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教会の中庭には事前に今日の事を領民に告知していたので人が集まっていた。
そしてよく見ると治療も始まっていた。
「私は時間に遅れたのかしら?」
不安になったエメリアがエステリに確認すると
「いいえ、遅れていませんよ。今日は聖女様も一緒に活動されるという事です」
「まぁ、ローザお姉さまも来ているのね」
「はい、そうでございます。ローザ様はいつもこの時間から開始されていますのでエメリア様が遅いという事ではございません」
エステリの説明に安心しているとローザ達がいる場所に到着した。
「エメリア様が到着されました」
エステリの言葉で、作業中の教会関係者が一斉にこちらを見た。
「エメリアです。今日は一日よろしくお願いします」
小さく頭を下げると「頭をお上げください」と神父長に言われた。
「そうよ、今は一人でも多くの人を見なくちゃいけないわ」
ローザも癒していた手を止めてエメリアに言った。
「さぁ、こちらに来なさい」
ローザの隣に呼ばれエメリアが近づくと
「とりあえず、段取りを説明するわね。基本的には教会の人が一人ずつ案内してから軽く症状を説明します。その症状によって癒していくのよ。エメリアは癒しの座学と練習は?」
「はい、担当の教師からは癒す許可を得ています」
エメリアの言葉にローザは頷くと
「では、始めの一人だけ私が傍で付いてるわ。次の人を呼んで頂戴」
ローザの言葉通りに病人が連れてこられた。
「この方は、薬を処方してもらっていますが咳が止まらないそうです」
エメリアはローザを見て一つ頷くと
「少し体を見せてもらいます」と言ってから体に手をかざした。
そして、目をつぶり『治りますように』と心の中で唱えると患者の体の一部が少し光った。
その様子を見たローザも患者に手を当て
「うん。治っているわ。この調子で患者を見て言ってちょうだい」
「はい、ありがとうございます」
エメリアのお礼を聞いたローザはうんと頷くと、自分の担当の人に
「ここは、エメリア様がいてくださるから私は待機している人たちを確認しにいきます。一緒に付いてきてください」
と言った後、どこかへ出かけてしまった。
エメリアが次の患者を待っている間に、神父長がやってきて
「ローザ様に説明を受けたのですね。聖女様はさっそく外で待機している人で重症になっている領民がいないか確認に行きましたか。ホッホッホ。」
意外とお転婆な聖女様なのですよと神父長は小さな声で教えてくれた。
エメリアはローザの意外な姿に驚きながらも神父長と一緒にクスクス笑った。
そして、次々と患者を治していった。
午前の部が終了したのでエメリア達は神父長達と一緒に昼食を取ることにした。
シンプルな教会の職員専用の食堂に気が付けばローザも戻ってきていた。
「お疲れ様です。ローザお姉さま」
エメリアの隣の席に座ったローザに声をかけると
「エメリアが来てくれたおかげでいつもより多くの人を癒すことができたわ。やはり日を別々にするよりも今日みたいに合同で活動した方がよいのかもしれません」
最後の方の意見は神父長に伝えたローザだった。
神父長はうんうんと頷きながら
「今日のお二人のご様子を見たところとても良い雰囲気でしたのでそれもよいかもしれませんな」
と肯定的な意見だったが、何かを思い出すと
「ただ、シュテイラー子爵に確認してみたいと私個人では判断できませんな」
神父長の言葉に、エメリアは、ああそうだな~。と思いながら出された昼食を口に運んでいた。
「・・・。そうですね。私からもお父様に提案してみますわ」
ローザは少し落ち込んでいるように見えた。
午後からは、貴族の患者を見る時間だった。
以前の事があったのでエメリアとライラは少し緊張していたが、改善されているのを知っているローザは肩の力を抜きながら
「・・・。大丈夫よ。もう以前のような事は起きないから」
と隣のソファーでリラックスしながら優雅にお茶を飲んでいたローザだった。
「…。ありがと」
突然ローザはエメリアに小さな声で言った。
「貴方が訪問してくれた後、貴方のお父様がきちんと対処してくれたわ。私のお父様もあまり気付いてなかったみたいで…。」
「私は、何もしてないよ。遅くなってごめんね…。」
エメリアの言葉にローザは表情を変えなかったが口元が少しだけ上がったようだった。
そして、ローザの周りでキラキラ光っている何かが少しだけ大きくなった。
ライラはそれを眉をひそめながら見ていた。
午後も無事に癒し作業を終えたので神父長とシスター・エステリに挨拶をして教会を後にした。
ローザとは午後の診療前の会話以降特に深い話にはならなかったが二人で手分けして作業することは苦にもならなかった。
昔からこんなに心地の良い関係だったら良かったのになとエメリアは少し思った。
でも、ローザが意地悪でエメリアに色々小言を言っていたわけでは無かったと理解できたのはここ最近だったのでやはり自分はまだまだだなと反省した。
帰りも領都の街並みを見たいとエメリアは言っていたのでそのまま馬車が待機している場所までゆっくりと歩いて見ることにした。
「あっ、ライラ、この服のまま帰ってきちゃった。」
エメリアは今日もらったばかりの制服もどきが嬉しくてそのまま着て帰ってしまったのだった。
「もぅ~、ライラも教えてくれたら良かったのに!」
エメリアは少し頬を膨らませながらライラに抗議をした。
ライラはクスクス笑いながら
「エメリアお嬢様、大丈夫ですよ。教会からはきちんと許可を得てますからね」
ライラが言うにはエメリアがあまりにも喜んでいたのでシスター・エステリに事前に確認してくれていたらしい。
「ここだけのお話しですが、ローザ様も今のエメリア様と同様に初日は着て帰ったそうですよ」
と教えてくれた。
エメリアは、ローザもそんな事をするんだな~と少しくすぐったい気持ちになった。
そうして、エメリアとライラと護衛の四人で帰っていると
「聖女様!聖女様!助けてください!」
泣きながらエメリアに向かって駆け寄ってきた少年がいた。
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