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「ナギ様、ナミ様、ここはもう危のうございます。御寝所にお戻りください」
山の頂きから見る光景は二柱の心を痛める景色だった。
「まだ、なんとかなるであろう。」
ナミは荒れ狂う世界に手を差し伸べようと体を前に傾ける。
背後で御使い達が「おやめください」などと口々にしている。
すると、肩をそっと掴まれる。
ナミは振り向くと悲しい表情のナギが首を横に振りながら
「我らにできることはない。信仰無き今、力など出せない」
「父上〜。母上~。」
ナミとナギが言い合っていると小さい男の子が二柱の袖を引っ張った。
二柱はその男の子の為に膝を折ると
「佐久、父様と母様はこれからこの地を離れなければならない。」
両親の言葉に首を傾ける子ども
「でも、このとちを えいえんに まもっていくのが ぼくの おしごとでしょ?」
「ええ、今まではそうでした。しかし、我らの子は加護を必要だと思わなくなった」
「みんな ぼくのこと きらいになったの?」
佐久は悲しそうに尋ねた。
母親は立ち上がったが、父親はまだ佐久を見つめながら
「いいや、そうではない。我らの事を気にする余裕のない時代なのかもしれぬな」
父親の言葉の意味を佐久はまだ理解できなかった。
「タカギはいるかい?」
ナギの言葉を聞いたタカギは一瞬で目の前に現れる。
「ナギ様、いかがなされましたか」
タカギはギリギリまで手助けをしていた為、体のあちこちが煤けていた。
「我ら一族が神使としてこの土地を佐久様と共に賜っていたのに誠に申し訳ございません」
片膝をつき頭を下げながら力不足を謝罪する。
「頭を上げよ。この惨劇は我らとて手の施しようがない。全てのものが怒りに満ちている。」
ナギの言葉にタカギは顔を上げ、主の表情を確認する。
ナギは両手を上げると
「さぁ、我らの子よ。そなたらの望みの様に我らはこの地を去ろう。全ての怒りが収まった時、もう一度対話をしようではないか!」
そう宣言すると、ナギたち神は自分たちの寝所に戻っていった。
誰も見守るものがいない星が漆黒に包まれるのに時間はかからなかった。
天界に戻ってきたナギは少し体を休めるとナミに話しかけた。
「あの地域は残念だったが、佐久をこれからどうするかが問題だな」
「そうですね。このまま天界にいても我らの子の事を学ぶことはできませぬ」
二柱が悩んでいると
「ナギ様、ナミ様、『留学』というのはいかがでしょうか?」
身を清めたタカギが提案してきた。
ナギは少し考えてから
「でも、あの子を受け入れてくれる場所などあるのだろうか」
タカギは眼鏡をクイッと上げると
「それが神使仲間に話を聞いたのですが、ある世界の女神が修行として人界に降りたそうなのです。その近くなら佐久様が降りられましても影響が少ないのではと」
「でも、あちらの領域にお邪魔するのも申し訳ないわ」
ナミが頬に手を当て悩んでいると
「では、聞いてみたらよいな。カコ、こちらへ参れ」
と神使に声をかけると
「はい!ナギ様、いかがなされましたか!」
かわいい鹿の子が現れた。
「ここへ行って、佐久が滞在していいか確認してもらえるか?」
「はい、ナギ様かしこまりました。フッ軽で行ってまいります」
「ふっつかる?か?頼んだぞ」
ナギの願いを聞き入れたカコはそのままどこかへ消えてしまった。
しばらくすると
「ただいま戻りました!ちょうど主神様の娘様も降りるそうなので娘様のお兄様がおられる所に行くのはどうだろうか?とご提案を頂きました」
タカギは早っと内心思ったが、情報をくれたあの子に感謝した。
ナギとナミはその言葉を聞いて安心するとすぐにカコに「了解した」との旨を伝えるように再び使いに出した。
「とりあえず、佐久の今後の見通しができて良かったわ。後は、誰を一緒に行かせるかね」
ナミはナギに佐久の神使についてどうするのか尋ねると
「ナギ様、ナミ様、どうかそのお役目私に務めさせて頂けませんか?」
タカギは再び膝を付き、頭を下げた。
ナギはうんうんと頷きながら
「タカギに行ってもらえるとありがたいよ。佐久をよろしく頼んだよ。ああ、そう、佐久は途中で気が付くと思うから混乱した時は手助けをしてあげてね」
ナギの説明にタカギは「はっ」と返事をした。
「じゃあ、佐久を呼んできてくれる?」
ナギがタカギに言うと「少々お待ちください」と言いその場を離れた。
「佐久と離れてしまうのは寂しいわ」
ナミは佐久の学び場所が確保できたことに安心するが、思いのほか早く佐久と別れなければならないことに母親として寂しく思った。
そんな、ナミの気持ちを汲むようにナギが声をかける。
「人生は長くとも60年ぐらいさ、無事に終えたらこちらに帰ってくる。そして、我らの子を見守らなければならぬ。それが本来の佐久の使命だからね」
ナギが優しく説明すると、ナミも気持ちが落ち着いてきたようだった。
「ナギ様、ナミ様、佐久様をお連れしました」
「父上、母上、およびでしょうか」
「そうだ。佐久は本来あの土地で子らを見守るのが仕事だと言っておったな」
「はい。」
「しかし、子らは理の怒りに触れ我らさえあの地に留まる事は叶わなくなった。そこで、佐久に修行に言ってもらうことにした」
「しゅぎょう ですか?」
「ああ、子を見守るには佐久も一度人として生活をするのも良いと思ってな。」
「父上と母上も ごいっしょですか?」
「いいや。我らはこの世界の天界に存在しなければならぬ。佐久だけ行っておいで」
父親に突き放されたと思った佐久は涙目になりながら
「ぼくはなにか ばつをうけなければいけないことを したのでしょうか?」
たどたどしい言葉で父親に理由を聞くと父親は立ち上がり佐久の頭をなでる。
「いいや。佐久は何もしていないよ。そう、そして何も知らないんだ。本来ならば我らと一緒に土地を見守りながら学んでいくはずだったのだが佐久もあの土地を見たであろう。我々の手が届かぬ所まで人は落ちてしまった。その代わりに違う場所でそれを学んでおいで。タカギが一緒に行ってくれるぞ」
佐久はタカギを見ると隣で佐久の目線まで腰を落とすと
「佐久様、私もお供させていただきます。どうがご不安にならずに佐久様の子らのためにお学びくださいませ」
佐久はタカギがいるなら寂しくないと思いうんと頷いた後
「父上、母上、さくはしゅぎょうに いってまいります。そして、こらのために がんばって まなんできます!」
その言葉にナミは涙がながれそうだったが、グッと堪え
「佐久は男の子です。立派に精進されよ」
と言いながら佐久を抱きしめた。そして、耳元で「強くなられよ。愛しい佐久」と言うとそっと体を放した。
それから数日後、佐久とタカギは修行をしに留学に行った。
神様の設定はフワフワのふんわりです。
最後までお読みいただきありがとうございました。




