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前話でエメリアが苦手だといったローザ視点です。
私はローザ・シュテイラー6才よ。
シュテイラー領と同じ名前だからよく領主の娘って思われるんだけど、私は領主様の弟の娘なの。だから、領主様は叔父様ってわけ。
お父様自身の階級はええっと確か子爵だったと思う。
お母様がお父様のいないところで悔しがっているのをよく見かけるわ。
でも、お父様と叔父様はとても仲がいいの。
私も色んなプレゼントを貰うからルードルフ叔父様は大好きよ。
もちろんアマリア叔母様も私を可愛がってくださるわ。
でも、アマリア叔母様と仲良くお話ししていると後でお母様に怒られるのよね。
そして、時々お母様は「本当はローザがこのシュテイラー領の当主になる予定だったのよ。エメリアが生まれる前まではね」と私に言い聞かせていたわ。
「でもお母様、ルードルフ叔父様にはエメリアがいるので私はこの子爵を継ぐのでしょ?」
「...。でもね。ローザはシュテイラーで一番初めに生まれた子なのよ。エメリアさえ...。」
その話をする時のお母様のお顔はいつも少しだけ怖いの。でも、それは内緒。
「とにかく、ローザはいつでもがんばってお勉強しましょうね」
「は~い」
良かった、いつもの優しいお母様に戻った。
この国では、5才になると魔法鑑定を行うの。
教会に行って「あなたは、この魔法が得意ですよ」って教えてもらうんだって。
でも、平民と呼ばれる人たちはあまり魔力がないんだって。だから魔法鑑定を行うのは主に貴族階級の子ども達なんだって。
私も、お父様とお母様の三人で教会に行ったの。
いつみても教会はキラキラ輝いていてすごいなって思っちゃう。
きっと女神さまが私達を見守ってくれているのだと思う。
だから、私もいつも一生懸命お祈りをするの。
「女神様、どうかシュテイラー領の皆が幸せになりますように」ってね。
魔力鑑定の日も先にお祈りをしてから向かいましょうとお母様が言ったので集会が行われる場所に向かったわ。この領地は女神様がお守りしているので大きな女神像が建てられているの。
その日はいつもよりキラキラが多かったような気がするわ。
そして、そのキラキラが私に向かって集まってきたの
とっても不思議だったけど、早く魔力鑑定をしなければいけなかったのでそのまま個室に移ったの。
丸い球体みたいな物に(怖かったから)目をつぶって触れると
おおぉ~。
何人かの神父様が声を出していたわ。
私は少し怖かったけどそのままそっと目を開けると、周囲にいつもキラキラ見えていた何かが少し集まっていたの
「これは、妖精様ですね。ローザ様は女神様の覚えがよろしいのでしょう」
神父様のその言葉にお母様はすごく喜んでいたわ。
「神父様、もしかしてローザは聖女様なのでしょうか?」
そして、声を震わしながら質問をしていたわ。
神父様はニコリと微笑みながら頷き
「そうですね。こんなに妖精様を引き寄せるのは聖女様ぐらいしかいませんからね」
大人の会話は少し難しかったけど、お母様が喜んでいたのでいいことなのだろうなって思ったの。
「では、ローザは教会預かりになるのでしょうか?」
お父様は不安そうに質問すると
「いいえ、強力な聖魔法が使えるわけではありませんのでそれは大丈夫ですよ。このまま妖精様に愛されるように生活していてください。それだけでローザ様もこのシュテイラー領も豊かになりますよ」
「...。そうですか。ありがとうございます」
どうしてお父様は不安げなお顔をしているのかな。お母様みたいに喜んでくれないのかな?
帰りの馬車でお母様が
「さっそく、ルードルフお義兄様に報告しましょう。今日は晩餐に呼ばれていましたよね?」
「ああ、そうだな。兄上に報告をするべきだろう」
シュテイラー本邸に着くと、お母様はさっそく叔父様に私が聖女であることを伝えたわ。
叔父様も叔母様もすごく喜んでくれたの。エメリアは侍女に抱っこされながら一緒に喜んでくれたと思う?3才だからあまりよく分かってないかもしれないけどね。
そして、次の日から本当に大変だった。色んな人が子爵家に挨拶にくるのよ。
もちろん
「ローザ様、おめでとうございます!」
とわざわざ言いに来てくれるのよ!本当に驚いたわ。
お母様に尋ねると、「聖女様は女神様に愛されているって言われているわ。だからみんなローザに会ってその祝福を分けてもらおうと思っているのかもしれないわね」
と嬉しそうに教えてくれたわ。
私ががんばれば皆にも祝福をおすそ分けできるのかな?
寝る前にベッドで呟くと、私を見に来てくれたお母様が
「そうね。領民の為にもがんばってお勉強しなくちゃね」
と言いながら頭を撫でてくれた。
そして
「シュテイラー領をエメリアと一緒に支えていくのよ」
と言うとそのまま私の部屋を出ていったわ。
少しお顔が怖かったけど...。気のせいよね?
それから私はお勉強、マナーと色々いっぱい学んだのそして、時々ルードルフ叔父様の邸に遊びに行ってエメリアと一緒にお茶を飲んだりするのだけど...。
「エメリア、そのようにお菓子を食べてはいけないわ。」
「エメリア、果汁水を飲みすぎるとお腹がいたくなるわよ」
私がエメリアの年には出来ていたマナーがエメリアが全然できていなかったことに驚いた。
ついつい注意をしてしまうと最後の方にエメリアが涙目になってしまった。
「エメはまだできない...。」
と言いながら、専属の侍女に甘えに行く。
その状況に私は少しイラっとしたの。どうしてみんなもっと厳しく指導しないのかしらって
その気持ちがお顔に出てしまったみたいで
「申し訳ございません。ローザお嬢様、エメリアお嬢様にはまだ難しいみたいです」
とエメリアの代わりに頭を下げるライラと呼ばれる侍女が謝った。
「いいえ、私も厳しい?のかしらね」
「ローザお嬢様は御立派でございますよ」
とライラは微笑みながら誉めてくれた。お家では当たり前の事だからたとえ侍女でも誉めてはくれない。そんな優しい言葉を掛けてくれる侍女を付けているエメリアが少し…羨ましかった。
「さあ、エメリアお嬢様もローザお嬢様を少しは見習いましょうね」
と言いながら先ほど私が注意した事を丁寧に説明していた。
なぜか分からないけど、胸のあたりがキュッと苦しかった。
そして、少しだけ、ほんの少しだけ涙が出そうだった。
(私もあんな侍女が欲しかったな)
思ってはいけないって分かってるけど...。ね。この心の奥に表現できないモヤモヤした気持ちが芽生える。
するとローザの周囲にいた妖精がローザの頬にキスをすると一人消えた。
その日もお母様は御用があると言ってシュテイラー本邸に向かった。
私も一緒に連れていかれた。
あの事があってから私はなるべくエメリアに会わないようにしていたけど、お母様に一緒に来なさいと言われるとついていくしかなかったの。
相変わらず難しい事は分からないけど、侍女たちの噂話を聞くとどうやら私が聖女なのだから領主は私の方がいいんじゃないかという提案を定期的に言いにいっているらしい。
お母様は私が子爵を継ぐのは反対なのかな?お勉強とかがんばっているけど足りないのかな?
お母様のお話合いには一緒にいられないのでその時は中庭でお花を見ることにしているの。ここのお庭はとても綺麗で、私は薔薇が咲いているこの場所が特に大好きだった。
一通り薔薇を見た後、侍女に「そろそろ戻りませんか?」と言われたのでそのままお母様のいる部屋に戻ろうと思ったの。
その時、お庭の奥の方で背の高い男性と私より少し大きな男の子が手をつないで邸に戻って行く姿を見たの。
「ねぇ、あの子...。」
私が侍女に誰?と聞く前に「バチン!」本当にそんな音が聞こえるぐらいの衝撃で、彼と目があったのよ!
彼は従者に話しかける途中でこちらを見たと思うのだけど、彼の瞳を見た瞬間心をギュッと掴まれたような気分になったの。そしてドキドキって胸がなったの。
伸ばしかけのシルバーアッシュの髪を緩く首元でまとめ、アメジストのような瞳をキラキラと輝かせていたわ。綺麗な男の子だったわ。男の子でも綺麗って言葉が合うのね。
部屋に戻ってお母様とルードルフ叔父様にその子の話をすると
「ああ、エメリアの婚約者のテオバルト君の事だと思うよ」
と微笑みながら教えてくれた。
「婚約者?」
ルードルフ叔父様はうんと頷くと
「将来この領をエメリアと一緒に守ってもらおうと思ってね」
「まぁ、それでは、ドナード様はお婿にきていただくのですね」
お母様は確認するかのように尋ねていた。
「ああ、アマリアとドナード夫人が約束をしていたみたいでね。条件も整ったしこの後契約書に署名をする予定なんだ」
「そうでしたの。では、私たちはお暇させていただきますね。お時間を頂きありがとうございます」
お母様はとても丁寧に挨拶をしたわ。
「いいんだよ。可愛い姪っ子に会えたしね。また落ち着いたらテオバルト君も紹介するよ」
というと、部屋を出ていったわ。
お母様は、叔父様の背中を見送った後
「私達も帰りましょうか」
と言って、玄関に向かった。
私は帰る前にもう一度テオバルト様にお会いしたかった。
でも、会えなかった。代わりに、テオバルト様より大きいお兄様とすれ違ったわ。
テオバルト様に似ていたからご家族の方かな?と思いながらそのまま馬車に乗った。
帰りの馬車でお母様は何も言わずにずっと外の景色を眺めていたわ。
そういうときはお母様に話しかけてはいけないの。なぜって色々考え事をしているからよ。
だから、私も考えることにしたの。
「ねぇ、お母様」
「私ががんばってシュテイラーの領主になれたら、テオバルト様の婚約者になれるのかしら?」
テオバルト様はシュテイラー領の領主と結婚するのだったら...。
「そうね...。」
窓の外を見ていると思ったお母様がいつの間にか私の方を見ていた
もしかすると怒られるかもしれないなと思いながら言葉を待っていると
「お母様は、ローザを応援するわよ」
とても嬉しそうに微笑んでくれたけど、やっぱり怖いお顔のお母様だった。
そして、ローザの周囲にいた妖精が一人消えた。
【補足】
エメリア 4歳
ローザ 6歳
テオバルト 8歳
ライラ 11歳
アルノルト 15歳
最後までお読みいただきありがとうございました。




