第三十八話 精獣の子
「ほーらほらほらほら~」
「フミャーッミャッミャッミャッミャ」
俺の膝の上で仰向けのチビ助の、お腹をくすぐってやる。嬉しそうに手足をバタバタさせる姿、とにかく可愛い。すっかり俺の事を、遊んでくれる人と認識したようだ。
チビ助の誕生から、約二週間。手の付けられなかったチビ助も、ようやく懐いてくれた。
「フミ~……ミ~……ミ~……」
笑い疲れたチビ助が、俺の手から逃れてスズネの元へ行く。そんな我が子を、スズネは優しく舐めまわす。
子どもの世話に慣れてきたころ、犬の魔物の家族はパッタリと姿を見せなくなった。自分たちの役目は、もう終わったと言うことだろうか。
お別れなら、ちゃんと挨拶がしたかったんだけど……別れは、突然おとずれるものだな。
「ミューミューミュー」
「はいはい」
休憩が終わったのか、チビ助は俺の膝に飛び乗った。そしてどんどん体を登っていき、頭の上に到達して俺の額を舐める。これは俺に、立ってくれという合図を送っているのだ。
おねだり通りに立ち上がると、チビ助は頭から地面へ飛び降りる。そしてまた俺の体を登っていき、飛び降りるを繰り返す。
この小さな体のどこに、こんな体力が有り余っているのか……。
「ミー……ミー……ミー……」
「ん? チビ助?」
体に伝わる振動が消え、声が遠くなっていく。急にどこへ行ってしまったのだろう?
「ミィィィ〜………………ミィィィ〜………………」
「チビ助〜どこだ〜? お~い? お~……おぉぉぉい!?」
声を追ってチビ助を探していると、飛竜の元へたどり着いた。そこには飛竜の背中から尻尾にかけて、すべり台のようにすべるチビ助の姿が。
そんな……もうお父さんの体じゃ満足出来なっちゃったのか!? じゃなくて――
「申し訳ありません!! チビ助、降りてきなさい!!」
「…………ミッ!!」
飛竜の背中の上で、立ち退きを拒否するチビ助。体を突っ伏して、飛竜の背中にしがみついてしまった。
⦅かまわぬ。子どもとはこういうものだ⦆
いつもよりかなり優しい口調で、飛竜が念話を送ってきた。ギリギリ威厳を保とうとしているが、ものすごく甘い感じになっている。
見かけによらず、本当に優しい方だよな。
⦅なかなか愛らしい娘だ。いずれ誰もが認める、美獣となることだろう⦆
「え……チビ助、女の子なのか……」
⦅お主……⦆
真底呆れた目で、飛竜が俺を見る。
だってあまりにも元気だから、男の子かと思ったんだもん! あと、小さいからタマタマが見えないのかなって……。
⦅まぁ、よい。後ろを見てみよ⦆
「え……あっ!?」
振り向くと、そこには人の姿のスズネが立っていた。心なしか大人びていて、すごく綺麗だ……。
俺の体は、自然とスズネに駆け寄ってしまう。
「スズネ、もう大丈夫なのか? 痛いところとか無いか?」
「うん、平気。心配かけちゃったね」
「そんなこと……」
思わずスズネを抱きしめる。
たくさん辛い思いをしたのは、スズネなのだ。謝る必要なんて、これっぽっちも無い。こうして無事に戻ってきてくれただけで、十分だよ。
「ミュ〜」
「あ……」
「ふふ……一緒がいいのね」
いつの間にかチビ助が、俺たちの間に滑り込んできた。小さな体を、器用にこすり付けてくる。うん、可愛い!!
⦅御母堂よ、御体の具合はよろしいのか?⦆
「はい。お気遣い、感謝いたします」
俺から体を離し、スズネは飛竜に向かってお辞儀をする。チビ助は、スズネにくっついてってしまった。
スズネは顔色も良いし、すごく良い笑顔だ。本当に、すっかり回復したんだな。
「あの日、私たちを助けていただきありがとうございます。それにずっと見守っていただいたのに、お礼が遅くなり申し訳ありません」
⦅かまわぬ。事情が事情だったからの⦆
そう言うと、飛竜は立ち上がり体勢を整える。そして俺たちの方を向き、祝辞を述べた。
⦅この度はご出産、言祝ぎ白し上げる⦆
「ありがとうございます」
「あ……ありがとうございます」
「ミュ―」
あらためて言われると、すごく照れるな。
チビ助も俺たちに合わせて、一緒に返事をする。そんなチビ助を、飛竜はまじまじと眺めた。
⦅とても美しい、精獣の娘だ。この目で拝む日がくるとはな⦆
「精獣……」
「ミュグゥ?」
不安そうな表情で、スズネがチビ助を強く抱きしめる。
なんか仰々しい名前だな……種族名か?
「この子はミューアではないんですか? 精獣とは一体……」
⦅ふむ……⦆
俺の問いかけに、飛竜は少し考え込む。その様子に、スズネが不安そうに体を寄せる。
飛竜は俺たち家族の顔をじっくり見つめ、答えを告げた。
⦅とても強い力を秘めた子である……と、言っておこうか。この子が何者になるかは、この子自信が決めることだからの⦆
なんだか含みのある言い方だなぁ。
それにスズネの表情が、少し悲しそうだ……。
⦅御母堂よ。どうか自らの行いや、この子の将来を嘆かぬように。あなたは最善を尽くした。そしてこの子には、自分の未来を掴む力がある⦆
「……はい……」
⦅お主も、しっかり支えるのだぞ⦆
「!? もちろんです!!」
このままスズネを、悲しませたりしない!!
それにチビ助は、とっても元気で可愛すぎる我が子なんだ。これからきっと、良い家族になっていくさ。
「俺、スズネもこの子もずっと大切にする。愛してるよ、スズネ!!」
「……へへ……ありがとう。ヒロアキって本当、変なの……」
えー、そこは「大好き!」とか「愛してる!」じゃないの?
でも少し元気のなかったスズネが、照れながら笑ってくれた。それだけで、俺は嬉しい。
⦅――さて、一方的に話し続けて申し訳ないのだが……私の用件も聞いていただこう⦆
おおぅ……飛竜が居るのに、結構長くイチャイチャしちゃったな。チビ助も、お腹のあたりで暇そうに暴れている。
飛竜はまた体制を整え、スズネに願い出た。
⦅御母堂の持つ剣……妹に会わせて欲しい⦆
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
■■■■
ヒロアキ
「そういえばスズネ、どうしてずっとミューアの姿だったんだ?」
スズネ
「出産の影響か、擬態できなくなってたの」
ヒロアキ
「そうなんだ……その、結構不安だった。戻ってくれて、嬉しいよ」
スズネ
「私も……お話できて、嬉しい」
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