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異世界で俺はスライム、嫁はネコ ~転生しても妊活します~  作者: 明桜ちけ
第一部 転生して初めての子を産む話
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第三十九話 飛竜の願い

「剣……妹……?」

「あなたが……竜姫の家族……?」

⦅うむ……⦆


 まさかこんな所で、竜姫の家族に出会うなんて……。

 いや……本当はもっと前から、飛竜には出会っていたんだ。気づかずにいただけで……。


⦅あの日、天を貫いた光――あれは妹の力だと確信した。そして訪れてみると、お主たちがいたのだ⦆


 あの日とは、マドレイに襲われた日か。

 天を貫いた光は、スズネの光の剣のことだな。進化の直後とマドレイを攻撃したとき、空に二回飛んで行ったっけ。

 それで突然、飛竜が舞い降りて助けられたんだ。


⦅里を出ていってしまった妹を、ワシは長らく探していた。生きてはおらぬと覚悟しておったが……せめてどのような最後だったか、知っておきたくてな⦆


 そう言って、静かに頭を下げる飛竜。

 横を見ると、スズネもこちらを見ていた。もちろん、断る理由なんて無い。

 俺がうなずいて見せると、スズネもうなずき返した。


「竜姫も家族に謝りたいと願っていました。どうか、こちらを――」


 スズネは飛竜に近づき、竜姫の聖剣を差し出す。飛竜と対面した剣は、優しく光を放つ。


「ミーッ!?」


 光に驚いたチビ助が、俺にしがみついてくる。それをなだめながら、飛竜たちを見守った。

 うなずくような唸り声が、静かに聞こえる。念話では感じなかった、深い悲しみが響いてくるようだ。


⦅お主たちが、妹を弔ってくれたのだな。礼を言おう⦆


 話が終わったのか、剣の光が消える。飛竜は俺たちに向かって、深々と頭を下げた。

 そしてゆっくりと頭を上げると、竜姫について話し始める。


⦅妹は特別な力を持った娘でな。好いた男がおったが、結ばれることが許されなかった⦆

「それで、故郷を出ていったんですか?」

⦅うむ⦆


 それであんな森の奥の、洞窟の中で暮らしていたのか。好きな人と、一緒にいるために――。

 俺は胸元にしがみついているチビ助を、ゆっくり撫でた。特別な力を持っているって……一体、どんなものだったんだろう?


⦅本当は二人の仲を、認めてやりたかった……だがワシが認めたところで、他の者が許すわけではない。そして力になれぬまま、妹たちは里から姿を消してしまったのだ……⦆

「そう……だったんだ」


 飛竜も、すごく後悔していたんだな。それでずっと空を駆け回って、妹さんを探していたんだ。

 こんな形だけど、見つかって良かったな。


「あの、この剣……お返しします。大切な、妹さんの形見ですもんね」


 スズネは竜姫の聖剣を、飛竜に差し出した。しかし飛竜は、首を横に振る。

 その顔は、少し寂しそうだ。


⦅いや……その剣は御母堂に持っていて欲しい⦆

「え……」

「いいんですか?」


 俺たちは顔を見合わせる。ずっと探していた妹さんなのに、それでいいのだろうか?


⦅妹が探していた家族とは、ワシのことでは無かったようだ⦆

「そんな!?」

「どういうことです?」


 せっかく竜姫の家族と、出会えたと思ったのに。他にもっと会いたい、大切な家族がいるってこと?

 複雑な顔の飛竜が、残念そうに答える。


⦅どうやら妹は、子を身篭っていたようでの。産まれる直前に、何らかの理由で転移してしまったようだ⦆

「ええええっ!?」

「そんなこと、ありえるんですか!?」


 妊婦のお腹の中から、子どもが勝手に出ていくなんて……。

 聞いただけで、恐ろしくなる。その子、無事に成長できたのだろうか?

 理解が追いつかない俺たちに、飛竜はさらに言葉を続けた。


⦅火や氷を吐きながら産まれる子もおる。親の能力を引き継いでおれば、転移もするだろう⦆

「あぁっ……」

「す、スズネ!? しっかり!!」

「ミーッ!!」


 あまりの衝撃に、スズネが崩れ落ちる。俺はとっさに、その体を支えた。チビ助も驚いてか、スズネの胸元に飛び移る。

 異世界や魔物の妊娠って、そんなことも起こり得るのか。スズネの出産が無事に終わって……生きて戻ってきてくれて、本当に良かった……。


⦅ちと、刺激が強すぎたか……すまぬ⦆


 申し訳なさそうに、飛竜がつぶやく。

 こっちは、出産を終えた直後だからな。我がことのようで、肝が冷えてしまった。

 次の子を産むことがあったら、回復薬を大量に用意しておこう。あと、俺も回復魔法覚える。なるべく上位のやつ。

 

⦅そしてこれは、ワシからの頼みなのだが……もし妹の子に会うことがあったなら、その者に剣を委ねて欲しい。ワシでは、人里におりるのは難しいからの⦆


 ああ、そういうことか。飛竜がおりてきたら、地上は混乱しそうだもんな。

 それに竜姫は人の姿をしていたし、恋人さんも一部人の姿をしていた。二人とも、亜人や準亜人だったのだろう。

 そうすると子どもが人と竜、どっちの姿をしているかもわからないしな。

 

「引き受けていいか? スズネ」

「うん、もちろんよ。自分の子に会えないなんて、悲しすぎるもの」

「ミー?」

 

 スズネは剣を鞘に納め、胸元のチビ助を引き寄せる。

 顔も名前もわからない相手を探すのは大変だろうけど――竜姫の願い、叶えてあげたい。

 

「わかりました。竜姫の子に会ったら、そうします」

⦅よろしく頼む⦆

「ミーッ!」


 知ってか知らずか、元気に返事をするチビ助。

 これから家族一緒に、旅をして行こうな。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


■■■■


ヒロアキ

「妹さん、駆け落ち同然であの洞窟にいたんだな」


飛竜

⦅歳の離れた妹でな……ワシには想像のつかん行動に出る娘であった。まさか、里を出ていくとは……⦆


ヒロアキ

「それだけ、恋人さんことが大切だったんですね」


飛竜

⦅そうだ。ワシはそれを知っていたのに……解ってやることが出来なかった……⦆



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