第三十三話 キャリヴァリエ・ミューア
「ミュアァァァァァン!!」
進化したスズネの周りの光の剣が、天高く光の柱となって輝いた。
この魔素だまりで妊娠をするときに、進化も出来るって言っていたな。これがその姿なのか……。とても美しい、獣の姿だ……。
「ちっ……獣に進化なんぞしやがって。これじゃ売り物にならん」
首輪の鎖を振り回しながら、マドレイが間合いを詰めてくる。
二体の大型の魔物も、武器を構えて近寄ってきた。
「皮を剥いで売り払うしかないな。お前たち、やってしまえ!!」
マドレイの命令に、二体の魔物が走り出す。素早いカバ型の魔物が、先陣をきる。
カバ型の魔物は手にしたフレイルを振り回し、巨大な鉄球をスズネにめがけて投げつけた。
「ミュウッ!!」
襲い掛かる鉄球に、五本の光の剣が迎え撃つ。光は鉄球を打ち砕き、鎖を断ち切る。
そしてそのまま、カバ型の魔物に向かっていく。先ほどはまるで歯が立たなかった刃が、魔物の体を串刺しにした。
あまりに一瞬の出来事で、カバ型の魔物は声をあげることなく崩れ落ちた。
「ふざけやがって! あんな獣、叩き潰してしまえ!!」
一体の魔物を失ったマドレイが、ウシ型の魔物に命令を下す。
大地をえぐる威力のハンマーを振りかぶり、こちらに向かってくる。スズネの周りに、再び光の剣が浮かび上がった。
「ミュアッ!」
スズネが手を振ると、その動きに合わせて光がウシ型の魔物に切りかかる。指のように光の剣は動き、串刺しにされたウシ型の魔物が空中に浮かぶ。
そして手が握られると共に、ウシ型の魔物はぶつ切りになって地面に落ちていく。
なんて強さなんだ……一瞬であの大型の魔物二体を、倒しちゃったぞ。こんなすごい魔物に、進化できるなんて。
「ミュァァ……」
「……スズネ?」
声をかけても、スズネが全く反応しない。ただただ、目前の敵をせん滅しようとしている。
この姿、進化は……魔獣になったってことなのか? 嫌な予感に、背筋が凍るよう。
「クソッ! ふざけやがって!!」
連れていた魔物を倒され、マドレイは激昂。首輪の鎖を、打ち付けてきた。
光の剣で撃ち落とそうとするも、首輪の鎖は断ち切れない。思いのほか、見た目以上に頑丈だ。
鎖は速度を落とす事なく、スズネに向かってくる。
「やめろっ!!」
「うおっ!!」
マドレイの足元の影から手を出し、片足を沈み込ませる。バランスを崩したことで、鎖の軌道が大きく反れた。
本当は全身埋めて、どこか別の場所に移動させたいんだが……。相手の魔力抵抗が強いと、引き込める力が弱まるみたいだ。
「ミュグググ……」
低い唸り声と共に、光の剣がまた浮かび上がる。その切っ先はマドレイに集中し、一気に発射された。
「ダメだ!! スズネ!!」
「ミュ……ミュ……?」
放たれた光の剣は、マドレイの目前で軌道を反らして上空に飛んで行く。五本の閃光が、空高く飛び散った。
「ふん……何のマネだ……?」
立ち上がったマドレイが、武器を構え直す。
俺も分離擬態で竜姫の聖剣を作り、構えた。スズネに人間を殺させてはいけない……なぜかわからないが、胸がザワザワして訴えてくる。
「お前なんかのために、スズネの手を汚させない」
「魔物風情が、人間ぶりやがって!!」
首輪の鎖が大きく波打ちながら、襲い掛かった。俺は鎖を剣で打ち払いながら、マドレイに向かって走り込む。
間合いを詰め、剣を振り下ろす。マドレイの頭を捉えたかと思った人たちは、首輪の鎖によって受け止められた。
二チャッと笑い、マドレイは俺を蹴り飛ばした。勢いよく吹き飛び、俺は倒れていたカバ型の魔物に激突する。
「なんだ、全然弱っちいじゃねぇか」
「ぐぐぐ……」
マドレイは俺に近づき、腰の剣を抜いた。そしてその刃を、俺の首に当てる。
「散々振り回しやがって……お前を先に始末してやる!!」
剣が振り下ろされると同時に、あたりが一瞬で暗闇に覆われた。
轟音が響き、体が浮き上がる。何かの衝撃に吹き飛ばされているのか?
強い風に吹き飛ばされた俺は、スズネの元に落ちる。マドレイは、反対側に飛ばされていったようだ。
そして俺たちの間には――巨大な飛竜!? 飛竜が降りてきた衝撃で、飛ばされたってこと!?
「ひ……飛竜……?」
「くそっ!! なんでこんなところに……!?」
ギラギラした瞳で、飛竜は俺たちとマドレイを交互に睨みつける。
飛竜がターゲットにしたのは、マドレイだった
「グガガアアアアアッ!!」
「ヒッ!! ヒギャアアッ!!」
逃げようとするマドレイを、飛竜のブレスが襲う。青白い光が、森を吹き抜けていく。
徐々に悲鳴が遠ざかっていくのが聞こえるけど、逃げ切ったのか?
巨大な飛竜はマドレイを追い払うと、今度は俺たちの方を向いた。
「ミュアァァ……」
「スズネ……大丈夫だ……」
俺はスズネを守るために、前に立ちふさがった。飛竜相手にどこまで戦えるかわからないが、スズネは絶対に守る。
鋭い瞳が、俺たちを捉える。目が合っているだけで、震えが止まらない。
あんなに苦戦したマドレイが、かつて大ケガを負わされた相手だ……ただでは済まないだろう。
しばらく俺たちを睨みつけていた飛竜は、ふいっと背を向けて巣穴の前に座り込む。そしてそのまま、動かなくなってしまった。
そんなところに、居座るつもりなのか?
「え……どうゆうこと……?」
「ミュ……ァ……」
「あっ!? スズネ!! 大丈夫か!?」
戦いと進化で疲れ切ったのか、スズネは倒れ落ち眠りについてしまった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
■■■■
「ワゥン!」
「バウン!」
「ワウン!」
「バウバウ!」
ヒロアキ
「みんな無事で良かったよー!!」
■■■ブックマークと評価について■■■
● ブックマーク
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
続きの気になる方は、ぜひブックマーク登録をお願いいたします。
● 評価について
「面白かった!」「続きが気になる!」という方は、ぜひ応援をお願いいたします!
広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて評価応援いただけますと、幸いです!




