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見習い女神、ただ今職場体験実施中  作者: 鈴木 澪人


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 ローザの件があってから数か月後、エメリアは父親に呼び出されたのでライラと一緒に執務室に向かった。


「いらっしゃい、エメリア。さあ、ソファーにお座り」


父親に促されてソファーに座ると、父親もエメリアの向かい側に座った。


「さて、今日はエメリアに2つのお話をしたいんだ」


「はい、お父様」


エメリアは父親がこれから何を話すか予想できないのでそのまま聞くことにした。


「まず一つ目、ローザの件だがきちんと処理を終えたよ。詳しくは話せないけどもうローザが嫌な思いをすることはないだろう」


「それは良かったです!」


エメリアが話してからかなり時間がたっていたのでもう教えてくれることはないと思っていた矢先だったのでとても喜んだ。


「そして、二つ目なんだが…。」


「はい。」


「エメリアもそろそろローザのように奉仕活動を始めないかい?」


「はい!始めます!」


エメリアが前のめりになって返事をしたので、父親はアハハと笑いながら


「了承してくれるとは思っていたが、こんなに元気よく答えてくれるとは将来有望だな!」


と嬉しそうに言った。

そして、すこし真面目な表情になり


「あの件は結局ローザが周囲の大人に言えなかった。言っても途中でもみ消されたという点が最大の問題だと思ってね。だから少しでもオープンにする為にエメリアにも参加してもらい外部の目を強化したいんだ。ローザもエメリアもまだまだ小さいがこんな責任重大な事を任せてしまって申し訳ないね」


父親は申し訳なさそうだったが、エメリアは念願の領民と実際に交流することができるのでとても嬉しかった。



 父親の提案で奉仕活動をすることになったが、結局領主の娘が活動することになるので各種の準備や段取りに日数がかかりエメリアの活動デビューの日が決まった時には8歳になっていた。

 

  奉仕活動当日、エメリアはいつもよりシンプルな服を着てライラと一緒にエントランスへ向かった。


「エメリアお嬢様、小走りになってますよ」


フフフと笑い声と共にライラに指摘された。


「本当?恥ずかしいわ」


エメリア自身は無意識だったらしくそういえばいつもより階段につくのが早かったような気がした。


「階段は足を滑らせると危ないのでゆっくり降りてくださいね」


ライラは優しく注意すると。


「は〜い」と言いながら歩く速度を戻し、階段を降りていった。


階段を降りるとすぐにエントランスになっているので待機していた家令に出発する旨を伝えようとした時


「エメリア」


父親と母親が揃ってエメリアの前に現れた。


「お父様!お母様!」


両親には前日報告をしていたので今日の見送りはないと思っていたので少し驚いた。

それが両親に伝わったのか


「せっかくだからエメリアの初めての活動日を見送ろうかとアマリアと話し合ったんだよ」


「そうなの。エメがいつのまにかこんなに成長をしていただなんてね」


母親は少し涙ぐみながらエメリアの頭をそっと撫でた。


「お父様、お母様、今の私にできることが何かを考えてがんばってきます!」


エメリアの言葉に両親が頷くと、ライラと一緒に屋敷を出た。


 今回は屋敷から直接教会に行くのではなく、領都の中心街に馬車を止めてもらい街並みを歩きながら教会に向かう事にした。

ライラの力があればエメリア一人を守ることは簡単だったがさすがにあからさまに人前で力を出すことはできないので、二人の護衛がついた。


エメリアにとって二人の護衛はお兄さん的な存在だったので街中でも皆で楽しく会話をしながら歩いていった。


 エメリアは立ち止まって街中にいる領民を見渡した。


大きな声で呼び込みをし昼食のパンを売る元気なパン屋の息子

野菜を値切る客に、今日だけだよとおまけを出している主人

馬車専用道路で慌ただしく移動している貴族

道端で他愛のない世間話をしている人


生き生きしている人たちを眺めたエメリアは心が温かくなった。


「エメリアお嬢様?」


斜め後ろからライラが声を掛けてきた。

護衛の二人もきちんとエメリアに合わせて待機している。


エメリアは両手を胸に置いてからもう一度だけその景色を眺めると再び教会に向かって歩き始めた。


斜め後ろについていたライラがエメリアの隣につくと


「どうかされましたか?」と小声で尋ねてきた。


「なんでもないの。ただ、ここの領民は幸せそうだから見てると心が温かくなっただけ」


エメリアはライラを見てニコッと笑った。


「そうですね。エメリアお嬢様のご両親が心を込めて管理してくださっているんでしょうね」


「そうだね」


エメリア達はそのまま教会に向かった。



 教会に着くと正面からではなく関係者が入る通用口から入っていった。

先触れが出ていたらしく、神父長を始めとした教会関係者が何人か並んで待機していた。



「今日はエメリア様の初めての奉仕活動ですからね。私も立ち会わせて貰おうと思いましてね」


神父長はニコリと微笑みながらエメリアに声をかけた。


「はい。今日はよろしくお願いします。」


前日に父親から神父長の立ち会いの話を聞いていたので素直に了承した。


「シュテイラー嬢、今日はこちらを来てください。」

神父長と一緒に待機していたシスターがそう言いながらライラに服を渡した。


「お部屋はこちらを用意しています」


と引き続き言われたのでエメリア達はそのシスターの後を付いていくことにした。


「後で合流しましょう」神父長が移動するエメリア達に声を掛けた。



シスターが案内してくれた部屋はシンプルな客室だった。


「この服は、教会関係者の制服の一部です。これを身に着けているとそう判断されます。後、多分ないとは思いますがシュテイラー嬢のお召し物が汚れないように予防策として着ていただきます」


それでは私は外で待機していますのでお仕度をよろしくお願いします。とシスターが告げるとそのまま部屋を出ていった。


「エメリアお嬢様、さっそく用意をいたしましょうか?」


「うん。お願いね」


教会から支給された制服は上から被るスモッグみたいな服だった。

ただ、袖や襟元や裾に綺麗な刺繍が施されていた。

エメリアが着ていた洋服を一度脱ぎそのスモッグを頭から被り予め持ってきていたズボンを履いた。


「この髪だと動きにくいと思いますので少しまとめますね」とライラに言われ髪を三つ編みにしてもらった。


客室に備えてあった姿見で全身を確認したエメリアはライラの方を見ながら


「どう?変じゃないかな?」と言いながらくるっと一回りして見せた。

少し長めのスモッグに空気が入りフワッと膨らんだ。


「はい、エメリアお嬢様はいつも素敵です。」

ライラは胸元で手を組みながら自分の言葉に何度も頷いていた。


「ウフフ。ありがとう。さて、シスターを待たせているしそろそろ行こうかな?」


ライラがエメリアを褒めたたえると少し時間がかかるので話を反らすことにした。


ライラにドアを開けてもらうと、シスターが静かに佇んでいた。

そして、エメリアを見ると自分の子どもを見るように少し表情を崩した後、すぐに真面目な表情に戻した。


「シスターお待たせしました。」


エメリアが声を掛けると


「いいえ。大丈夫です。自己紹介が遅れて申し訳ございません。私はエステリと申します。これから、シュテイラー嬢の担当となりますよろしくお願いします。」


丁寧な自己紹介をシスター・エステリから貰ったのでエメリアも


「私は、シュテイラー家の長子。エメリア・シュテイラーです。私の事はエメリアと呼んでくださいね」


小さくカーテシーをしてエステリに自己紹介をした。


「ありがとうございます。では、エメリア様と呼ばせていただきますね」


「私も、シスター・エステリと呼びますね。さて、神父長も首を長くして待っているかもしれません。案内をお願いします」


そでございますね。とエステリも答え三人で今日活動予定の場所に向かった。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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