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異世界で俺はスライム、嫁はネコ ~転生しても妊活します~  作者: 明桜ちけ
第一部 転生して初めての子を産む話
34/42

第三十四話 飛竜

 マドレイの襲撃を受けてから、二週間ほどが経った。

 あれからスズネは、一度も目覚めていない。そして突然現れた飛竜は、巣穴の前に居座り続けている。

 最初は何が起きたか分からず恐ろしかった飛竜も、今はすっかり慣れてしまった。もしかしたら、俺たちを守ってくれいるのかも……。


「スズネ、おはよう」


 毎朝、声をかけて体を撫でるのが日課である。あんな事があったから、ケガをしてないか心配なのもあって始まった。まぁ進化か回復魔法の影響か、大きなケガは残ってなかったんだけど。

 眠り続けるスズネのお腹はどんどん膨らみ、すっかり妊婦らしくなっている。呼吸は安定しているし、外傷もないから大丈夫なんだろうけど……本当は少しでも目覚めて、食事をしてもらいたい。


「さて、と。今日はどうするかな……」


 俺はというと、巣穴の改修に追われている。地面を抉られて、巣穴が野ざらしになってしまったからだ。とりあえず折れた木の木材や、分裂擬態で布を作ってテントのような巣を作った。

 これで、雨風はしのげているはず。


「ワウン!」

「ワゥン!」

「おはよう」


 テントの入口を開けると、犬の親子が挨拶をしてくれた。今日は母親と茶色い子だな。

 スズネを守ってくれた犬の家族も、全員無事だ。今は巣穴に居着いて、一緒に暮らしてる。

 そしてどうやら二組に別れて、行動しているよう。一組は狩りに出かけて、もう一組は俺たちのそばで見張りをしているようだ。


「バウバウッ! バウバウッ!」

「うわっ! だ、大丈夫だって。そんな遠くに行かないから……」


 見張られているのは、どうやら俺のようで……少しでも巣を離れようとすると、犬の魔物たちに取り押さえられてしまう。


「ちょっと水を汲みに行くだけだよ。すぐ戻るから」

「ウーッ! ウーッ!」

「……困ったなぁ……」


 茶色い子が、俺の服の裾に食らいついて離さない。あの日から、ずっとこんな調子なんだよな……。

 でも本当に、水がなくなりかけてるんだ。このままこの子をぶら下げて、水辺に行ってこようか……。


⦅奥方のそばに居てやりなさい⦆

「えっ……」


 突然、念話で話しかけられる。こんなハッキリと話す子なんて、居なかったのに。

 母犬と子犬を見るも、特に念話を出している様子は無い。どこから飛ばされているのか、あたりを見回す。すると、背後の飛竜と目が合う。そんな――


⦅あの日から、奥方の時間は止まっている。目覚めたときにお主がそばに居ないと、不安になるだろう⦆

「あ……」


 念話で話しかけていたのは、飛竜だった。

 それに……そうか、スズネはあの日に取り残されているんだな……。二週間も経って落ち着いてきたから、すっかり失念してしまっていた。

 自覚してしまうと、途端に不安が増してくる。早く目覚め欲しい……たくさん、話がしたい……。


⦅ふむ……水か……しばし待っておれ⦆


 そう言うと飛竜は立ち上がり、崖下を向いた。何をするのだろう?

 しばらくすると、キラキラとした輝きが立ち昇ってくる。水が川のように、空中を流れていく。

 そして俺たちの頭上までくると、円を描いて循環しはじめた。


⦅水瓶を持っておったな。そこに並べよ⦆

「あ……は、はい……」


 俺は体内の保管庫から水瓶をだして、地面に並べる。そこに空中に循環している水が、キレイに流れ込んだ。

 全ての水瓶に、澄んだ水が満たされている。中には、ピチャリと魚が飛び上がる水瓶も。

 この水、実際に川から流れてきたってことか!?


⦅それで足りるか?⦆

「は、はい! ありがとうございます!」


 なんて粋な技なんだ……すごくカッコイイ!! 俺もこういうスキル、使えるようになりたいよ。

 それに、すごく優しい雰囲気。ずっと怖くて話しかけられなかったけど、ちゃんとお礼をしないと……。


「あの……あの日も……助けていただき、ありがとうございます。それなのに、ちゃんとお礼も言わないで――」

⦅かまわぬ。ワシも用があってやったことだ⦆

「用、ですか……?」


 飛竜はチラリとスズネの方を見る。そして少し悩むように、小さなため息をした。


⦅なに、奥方と話があってな⦆

「えっ!? あの、妻が何か……」

⦅お主らが案ずることは、何も無い。これは……ワシの問題だ⦆


 今度は大きめに、息を吐き出す。

 心配しなくていいとは言われたけど、飛竜にとってはそんなに気の重い話なのか。一体、どんな話なんだろう?


⦅今は奥方を第一に行動しなさい。困ったことがあれば、ワシも力を貸そう⦆

「あ、ありがとうございます! でも……どうしてそこまで……」


 このままスズネが元気になるまで、協力してくれるのか。すごくありがたい申し出だけど、なんだか気が引けてしまう。

 前にスズネが話していたカウントダウンの日数だと、まだ一ヶ月くらいかかると思うし……。

 そんなことをグルグル考えていると、飛竜が語りだした。


⦅妊婦の恨みは百年続く。年長者としてこれを語り継ぎ、若人に手を貸さねばなるまい⦆

「は……はぁ……」

⦅貴様、理解しておらぬな?⦆

「は、はい! 妻に尽くします!!」

⦅ならばよし!!⦆


 身に覚えでもあるのだろうか? とても真剣な表情で、諭される。

 それで話が終わったのか、飛竜はまた背を向けて座り込む。

 その尻尾は、ゆらゆらと揺れていた。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


■■■■


ヒロアキ

「妊婦の恨みは百年続く……百年後に、許してもらえたのかな?」


飛竜

⦅野暮なことを言うでない⦆


ヒロアキ

「うわっ!? ご、ごめんなさい!!」



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