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シュタイラー領のエメリアが生まれる4年前に私の弟が生まれた。当時私は7歳になったばかりで新しい命に感動していた。
この命にも加護を与えてあげなければ!!
生まれてきたばかりの弟の額に手をかざすだけで私は加護を授けることができる。
さあ、お前もこの領地で幸せにおなり!!
あれれ?おかしいな?いつもだと、額が『ピカッ』て光って終了なんだけど。
私は何度も弟の額に手をかざしていると
「アルノルトお坊ちゃま、弟君がお可愛らしいのは分かりますがあまりいたずらは宜しくありませんよ?」
私に引き続き弟の乳母にもなってくれるジルケが優しく注意をする。
「すまない。あまりにもテオが可愛かったので触ってしまいたくなるのだ」
「ええ、ええそうですね。しかし、テオバルトお坊ちゃまはまだまだたくさん寝なければなりません。起きている時にいっぱい話しかけてくださいませ」
ジルケの真っ当な正論を聞いた後、私は自分の部屋に戻った。
私の名前は、アルノルト・ドナード。このドナード領の領主の第一子だ。
生まれた時から、この領地を託されている為7歳と言えども教育も少しずつ始まっている。
この国は地域によって守護している神が違う。
このドナード領は男神が守っている。
どうして、神様の話をしているのに断定しているのかって?
それは、この領地の守護神はこの私『アルノルト・ドナード』だからである。
もちろん、この名前は人族であるお父様とお母様が命名した名前だ。
神族名は『男神・ソル』である。
主神である父はある一定の年齢になると人族の世界の自分の領を学ぶために降りなければいけない。とおっしゃられた。私も、向こうの世界で一通り学んできたので許可を得てこちらに来ている。
そして、私は将来はこの領の教会で神父長になり一生を終えたいと考えていた。
私の大切な領民の願いや希望などを直接聞きたいと思ったからだ。
ということは、私以外の誰かがこの領地を治めなければならない。
両親にそれとなく弟や妹が欲しいと言い始めて早5年。ようやく私の願いは叶った。
あまり強く願うと、まだこちらにきて日が浅い私はそれを実現してしまうので加減が本当に難しかった。がんばったもんね!
そして、前もって主神に許可をえてから聖魔法の力を濃く出せるように調整し魔法鑑定の結果見事将来は教会預かりの身となる(予定だ)。
しかし、本来ならば魔法の鑑定が出た地点で教会預かりになるのだが将来領主になる予定の私の立場では簡単に許可をしてもらえない。
そんな領主の責任をこの可愛い弟に押し付けてしまう罪悪感から私は他の者よりも強めに加護を与えようとしたが
「弾かれてしまうとは...。」
少し不安になった私は乳母から邸にある小さな祭壇の部屋でお祈りをするのでその部屋には誰も入れないようにお願いをした後
『我が神であり、父である主神よ。我が声を聞き入れてください。』
周囲に誰もいないことを確認した後、神語で祭壇に向かって語りかける。
神語と言っても、我々が使う言語という意味だ。
『どうした、ソルよ?何か問題でもあったのか?』
主神の声が直ぐに聞こえたきた。結構マメな父である。
『はい、私にようやく弟が誕生しました。しかし、その弟に加護を授けようとしたのですが受け入れてもらえませんでした。もしかすると...。』
この世界には魔法が存在する。魔法が生活に大きく関わる人間は一部だが魔法を悪用すると汚染され下手をすると魔物が発生する。元は同じだが性質が異なりこれがかなりやっかいになる。あまりにこの魔物が増えるとこの地に魔王が召喚されるからである。
そして、たいてい召喚された魔王はかなりご立腹であり召喚した者にブチ切れる。
私は経験したことがまだ無いが以前叔父が「もっのすごい怖いから。ボク達じゃ無理だったからお兄さん呼んだもんね」と涙目で訴えていたことがあった。(あれは確か魔王召喚の体験談を聞こうの授業の時間だった)
魔王がブチ切れた理由を最終的になだめた主神に尋ねてみると
「ああ、あの時、クロードは一世一代のプロポーズの時だったんだよ。指輪を見せるために箱を『パカッ』ってしていたらしいよ」
魔族も結婚するんだなぁ〜とか、指輪パカッってなんだろうとは思ったがとても大切なイベントらしい。
ちなみに主神(神様の一番偉い人)と魔王(言わずとも知れず魔族の一番偉い人)はある一定の力がある者たちの持ち回りらしい。それぞれ次代が決まると(これも当代は分かるらしい)幼い頃から引き合わせて一緒に学ばせるそうだ。(主神談)
兄弟みたいに(姉妹やきょうだいの時もあるらしい)育て、余計な争いを起こさない為のシステムらしい。もちろん主神と魔王は今では飲み友達だ。
確かに上位種族が揉めると全てに影響が出てしまうからな。
主神は笑いながら「魔王って召喚されるとき一定の文言みたいな物があるのよ。それをクロードに一緒に考えて欲しいって子どもの頃言われて二人で色々考えたのだけども、クロードの父が『そんなん、考えるだけ無駄や。呼ばれてる時はたいてい頭に血が上ってかぁ~ってなってるからな!』と笑いながら教えてくださったのだけどその時の私達は意味が理解できなくてね。クロードも『そんな訳ないやろ〜。はよ決めて遊ぼっ』とか言い出して...。」
「で、結局召喚された時に言った文言が『お前ら、いーかげんにせぇ〜よ。呼んだらアカン三大イベントの一つやっちゅうねん!!!(こんな発音だったと思う)』って言ってたと思う」どうやらその時が魔王の初召喚だったらしく主神も心配してこっそり魔王城に行って見学していたらしい。魔族の一員として。
「そして、魔物を一番多く呼んだ領地に速攻で向かって一番魔物を発生させたその当時の当主を...。ねっっ」主神はそれ以上は言わずにウインクをした。
あ~処されたのですね。
ちなみに、今魔王を呼ぶと赤ちゃんが生まれたばかりで育児を一緒に担っているので忙しいらしく漏れなく召喚した者は処されそうな気がすると主神が遠い目で言っていた。
話がかなりそれてしまったが、私は祝福を受け入れない弟はもしかすると《魔》を寄せ付けやすい体質なのかもしれないので注意した方が良いのか確認する為だった。魔法はやはり貴族階級の者が発現しやすい。そして、人族は力が備わると必要以上に誇示したくなりやすいらしい。その側面には《魔》が潜んでいるという事を何度間違いを起こしても忘れてしまう。
さすがに、ここの守護をしている私の弟がそのような立場になるのはよろしくないので主神に指示を仰ぎたかったのだ。
『あ~、その子他から一時的にこちらに来ているのよ。タイミング的にソルやエレニと同じ時代(に降りてきた)だったからソルに面倒を見てもらおうと思って』
『えっエレニはまだ早くないですか?』
『それが色々あってね。ペナルティーを課して早めにそちらに下ろすことにしたんだ。今回みたいに気になることがあったらここに来て相談してくれたらいいから。しばらくえ~とテオバルト君とエレニをよろしく頼むね』
『では、テオバルトは加護を受け付けなくても問題はないのですね。』
『ああ、彼のご両親がガッチガチに加護をかけているのでしょう。問題ないよ。』
主神はそういうと母に呼ばれたのでそろそろ会話を終了するねと言って天界へ戻られてしまった。
私は、再びテオバルトが眠っている部屋に乳母から許可をもらい入る。
生まれたばかりの赤ちゃんは眠るのが仕事だからなっ。
私は繁々とテオバルトを眺めた後、弟と私しかいない部屋で
「我が弟よ。例えどこから来ようとも兄が大切に守ってやるからな」
と囁くように話しかけると
『はい、アルノルトお兄様。今世よろしくお願いします』
赤子はパチリと目を開けたと思ったら、神語で私に話しかけた。
「そうだよね...。別の所から来ても神は神という事か...。」
私は無事に教会で神父として活動できるのだろうか一抹の不安を覚えた
人族7歳の春先だった。
裏サブ・エピソード お兄ちゃんは苦労性の予感!!!
最後までお読みいただきありがとうございました。




