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異世界で俺はスライム、嫁はネコ ~転生しても妊活します~  作者: 明桜ちけ
第一部 転生して初めての子を産む話
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第三十七話 チビ助

「ワウンワウンッ!」

「ミーッ!! ミギーッ!!」

「えっ? こっち? こういうこと? あ、待って……あだだだっ!! うおっ!?」


 無事に出産が終わり、怒涛の子育てが始まった。

 依然としてミューアの姿のままのスズネ。体もまだ回復しないのか、寝ている時間が長い。

 そのため俺は母犬の魔物の指導を受けながら、子どもの面倒を見ている。


「フンギーッ!! フグーッ!! ミギューッ!!」

「すんごい暴れてるんだけど!? これで胸に近づけるの!? 噛み切られたりしない!?」

「ワウンッ! ワウンッ!」


 つべこべ言ってないでやれっ!! ……って、母犬は言ってるみたいだ。言葉はわからないけど、念話で感情がぶつけられる。

 手の上では、暴れ回るチビ助。俺の手のひらのスライムの部分に噛み付いて、ちぎれんばかりに引き伸ばしている。

 ちなみにまだスズネと話が出来ていないので、仮でチビ助と呼んでいるのだ。


⦅お腹を空かせて、甘噛みをしているだけだ。心配せず、お乳を飲ませてあげなさい⦆

「甘噛み……これが……」

「フンギュギュギューッ!!」


 お腹が空いただけで、この暴れっぷり……魔物の子育て、恐ろしい……!!

 俺の手に食らいついたまま、チビ助はジタバタ暴れる。この姿はまだまだ可愛いんだけど、このまま大きくなったらと思うと……。

 将来の不安に苛まれながら、おそるおそるチビ助をスズネの胸元に近づけた。


「チビ助〜ご飯ですよ〜絶対噛みつかないでね〜」

「フーッ!! フーッ!! …………ミュゥ」


 かなり血走った目をしていたチビ助だが、スズネの胸に近づくと急に大人しくなる。そしてぺったりとお腹に張り付いて、ミルクを飲み始めた。

 小さな手でスズネのお腹をもみもみ押しながら、ミルクを飲んでいく。ゴクゴクという音が聞こえそうなほど、チビ助は顔を大きく揺らしながら飲んでいる。

 やがてお腹が満たされたのか、チビ助はころんと地面に転がった。満腹になったら腹出して寝るとか、なかなか豪快だなぁ。


「ワウン!」

「え……抱っこするの? せっかく大人しいのに?」

「ウーッ!」

「わかったよ……」

「……ミッ!? ミギーッ!!」


 ああっ……やっぱり怒られたじゃないかー!

 俺は母犬の魔物にどつかれながら、チビ助をスズネの口元に連れてくる。今度は、ここに置けってことなの?


「……ミュアミュア……」

「ミギギギ……ミュ…………ミュゥ……」


 眠そうなまぶたをなんとか開き、スズネはチビ助を見つめる。そして大きな舌で、優しくチビ助の全身を舐めまわした。

 食後に動かされて不機嫌だったチビ助が、あっという間に気持ち良さそうに眠ってしまう。これが……母の力なのか……!?

 そのまま、スズネも一緒に眠ってしまった。はぁ……ようやく、一息つくな。


「ウッ! ウッ!」

「今度はなんなんだよ〜」


 母犬の魔物にどつかれて、俺は飛竜の元へと追いやられる。母犬はスズネたちから少し離れた場所に伏して、母子の様子を見守っているようだ。


⦅あの魔物は、お前を休ませようとしているのだ。少しこっちにいなさい⦆

「え……あ……」


 あまりにどつかれすぎて、考える余裕も無かったけど……そんな風に、気遣ってくれていたのか。

 俺は飛竜の横に、腰掛ける。天気が良くて、見晴らしがいい。崖の下から吹き上げる風が、気持ちよく抜けていく。


⦅産後のミューアは、攻撃的で凶暴だ。それなのに危険を顧みず、あんな近くで世話を焼いておる。よほどお主らに、恩義があるのだろう⦆

「そう……なんですね」


 だから俺を動かして、チビ助の世話をさせていたのだな。

 偶然出会って、食料を少し分け与えただけなのに。

 ずっと俺たちの世話をしてくれて、マドレイに襲われた時も命をかけて守ってくれた。

 俺たちの方が、大きな恩義を受けてしまったな。


⦅外敵からは、ワシが守ってやろう。お主は、奥方と子の世話に専念しなさい⦆

「ありがとうございます。チビ助、本当にやんちゃな子で……」


 そう言って、傷だらけの手のひらを飛竜に見せた。本当、毎日毎日大暴れなんだよな。

 飛竜は笑いながら天を仰いで、俺の手に回復魔法をかける。


⦅そう手を煩わせるのも、ほんの一時のものよ。すぐに手を離れ、何処かへと行ってしまう⦆

「はぁ……そんなものでしょうか……」


 今のチビ助からは、とても想像できない。

 あの子が大きくなったら、どんな姿なのだろう。今のスズネのような、魔物の姿だろうか。それとも、亜人の――


⦅お主はスライムの魔人のようだが……人間の波動も感じるの⦆

「えっ……あの……!」


 飛竜が俺の顔を覗き込み、不思議そうに呟く。そんなことも、飛竜にはわかるのか……。この飛竜は、一体何者なんだろう。


⦅お主らが何者であるか、詮索する気は無い。だが、魔物の時はほんの一瞬だぞ⦆


 太陽に雲がかかり、涼しい風が吹き抜ける。

 どこか遠くを眺めながら、飛竜は言葉を続けた。


⦅数年も経つと、立派な成体になる。そうなれば、親の手に負えなくなるぞ。与えてやれるのは、今だけなのだ⦆

「そう……なんですね……」

 

 そんなすぐに、大人になっちゃうのか……。

 言われてみればこの世界に転生して、まだ一年も経ってない。でも俺たち夫婦は大人になって、子供が生まれた。

 今のような時間は、本当に短いのだな。


⦅ちと、言いすぎた。わしが言いたいのは、お子の今を大切にせよということだ⦆

「……はい。ありがとうございます」


 また日が照ってきて、体が温まる。そろそろ、家族の元へ戻ろう。

 与えられるのは、今だけ――か。

 しっかり心に刻んでおこう。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


■■■■


ヒロアキ

「チビ助~そろそろミルクの時間だぞ~」


チビ助

「ミギィッ!!」


ヒロアキ

「あっ……どこに……自分でスズネのお腹に……」


チビ助

「ミュ……ミュ……フハァ……」


ヒロアキ

「ちゃんと舐めてもらいに……そんな……三日でこんなに成長しちゃうなんて……俺、泣いちゃう……」



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