第四十話 家族の旅立ち
⦅して、お主たちはこれからどうするのだ?⦆
自分の話が終わり、飛竜が俺たちに問いかける。
特にアテがある訳じゃないけど……またマドレイが戻ってくると危険だし、ここからは離れたいかな。
それに、そろそろ生活に必要な物も買い足したいし。
「無事に子どもも生まれたから、どこか定住できる場所を探したいかな。スズネはどう?」
「そうね……私は、亜人に進化したい。それに、この子も……」
「ミィ?」
チビ助を顔に引き寄せながら、スズネが言った。
亜人にさえなってしまえば、表向きは人間に隷属されずに済むんだっけ。安全性の向上のためにも、目指していきたい。
それに、チビ助も。精獣がどんな存在かわからないけど、亜人になる道もあるかもしれないしな。
俺たちの話を聞き、飛竜はこらからの提案をしてくれた。
⦅ふむ……では、ここから西にある魔人の国を目指してはどうかな? 道すがら、魔素も多くあるだろう⦆
「魔人の国……」
この世界には、亜人の国があるのか。
それに魔人ということは、俺みたいな――スライムや物質系の亜人がたくさんいる国なんだろうな。
⦅魔人であるお主とその家族なら、入国も問題あるまい。あそこは亜人も魔物も共に暮らし、人間との交流もある⦆
「すごい! そんな所があるんだ!」
聞く限り、すごく良いところじゃないか!
国ってことは、仕事もあるだろうし。家を買うなり借りるなりして、定住することも出来そうだ。
横を見ると、チビ助を撫でながらスズネが何か言いたそうにしている。俺と目を合わせ、少し考え込んで飛竜に問いかけた。
「他の亜人の国も、あったりするのですか?」
⦅いや。国を作っているのは、魔人たちだけだな⦆
魔人の国があるなら、他もあるかもって思ったのか。もしかしてチビ助のために、獣人の国があったらと思ったのかもな。
でも実際は違うみたいだ。飛竜がそれぞれの種族の生活について、簡単に教えてくれた。
⦅鬼人たちも集落を作って生活しておるが、国というほどではない。獣人たちは他の種族の国や集落で暮らしたり、旅をしている者が多いな⦆
種族ごとに、生活スタイルがかなり違うんだな。あと、個体数の差も関係あるのかな。
でも魔人の国にも、獣人はいるみたいだ。スズネやチビ助の友達も、できるかもしれない。これから子育ても始まるし、同族の知り合いがいてくれたら心強い。
「竜人は? 里があるんですよね?」
⦅我らは数が少ない。里とは言っておるが、ねぐらのようなものよ。他とは交わらず、岩山に引きこもっておる⦆
「そうなんだ」
やや自虐気味に、飛竜は自分たちの説明をした。竜族って、この世界ではそんなに希少なんだな。
いつも飛竜が上空を飛んでいくから、全然そんな気がしなかったよ。
⦅ゆえに、里以外で竜や竜人に出会ったら――それが妹の子であろう⦆
「あっ! そういう事か!」
そんなに里以外に、竜はいないのか。手がかりとして、覚えておかなきゃな。
⦅さて、ワシはそろそろ行くかの。その前に――⦆
「ミッ?」
飛竜がチビ助を、じっと見つめた。それを感じて、チビ助も飛竜の方へ身を乗り出す。
⦅その可憐な娘の名を、聞いておきたい。いつまでもチビ助のままでは、可愛そうであろう⦆
「あっ……」
こればっかりは、どうしてもスズネと一緒に決めたかったからな。
無事にスズネも、起きてきてくれた。これでようやく、チビ助に名づけをしてやれる。
「そうだな。名づけが遅れてごめんな~」
「ミミィ? ミッミッ……」
首元を撫でてやると、チビ助はくすぐったそうに手足をバタつかせた。
可憐な娘、か。飛竜がそこまで言うくらいだから、魔物としてもすごく可愛い顔立ちなのだろう。
実際にスズネに似て、とっても可愛い美猫……美ミューアだ。
「あの名前でいい? ずっと前から決めていた」
「ああ、もちろんだよ」
転生する前から――俺たちが結婚したころから、決めていた名前。
女の子が産まれたら、その名前にしようと話していた。
スズネはまっすぐに娘を見つめて、その名を呼ぶ。幸せを願って。
「八重花――満開の花のように、たくさんの方々に愛される子になりますように」
「ミー?」
「お前の名前だぞ、ヤエカ!」
「ミィー!」
名づけられたことが分かっているのか、いないのか。俺たちの言葉に、元気に返事をするヤエカ。
この調子のいい、愛くるしさ――多くの人に、好かれるだろうな。
⦅うむ、良い名だ。ヤエカ……しかと記憶した⦆
そういうと飛竜は大きく羽ばたき、宙へ舞い上がった。
強く心地の良い風が、吹き付けてくる。まるで俺たち家族を、激励しているかのように。
⦅我が名はヴォルフラム。何か困ったことがあれば、竜岩山の我を訪ねよ。力になろう⦆
「あ、ありがとうございます!」
⦅さらばだ! 息災でな!⦆
別れの言葉を述べると、ヴォルフラムは一気に上昇。そしていつものように、一瞬で飛び去ってしまった。
ずっと恐れていたのに、とても良い方だったな。
「行っちゃったね」
「ああ」
「ミーミー!」
長話に飽きてしまったのか、スズネの手の中でヤエカが暴れ始める。
あまりにも元気いっぱいで、これからが楽しみで――不安だ。
ヴォルフラムが言ってたような、我が子が手に負えなくなる日。本当に、あっという間に訪れそう。
でもそれまでは俺たちが――たくさん愛していこう。
「俺たちも行こう」
「ええ」
「ミューミー!」
生まれ変わるほど遠い異世界で、ようやく出会えた新たな家族と共に。
俺たちは新天地、魔人の国を目指す。
第一部 転生して初めての子を産む話 完
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第一部 転生して初めての子を産む話 完結です。
十万文字前後で文庫本一冊分だと聞いて、そのボリュームを意識して構成・執筆しました。
本文は九万三千文字程度ですが、おまけ話も入れると十万文字達成かと思います。
準備期間を含めて二ヶ月ほどかかってしまいましたが、ようやく達成しました。
なんとか毎日更新も続けられて、ほっとしています。
第二部はこれからプロットや構成を作るので、少しお時間をいただきます。
次はヤエカちゃんの成長や、次の子が産まれる話を書きたいと思っています。
よろしければ、引き続きお付き合い下さい。
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どうぞ
よろしくお願いいたします。
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ヒロアキ
「ヤエカ~」
ヤエカ
「……?」
スズネ
「ヤエカ」
ヤエカ
「ミ~!」
ヒロアキ
「ヤエカ~」
ヤエカ
「……?」
ヒロアキ
「……チビ助」
ヤエカ
「ミ~!」
ヒロアキ
「……何か勘違いされている」
スズネ
「まだ自分の名前だって、認識できてないのかも」
ヒロアキ
「そんな!? あんなに感動的な名づけシーンだったのに!!」




