第二十八話 子犬
「ウィンドスラッシュ!!」
円陣の中から、スズネが剣を振るう。放たれた風の刃は、枝をへし折りながら森を駆け抜ける。
二十メートル先位まで、威力を保っているようだ。
「ライトニングダガー!!」
スズネの周りに、五本の短剣型の光が現れる。手を振りかざすと、光の短剣は目標に向かって飛んでいく。
目前の木に突き刺さった短剣は、風穴を空けてさらに進む。そして十五メートル程度の距離で、フッと消えてしまった。
「あんまり、飛距離変わらないなぁ……」
何度か技の試し打ちをしていたスズネが、その場に座り込む。
移住してから、魔素だまりから得るスキルポイントがだいぶ貯まっていた。なので今日は、スキルの習得と練習をしているのだ。
スズネは妊娠した時用にと、遠距離攻撃のスキルを習得して試している。
「それだけ威力があれば十分じゃないか? そんなに強い魔物もいないし」
「うーん……まぁ、そうなんだけど……」
魔素だまりを模した円陣の中に、スズネは不安そうに佇む。地面の落ち葉の下を、ゴソゴソと子ネズミが走り抜けていく。
種族的な特性なのか、スズネのスキルは剣技や格闘技が多い。近距離攻撃は火力も高いのだが、遠距離攻撃は補助的なものになる。
そしてなんとか見つけたのが、練習していた二つのスキルだ。
「魔素だまりに入ってこられても、攻撃することはできるんだし。それに俺も、なるべく一緒にいるよ」
「うん……」
ひらひらと、木の葉が舞い降りる。
その様子を眺めていたスズネが、俺を見上げてきた。そしてゆっくりと、話し始める。
「もし……人間が来たら……それで、攻撃してきたら……どうしよう……」
「どうしようって……」
別に魔獣狩りと呼ばれるような、強い人でもなければ大丈夫だろう。
普通の人だったら簡単に倒せるくらい、俺たちは強くなってるはずだ。
「脅して、追い払えればいいけど……それでもどうにもならなかったら……」
「…………」
なるほど……スズネは人を殺してしまうかもしれない事を心配しているのか。
確かに。無理矢理攻め込んでくる存在に、手加減をするのは難しい。スズネが剣や尻尾を一振すれば、人間の首など簡単に吹き飛ぶだろうな。
ましてや妊娠中ともなれば、精神状態が安定しているかもわからない。
「相手を拘束したり転移させるのは、俺の方が得意だから。そのときは、俺が対応するよ。だから、スズネは心配しないで」
「……うん」
俺はスズネに手を差し出し、立ち上がらせる。
スキルの練習ばかりだと、気が滅入るのかもしれない。気分転換に、食料探しにでも行こう。
そう思った矢先、少し高い音の鳴き声が聞こえた。
「キャィキャィ!」
「うん……?」
「……あっ! あそこ!」
少し離れた草むらの中から、黄金色のモフモフが頭を出している。あれは……犬?
この辺で小型の魔物を見るなんて、珍しいな。
「キャィキャィッ!」
「キャフッキャフッ!」
おおっ!? 後ろにも、もう一匹いるぞ!
黄金色のモフモフと茶色いモフモフが、こちらに駆け寄ってくる。まだ子供なのか、丸っこくて可愛い。
俺の足元で飛び跳ねながら、子犬たちがどつくようにじゃれつく。
「何? 何? この子たち? あっあっ……痛っ……あっ……可愛いっ!!」
「バウンバウン」
「ワォン」
「あ……あなた達は……」
子犬たちの後から、二匹の犬型の魔物が現れた。肉付きも毛並みも良くて、見違えてしまうが……以前、会ったことがある。
魔素だまりでガリガリになりながらも、妊娠していた魔物の番だ。
「じゃあ、この子たちはあの時の……無事に産まれたのね」
「ワゥン!」
あの時妊娠していた方の……母親の魔物から、念話が飛ばされてきた。理解出来る言葉では無いが、感情のようなものが伝わってくる。
夫婦共に生き残り、子供も無事に産まれたことを感謝しているみたいだな。
「役に立てたなら良かったよ」
「バウン?」
今度は、父親の魔物から念話が飛ばされてきた。こちらも言葉は分からなかったが、何かお節介なことを言われた気がする……。
「あはは……」
「スズネは言葉がわかるのか?」
「うん……お前たちは、子供はまだなのかって」
「おう……」
そういうのって、異世界でも共通なのか……。ストレートに聞いてくれるぜ。
「ミュアン」
「ワゥンッ!」
「……なんだって?」
「良い場所を探してるって言ったら、頑張って! だって」
なんか先輩風吹かれるの、釈然としないなぁ。でもこの魔物たちも、善意で言ってくれてるんだよな……。
まぁ俺も、可愛い子どもを産んでもらうもんね!!
「バウンバウン」
父親の魔物が一声鳴くと、母親と子どもたちが声の元に集まる。もう行ってしまうようだ。
「ワゥン!」
「ミュアミュアー!」
母親の声に、スズネがミューアの鳴き声で返す。魔物同士は鳴き声が別でも、通じてるんだなぁ。
「近くで子どもに狩りの練習をさせてるから、また会ったらよろしくだって」
「そうなのか」
それはちょっと、見てみたいかも……。
あのモフモフたちが獲物を追いかける姿とか、可愛いだろうな。
「邪魔しちゃダメよ」
「バレたか……」
「顔がニャニャしてたもの」
顔に出したつもりは、無かったんだけど……。スズネは俺の事、よく見てるよなぁ。
「俺たちもそろそろ帰るか」
「そうね。スキルの練習とか、慣れないことして疲れちゃったし」
嬉しい再会に心を温めながら、俺たちは巣穴に戻って行った。
そして更に、不思議なことが起こる。巣穴から、眩い光が溢れていたのだ。
「ま……魔素だまりが……できてる!?」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第一部を四十話で作っているのですが、そこまで毎日更新頑張りたいです。
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スズネ
「おなかだけ〜スライム〜」
ヒロアキ
「やーめーてー」
スズネ
「ふふ……プルンプルン〜」
ヒロアキ
「プルプルじゃないもんっ!!」
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