄姿を見に行きましょう」
エメリアは無条件に領民を手助けしてくれているローザを見たくなりこっそり見学することにした。
最後までお読みいただきありがとうございました。




