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異世界で俺はスライム、嫁はネコ ~転生しても妊活します~  作者: 明桜ちけ
第一部 転生して初めての子を産む話
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第二十九話 魔素だまりの妊娠

 巣穴に戻ると、魔素だまりができていた。スズネがいつも、居心地が良いと言って寝ている場所に。

 それにしても、いつもの魔素だまりと雰囲気が違うな。なんかこう……神々しい!


「まさか……ここに魔素だまりが出来るなんて……どうしよう……」


 少し混乱気味に、スズネが抱きついてきた。そして俺と魔素だまりを、交互に見つめている。

 きっと頭の中は、魔素交配のことでいっぱいなんだろうな。


「ねぇ、食料ってたくさん備蓄あったよね? 巣穴にできるなんて、ラッキーかも……ここ、あんまり魔物も入ってこないし……」


 いつにない早口で、スズネがまくし立ててくる。

 

「落ち着いてよ、スズネ。この魔素だまり、いつもと雰囲気違うと思わないか?」

「あっ……うん。なんか、すごく明るい……かも」


 落ち着いたというよりは、身を引いたスズネ。

 まぁ、とりあえず状況確認が必要だよな。俺たちは、魔素だまりに近づいてみた。


《魔素だまり 白銀》


 なんか……高そうな色の名前。でも魔素だまり……なんだよな。なら、入っても問題ないか……。

 それはそうと――俺はスズネと真正面から向き合って、彼女の手を握る。最後に、ちゃんと確認しておかないと。


「ここで……本当に妊娠して、いいんだな? スズネ」


 これから先は、本当に何が起きるかわからない。

 スズネの体に、どんな影響が出るのか。産まれてくる子どもが、意思の通じない魔物だったら。

 二人になってから何度も話し合って、産もうとは言っていたけれど……。


「もし嫌だったら、無理しなくていいんだよ。進化ポイントだけ獲得して、亜人になって二人で暮らしたっていいんだ」


 俺の問いかけに、スズネは包み込むように手を握り返してきた。


「大丈夫。今度こそ……子どもが欲しいから、産むよ」

「そうか……ありがとう」


 妻愛おしさに、思わず抱きついてしまう。

 柔らかい髪から香る温もりを、なかなか手放すことが出来なかった。

 

「だけど理解ある夫風に選択肢を与えて、相手に決めさせるのはいただけないかな。ちゃんと、自分も覚悟を決めないと」

「……と、言いますと?」

「アレ言ってよ。アレ!」

「……」


 アレか……もう何回も言ってるけど、恥ずかしいんだよな。

 でもそう言われると、言わざるを得ないし……。

 しかもスズネの、期待を込めた目で見られながら……くうぅっ!! 覚悟を決めろ俺!! 言うぞ!!


「お……俺たちの赤ちゃんを産んでくれ」


 顔が真っ赤になっているのが、自分でもわかるぐらいだ。

 なんとか言葉を絞り出した俺に、最高の妻の笑顔が応えてくれた。


「えへへ……いいよ!」


 お互いにお互いの手を強く繋いで、そのまま俺たちは魔素だまりに飛び込む。


《個体名 スズネ と 魔素を共有しました》


 天の声のアナウンスが始まる。いよいよなんだな……。

 

《個体名 スズネ と スキルポイント を 分配しますか?》

《個体名 スズネ と 進化ポイント を 分配しますか?》

《個体名 スズネ と 魔素交配しますか?》


「魔素交配します」

「魔素交配します」


 迷いのない声が重なる。

 回答を受けて、天の声が応えた。


《個体名 スズネ と 魔素交配 を 開始します》

《両個体 の 情報 を 抽出――完了》

《両個体 の 情報 を 合成――完了》

《魔素胎児 の 生成 を 開始します》


 聞きなれない情報が、どんどん流れていく。そんなに早くできちゃうことなの!?

 もっとこう、時間のかかるものだと思ってた。

 魔素胎児か……実際に生体になるまでは、魔素がお腹に溜まっていくんだよな。


「うわ……」

「大丈夫か!? スズネ!?」

「うん。ちょっと変な感じがするだけ」


 そう言いながら、スズネはお腹をさする。

 ああ……もうお腹の中で、子どもが成長を始めているのか……。

 実感は全然わかないけど、不思議な気持ちでいっぱいだよ。


「あとは、魔素の中で待つだけだね」

「え……これだけ……もう終わり?」

「妊娠するだけなら、こんなものじゃない? 大変なのはこれからよ」


《個体名 スズネ と スキルポイント を 分配しますか?》

《個体名 スズネ と 進化ポイント を 分配しますか?》


 再び天の声さんがアナウンスを始めた。そういえば、ポイントの分配がまだだったな。

 待たせちゃって、ごめんよ。


「ポイントは全部スズネが貰ってくれ。出産まで魔素だまりから出られないからな」

「わかった。ありがとう」


 ポイントの分配が終わると、魔素の光が弱まる。とても柔らかい光が、スズネを包み込んだ。

 あとは少しずつ、魔素がスズネの中に入っていくのを待つんだな。

 とりあえず、今日はこれで終わりなのか……。


「その……大丈夫か? 何か、変わったことは……無いか?」

「あはは……そんなすぐに変化しないよ~」


 心配して声をかけたら、軽く流されてしまった。

 いやだって、ここまですごい葛藤だったじゃん? もっとこう、真面目にやらなきゃいけないことがたくさんあるのかなって……。

 

「カウントダウンが表示されてる……たぶん、出産予定時間だね」

「おお! 意外に便利だな。 何日くらいかかるんだ?」

「六十五日」

「六十五日……」


 お……おう……。

 六十五日間、一人で水や食料を調達しなきゃいけないのか……あと、巣穴の警備も……。

 冷静に考えると、キッツイな……本番は、これからだ……がんばろう……!

 妻とお腹の子を守るのが、俺の役目なんだから!


「あと、進化もできるみたい」

「お、すごいじゃないか!」

「ただ……」


 お腹をさすりながら、スズネは不安そうな顔をしている。

 何か、子どもに関わることなのだろうか?


「特殊進化で、亜人の進化じゃないの。すごく強そうだけど、またミューアの姿に戻っちゃう……」


 そんな進化の仕方もあるんだな。準亜人というだけあって、まだ魔物への進化の余地が残っているんだ。

 スズネは、進化してお腹の子が人型にならなかったらって心配しているのか。

 

「そうか。それなら、子どもを産んでからどうするか決めよう。急ぐ必要もないわけだし」

「わかった。そうする」


 話しながら、スズネのあくびの回数が増えてきた。これはだいぶ、疲れてきているな。

 一通り話も終わったと思うし、先に休んでもらおう。


「大丈夫か? 眠いんなら、寝てていいんだよ」

「うん……ごめん、先に寝ちゃうね……」


 魔素だまりの中で丸くなり、スズネはあっという間に眠ってしまった。

 妊娠の影響なのだろうか……。

 これからは見張りの時間も増えるだろうし、俺も体力を温存しながら頑張らないとな。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


いよいよ妊娠の回まで書きましたね。

あと十一話・出産からその後のお話で、第一部終了です。

これからもお付き合いいただけると、幸いです。



■■■■


ヒロアキ

「具合は大丈夫? お腹は空いてない? 何か必要な物ある? 寒くない? 気になる事があったら何でも言ってね?」


スズネ

「眠い……」


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