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異世界で俺はスライム、嫁はネコ ~転生しても妊活します~  作者: 明桜ちけ
第一部 転生して初めての子を産む話
28/42

第二十八話 子犬

「ウィンドスラッシュ!!」


 円陣の中から、スズネが剣を振るう。放たれた風の刃は、枝をへし折りながら森を駆け抜ける。

 二十メートル先位まで、威力を保っているようだ。


「ライトニングダガー!!」


 スズネの周りに、五本の短剣型の光が現れる。手を振りかざすと、光の短剣は目標に向かって飛んでいく。

 目前の木に突き刺さった短剣は、風穴を空けてさらに進む。そして十五メートル程度の距離で、フッと消えてしまった。


「あんまり、飛距離変わらないなぁ……」


 何度か技の試し打ちをしていたスズネが、その場に座り込む。

 移住してから、魔素だまりから得るスキルポイントがだいぶ貯まっていた。なので今日は、スキルの習得と練習をしているのだ。

 スズネは妊娠した時用にと、遠距離攻撃のスキルを習得して試している。


「それだけ威力があれば十分じゃないか? そんなに強い魔物もいないし」

「うーん……まぁ、そうなんだけど……」


 魔素だまりを模した円陣の中に、スズネは不安そうに佇む。地面の落ち葉の下を、ゴソゴソと子ネズミが走り抜けていく。

 種族的な特性なのか、スズネのスキルは剣技や格闘技が多い。近距離攻撃は火力も高いのだが、遠距離攻撃は補助的なものになる。

 そしてなんとか見つけたのが、練習していた二つのスキルだ。


「魔素だまりに入ってこられても、攻撃することはできるんだし。それに俺も、なるべく一緒にいるよ」

「うん……」


 ひらひらと、木の葉が舞い降りる。

 その様子を眺めていたスズネが、俺を見上げてきた。そしてゆっくりと、話し始める。


「もし……人間が来たら……それで、攻撃してきたら……どうしよう……」

「どうしようって……」


 別に魔獣狩りと呼ばれるような、強い人でもなければ大丈夫だろう。

 普通の人だったら簡単に倒せるくらい、俺たちは強くなってるはずだ。


「脅して、追い払えればいいけど……それでもどうにもならなかったら……」

「…………」


 なるほど……スズネは()()()()()()()()()()()()()()()を心配しているのか。

 確かに。無理矢理攻め込んでくる存在に、手加減をするのは難しい。スズネが剣や尻尾を一振すれば、人間の首など簡単に吹き飛ぶだろうな。

 ましてや妊娠中ともなれば、精神状態が安定しているかもわからない。


「相手を拘束したり転移させるのは、俺の方が得意だから。そのときは、俺が対応するよ。だから、スズネは心配しないで」

「……うん」


 俺はスズネに手を差し出し、立ち上がらせる。

 スキルの練習ばかりだと、気が滅入るのかもしれない。気分転換に、食料探しにでも行こう。

 そう思った矢先、少し高い音の鳴き声が聞こえた。


「キャィキャィ!」

「うん……?」

「……あっ! あそこ!」


 少し離れた草むらの中から、黄金色のモフモフが頭を出している。あれは……犬?

 この辺で小型の魔物を見るなんて、珍しいな。


「キャィキャィッ!」

「キャフッキャフッ!」


 おおっ!? 後ろにも、もう一匹いるぞ!

 黄金色のモフモフと茶色いモフモフが、こちらに駆け寄ってくる。まだ子供なのか、丸っこくて可愛い。

 俺の足元で飛び跳ねながら、子犬たちがどつくようにじゃれつく。


「何? 何? この子たち? あっあっ……痛っ……あっ……可愛いっ!!」

「バウンバウン」

「ワォン」

「あ……あなた達は……」


 子犬たちの後から、二匹の犬型の魔物が現れた。肉付きも毛並みも良くて、見違えてしまうが……以前、会ったことがある。

 魔素だまりでガリガリになりながらも、妊娠していた魔物の番だ。


「じゃあ、この子たちはあの時の……無事に産まれたのね」

「ワゥン!」


 あの時妊娠していた方の……母親の魔物から、念話が飛ばされてきた。理解出来る言葉では無いが、感情のようなものが伝わってくる。

 夫婦共に生き残り、子供も無事に産まれたことを感謝しているみたいだな。


「役に立てたなら良かったよ」

「バウン?」


 今度は、父親の魔物から念話が飛ばされてきた。こちらも言葉は分からなかったが、何かお節介なことを言われた気がする……。


「あはは……」

「スズネは言葉がわかるのか?」

「うん……お前たちは、子供はまだなのかって」

「おう……」


 そういうのって、異世界でも共通なのか……。ストレートに聞いてくれるぜ。


「ミュアン」

「ワゥンッ!」

「……なんだって?」

「良い場所を探してるって言ったら、頑張って! だって」


 なんか先輩風吹かれるの、釈然としないなぁ。でもこの魔物たちも、善意で言ってくれてるんだよな……。

 まぁ俺も、可愛い子どもを産んでもらうもんね!!


「バウンバウン」


 父親の魔物が一声鳴くと、母親と子どもたちが声の元に集まる。もう行ってしまうようだ。


「ワゥン!」

「ミュアミュアー!」


 母親の声に、スズネがミューアの鳴き声で返す。魔物同士は鳴き声が別でも、通じてるんだなぁ。


「近くで子どもに狩りの練習をさせてるから、また会ったらよろしくだって」

「そうなのか」


 それはちょっと、見てみたいかも……。

 あのモフモフたちが獲物を追いかける姿とか、可愛いだろうな。


「邪魔しちゃダメよ」

「バレたか……」

「顔がニャニャしてたもの」


 顔に出したつもりは、無かったんだけど……。スズネは俺の事、よく見てるよなぁ。


「俺たちもそろそろ帰るか」

「そうね。スキルの練習とか、慣れないことして疲れちゃったし」


 嬉しい再会に心を温めながら、俺たちは巣穴に戻って行った。

 そして更に、不思議なことが起こる。巣穴から、眩い光が溢れていたのだ。


「ま……魔素だまりが……できてる!?」

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第一部を四十話で作っているのですが、そこまで毎日更新頑張りたいです。


■■■■


スズネ

「おなかだけ〜スライム〜」


ヒロアキ

「やーめーてー」


スズネ

「ふふ……プルンプルン〜」


ヒロアキ

「プルプルじゃないもんっ!!」



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