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見習い女神、ただ今職場体験実施中  作者: 鈴木 澪人


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エメリアが4歳になった年に婚約者ができた。

隣の領であり、夫婦同士がとても仲が良く、子どもが恵まれないアマリアを同じ女性として時に励まし、時に話を聞いてくれたドナード夫妻の第二子テオバルト・ドナードだった。


 始めは、第一子のアルノルトにと話を進めていたがアルノルト本人に確認すると、青ざめた顔で「父上、私は将来教会に行きたいと思っています。どうか考え直してください」

と最後の方では泣き始めた。両親が普段冷静なアルノルトの荒れように驚き、そこまで神の元で祈りを捧げたいのであれば仕方がないが、そうなるとテオバルトが必然的にドナード領を継がなければならなくなる。さて、シュテイラーも第一子しか今の所いない。


 どうしましょうかねと、テオバルト達の母デリアとエメリアの母アマリアが話し合いという名のお茶会をたびたび開いていた。


 しかし、そんな2人に幸運な事が訪れた。なんとデリアとアマリアが同じ時期に懐妊したのだった。安定期に入り嬉しそうに報告すると、「あら?貴方もそうなの?」と目を見合わせながら笑いあったのがいい思い出になった。


 ただし、2人の夫はとても気まずそうに明後日の方向を見ていたのはここだけの秘密の話だった。


「じゃあ、早速2人を引き合わせてみましょう!」


「ええ、そうね。こちらでいいかしら?」


最終的にはテオバルトがシュテイラー家に婿に入るという事に決まったので、彼がエメリアに正式に会いに行くことになった。


シュテイラー領には本日の主役のテオバルト、兄のアルノルトそして父、最後にテオバルトの専属従者のタカーギが訪ねることになった。デリア夫人は大事をとって今回はお留守番だ。


 父は、馬車の中で仕事をする必要があったので息子たちとは別の馬車に乗った。テオバルトとアルノルトは彼らが普段使用している馬車に乗り込んでいた。領主用の馬車よりもグレードは落ちるがそれでも十分に乗り心地は良かった。

そして初めて遠出をするテオバルトは興味深げに窓の外を眺めている。


 その様子をアルノルトは眺めていたが。

「どうだい?この世界はテオの世界とは違うかい?」


テオバルトがあまりにも目を輝かせながら景色を見ているので話を聞きたくなった。

「はい、アル兄様。いつも邸からきれいな空を見ていましたが、()()()()でもこのように青空が広がっているとは思いませんでした!」


透き通る青に時々浮かんで見える白い雲、舗装されていない土は茶色で草花は鮮やかに咲いていた。


「ん?テオ、どういうことだい?空が青いのは普通だろ?」


アルノルトが面白い事を言うねと続けて話すと、テオバルトは首を横に振りながら


「結界のない空は薄墨のような空ですよ。夕方になると黒と紫の間に近い色になります。いつも何かに覆われていました」


私の世界は...。とはあえて言わないテオバルトにアルノルトは心を痛めた。


「そうだったんだね。」


お互い15歳(アルノルト)8歳(テオバルト)になっていたのでこちらの言葉で意思疎通はできていたがさすがに邸のなかでテオバルトの世界の話をするのは第三者に聞かれるのはよろしくないということになりなかなか話題にはならなかった。


テオバルトは引き続き外の風景を眺めながら

「そして、とても空気が綺麗ですね。息を吸っても胸がチリチリとなりません。アルお兄様は領の方々に本当に愛されているのですね」


テオバルトは綺麗な笑顔で微笑んだ。

テオバルトの世界は、領民の心と世界は連動しているのかな?と疑問に思いつつもアルノルトはありがと、と言った後


「でもね、テオ、これは私だけの力ではないんだよ。私の前の守護者もその前の守護者もこの領民を大切にしていたから私のことも(現男神)大切にしてもらえるんだ。」


テオバルトは真面目な表情で話を聞く。


「だから、私の代で領民たちが悲しい思いをしないようにがんばらなければいけないんだ」


そういいながらアルノルトはテオバルトの頭をポンポンと叩くと


「テオはそういうことを学びにきているんでしょ?少しずつ見ていこう」


「はい!アル兄様」


こうして、シュテイラー邸に着くまで兄弟で色々話をしながら時間を潰した。


 隣の領と言っても近代的な乗り物はまだ存在していない世界なので移動するだけで数時間かかってしまう。魔法で移動する事もできるがかなり魔力を消費するのでその方法はあまり使われていない。


 シュテイラー家のエントランスに馬車がたどり着くと、外側からタカーギが

「アルノルト様、テオバルト様到着いたしました。ドアを開けます」と伝えてからゆっくりとドアが開かれた。

先に、アルノルトが降り、次にテオバルトが降りた。父親は既に馬車から降りていてシュテイラー当主と軽く雑談をしていた。


 状況が理解できていない様子の綺麗なドレスをきた女の子が母親の手をギュッと握ってこちらを見ていた。


「エレニ...。」テオバルトしか聞こえない音量でアルノルトが呟いていた。


きょうだい(兄妹)と言っても中々会える環境ではないのだろう。

アルノルトを見てテオバルトは少し心が苦しくなった。あの世界以来の気持ちだった。


「まあ、王子様達が着いたわよ。エメリア、きちんとご挨拶できる?」


アマリアがエメリアの背中をそっと押すと、小さく一歩前に出て


「エメリア・シュテイラーです!四歳ですっ!」

と言いながらぎこちなくカーテシーをした。

テオバルトはついアルノルトの表情が気になりちらりと横目で確認すると


 (アル兄様、微笑みすぎて表情が保てていませんよ...。)


と思わずテオバルトが心の中でアルノルトに指摘してしまうような表情だった。

アルノルトはそんなテオバルトの心の声が聞こえたのか、すぐにキリッと表情を元に戻した。


 (そのような兄様も良いとは思うのですよ)


と再び心の中で伝えると、アルノルトは「んんっ」と気持ちを立て直すために喉を鳴らした。

そして、女の子の前に行くと


「かわいいご挨拶をありがとう。私は、アルノルト・ドナードだよ。アルって呼んでね」

アルノルトはエメリアの視線に合わせて優しく話しかけた。


それを感動しながら(再開!!)見ていたテオバルトだったが、アルノルトに声をかけられて自分が名乗っていなかったことに気づいた。


「申し訳ございません。私は、テオバルト・ドナードです。テオって呼んでください」

アルノルトに習って自分も呼びやすい愛称を伝えた。


エメリアは小さい声で「アルお兄様とテオお兄様、覚えられるかな」

と呟いていた。


「さあ、お待たせしたね。食堂に昼食の準備をしているんだ。お腹を落ち着かせ~をしてからゆっくり初顔合わせと行こうじゃないか!」


ルードルフは楽しそうに皆に話しかけ、そのまま食堂へ案内された。

昼食を食べた後は、ルードルフ、フォルカ(アルとテオの父)、アルノルトは談話室へエメリア、テオバルトそしてそれぞれの侍女と従者の四人で中庭へ散策へといった。


エメリアはまだ小さいのでテオバルトに手をつないで貰いながら自分がお気に入りの場所を教えることにした。


「ここがね、私の秘密のお気に入りの場所なの」


だから「しぃ〜」ね!と人差し指を立てながら教えてくれた。

テオバルトは「はい、秘め事ですね」と言いながら一緒に同じポーズを取った。



近くのベンチに座ってしばらく花や飛んでいる蝶を眺めていると

「今日はね、エメが大きくなったら一緒に住む人が来るってお母さまに教えてもらったの」


エメリアは足をブラブラさせながら話始めた。


「でもね、エメは良く分からなくて。テオ兄様は分かる?」


自分の疑問をテオバルトに投げかけてみた。

テオバルトは言葉を選びながら


「ん~。そうですね。エメリア嬢にはまだ難しいかもしれませんね。」


「そっか、難しいかぁ~」

難しいのは困っちゃうな~と呟いていたので、テオバルトは小さく手をポンと叩いてから


「では、始めはよく会いに来るお友達というのはどうでしょうか?エメリア嬢はまだお茶会とかはないと思いますが、御親戚が遊びに来られたりしませんか?」


テオバルトの言葉に、エメリアは思い当たる人がいるらしく「あっ」と言った後、表情が暗くなった。


「どうかされましたか?」

エメリアが口を尖らせて不満を表しているのでテオバルトは聞いてみることにした。


「いるよ!よく遊びにくる子。従姉なんだけど、いつもエメにいじわるばっかり言うの」


「それは...。」

テオバルトの考えの遥か先の回答に少し困ってしまった。


「なんか、ローザちゃんはせいじょ?なんだって」


「聖女様ですか?」


テオバルトはこの世界には女神に愛された人を聖者や聖女と呼ぶことがあると学んだ。


「でも、私は違うと思うのよね~。だって、せいじょさまってあんなにいじわるではないと思うの!」


エメリアは何かを思い出して怒っているようだった。


まあ、本家(女神)が違うと言っているのだから違うんだろうな

とテオバルトは判断した。

あとで、アル兄様に確認した方がいい内容かもしれない。


テオバルトはエメリアの他の話、好きなお菓子やお気に入りのぬいぐるみの話をたくさん聞くことができた。


 二人で楽しく話をしながら庭から戻ろうと手をつないで歩いているとエメリアの足元がおぼつかなくなってきた。

「エメリア嬢?」

テオバルトはエメリアの方を見ると、気を張って疲れたのかウトウトし始めていた。


「すみません、気付きませんでした」

テオバルトはエメリアに呟くと近くに控えていたタカーギにシュテイラー家の者を呼ぶように伝えた。


しばらくすると他の打ち合わせで少し席を離れていた侍女のライラが乳母と共にテオバルトの前に現れた。


「すみません、エメリア嬢は疲れてしまったみたいで」

テオバルトはとりあえず近くにあった東屋にエメリアを連れていき膝枕をしながら待機していた。


「もうしわけございません。」

その状態をみたライラは少しおどろいた後、一緒に来ていた乳母にエメリアを連れていくようにお願いした。

ライラは、テオバルトとタカーギにお辞儀をした後エメリアを連れていった侍女の後を追いかけた。


その姿を見送ったテオバルトとタカーギも大人たちが談話している部屋へと戻った。


その後、双方の両親で婚約についての契約を完了させた。


【補足】

 エメリア   4歳

 テオバルト  8歳

 ライラ   11歳

 アルノルト 15歳


最後までお読みいただきありがとうございました。


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