第二十七話 魔人種
新しい巣穴は、とても住みやすい環境だった。
水は近くで湧いているし、熊や猪型の魔物もいるので食料にも困らない。巣穴に他の魔物が入ってくる様子もないので、夜も落ち着いて休める。
まぁ……俺がスライムウォーカーに進化してから、襲ってくる魔物なんてそんなにいないんだけど。
「あ、魔素だまり!」
⦅この辺、本当に多いな⦆
少し巣穴の外を見回るだけで、魔素だまりを見つけることが出来た。小型の魔物が少ないので、使われずに残っているのかもしれない。
「通路のド真ん中だけど、どうする?」
⦅ポイントだけ貰っていくか⦆
「なかなか妊娠に向きそうな場所、見つけられないね……」
⦅まぁ、焦らずにいこうぜ。これだけ魔素だまりがあるんだから、きっといい場所も見つかるさ!⦆
「……うん」
最近、なんかスズネが落ち込み気味なんだよな。
ミューアの親子と、突然お別れしたからだろうか? それとも、人間が巣穴に現れたから? もしかしたら、両方かも……。
もしかたら、その人間が追ってくるかもって不安なのかな……森の最深部まで来たから、大丈夫だと思うんだけど。
「どうする? 私はさっき魔素もらったから、ヒロアキが入っていいよ」
⦅そうか? じゃぁ、遠慮なくいただくよ⦆
スズネに譲ってもらって、俺は魔素だまりに飛び込んだ。
魔素の光が、どんどん体に集まってくる。
《魔素 を 吸収しました》
《スキルポイント を 獲得しました》
《進化ポイント を 獲得しました》
《進化 可能になりました》
おお! 久々の進化じゃないか。
現状もかなり強いけど、次はどうなるんだ?
《魔人 に 進化できます》
え……もう名前に、スライムって付かないのか。それってもしかして、亜人ってことなのか?
⦅進化できるみたいだ。ちょっと待っててくれ!⦆
「ええ!? ついこの前、進化したばっかりなのに……いいなぁ」
一声かけると、スズネが羨ましそうにぼやく。こればっかりは、種族の差なので仕方がない。
それにしても魔人か……進化した姿に、スズネはどんな顔するかなぁ?
よし、天の声さん! 魔人に進化するよ!
《魔人 に 進化します》
天の声さんのアナウンスと共に、俺の体は魔素の霧に包まれる。
いつものような、伸びたり腫れたりするような感覚は無い。その代わり、体中がチリチリと熱くなる。あとは久しく感じなかった、関節痛のような痛みがあるな。
やっぱり魔人は、人間に近い体になるんだろうか?
《進化が完了しました》
進化完了のアナウンスが流れ、ゆっくりと霧が晴ていく。
視界がいつもより、鮮やかに感じるな。
「ヒ、ヒロアキ……塗装されてる!!」
「え?」
スズネが人を指さして、変な事を言っている。つられて思わず手を見ると、今まで透き通っていた体が肌色をしていた。
所々、透き通ったところが入れ墨みたいに残っているけど……それでも、概ね人間っぽい!
「それに……喋れるの?」
「え……あ、本当だ! 喋ってる!!」
「うわぁ……うわあぁぁぁ!!」
よほど嬉しかったのか、スズネが語彙力を失って抱きついてきた。前回も反応が大きかったが、色と音声がついてさらに嬉しいようだ。
本来は成長して強くなったことを喜ぶべきなんだろうが……普通にスズネが喜んでいるのが、可愛くて嬉しい。
「うわぁ……すごい……いいなぁ……あ、お腹はスライムのまんまだ」
「ちょっと、なんで服めくってるの!?」
「えへへ……」
照れ隠しのように、スズネがお腹をつついてくる。別に出っ張ってるわけじゃないのに、ちょっと恥ずかしくなるだろ!?
進化の結果が気になって、全身調べてくるスズネ。これはしばらく、止まりそうにないな。
「魔人って種族に進化したみたいだ」
「ええ!? それってもう亜人ってこと!?」
「たぶん、な。前にプラムさんに聞いた通りなら、そうなる」
「いいなぁ……私はまだまだ、進化しそうにないのに……」
相変わらず、進化による成長が少なくてガッカリしている。
ミューアはその分、擬態と時間経過での成長が著しかったからなぁ。それに気にしなくても良いぐらい、どんどん強くなってるし。
「次からは、スズネが優先的に魔素だまりを使うようにしよう。きっと、次の進化ももうすぐだよ」
「うん……そうだといいな」
「とりあえず、今日は帰るか。俺もポイントやスキル、じっくり確認したい」
「わかった」
少し不服そうに答えながら、スズネが俺の手をつまむ。
「スズネ?」
「……なんか、手つなぎたいなって……」
「そうか……」
そろそろ甘えたくて、ぐずる時間か。手ぐらい素直に握ってくればいいのに、俺の進化が羨ましいんだな。
仕方がない!
「ひゃっ!!」
「いつもスズネには、運んでもらってばかりだからな。今日は新しいスキルで、俺が運んでやるよ」
「え???」
ずっとやってみたかったんだよな、お姫様抱っこ。前世では危ないからって、スズネに止められてできなかったから。
俺はスズネを抱き上げると、そのまま高く飛び上がった。
新しいスキルは、跳躍と飛行。今まで移動はスズネに頼り切りだったけど、これで一気に機動力が上がったぞ!
「どうだ? スズネ?」
「高い高い高い高い高い高い!!!!」
スズネは爪を立てるほどの、熱烈なハグをしてくれた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
■■■■
ヒロアキ
「スズネ、そんな爪立てて抱きついちゃって……」
スズネ
「死ぬときは一緒ミュアァァァァァ!!!!」
ヒロアキ
「えー……」
■■■ブックマークと評価について■■■
● ブックマーク
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
続きの気になる方は、ぜひブックマーク登録をお願いいたします。
● 評価について
「面白かった!」「続きが気になる!」という方は、ぜひ応援をお願いいたします!
広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて評価応援いただけますと、幸いです!




