第二十四話 森の肉食材
スライムウォーカーに進化して、見える世界が広がった。純粋に背が伸びて、視線が高くなったというのもあるが……。
横で眠るスズネが、とても小さい。こんな体で、今まで旅をしてきたんだな。
今でこそ俺たちは進化して、高校生ぐらいの体格に成長している。でも生まれたての頃は、ここの子ミュアたちと同じくらい……手のひらに乗るほどの大きさだったのだろう。
「ん……おはよう…………どうしたの?」
⦅いや、ぼーっとしてただけ⦆
「そう……」
寝起きでぼんやりしているスズネが、体を丸める。ウトウトしていて、二度寝してしまいそうだ。
その様子がとても愛おしくて、頭を撫でてしまう。これからは俺が……スズネを守っていくんだ。
「フミィヤアァァァッ!!」
「ミュアァァアァァァッ!!」
穏やかな時間は突如、引き裂かれる。子ミュアたちが異常な鳴き声と共に、俺たちの巣穴に飛び込んできた。
三匹ほど駆け込んできた子ミュアが、巣穴の奥で固まって震えている。
⦅どうしたんだ!?⦆
「フッ! フッ!」
「ミァー」
「ミィ〜」
今度は母ミューアが、子ミュアを二匹咥えて現れた。そして巣穴の奥に子ミュアを、乱雑に放り投る。ミュアっと短く一声あげると、再び外へ飛び出す。
「大きな魔物が現れたみたい!」
⦅ええっ!? 子どもたち、まだ半分くらいしかいないぞ!?⦆
「助けにいかないと!!」
急いで外に飛び出すと、巣穴の外には赤い塊がのっそりと動いているのが見えた。足元には、子ミュアを咥えた母ミューアが後ずさっている。
⦅あれは……ザリガニ? 人の大きさぐらいあるぞ!⦆
ザリガニの魔物は、巨大なハサミを振り下ろす。岩のような大きさのハサミは、地面を深くえぐった。
動きは遅いが、とんでもない威力だ……あれじゃまるで、魔獣じゃないか……。
「はぁっ!!」
スズネは高く飛び上がり、ザリガニの背に飛び乗る。そして関節に関節を突き刺し、バキリと頭部をもぎ取った。
頭と胴体を切りさなされたザリガニは、ただ手足がうごめくのみ。やがてそれも止まった。
「強そうだけど、急所を突けば一撃だね」
⦅そこの関節が……わかった⦆
「ミュアッ!」
咥えていた子ミュアを巣穴に放り込んだ母ミューアが、再び走り出す。ついて行くと、巣穴から少し離れた崖の上にたどり着いた。
崖には何匹ものザリガニの魔物が、張り付いている。ゆっくりだが、登ってきているようだ。
「ミューッミューッ」
「ミュッミュッ」
崖の下では、子ミュア達がウロウロしながら鳴いている。崖を登れない、小さな子たちが取り残されているのか。
「ここで遊んでるときにザリガニの魔物と遭遇して、驚いて落ちちゃったみたい」
⦅なるほどな。早く助けてやらないと……⦆
崖の下にも、ザリガニの魔物がたくさんいる。なんだってこんな急に、大量発生したんだ……。
まずは、子ミュアたちの安全の確保だな。
⦅シャドウバインド⦆
子ミュアたちの近くのザリガニの影から、俺の分裂擬態の網を巻き上げる。そのまま影に縛り付けた。
その間に俺は崖を飛び降り、地表の木の影に飛び込む。そこから子ミュアたちを、回収していく。
⦅はいはい、暴れないでね⦆
影の中に引き込んだ子ミュアは、必死で俺にしがみついている。可愛い。
全員回収すると崖の日影になっている部分を辿って、崖上に戻った。
⦅さぁ、お母さんのところへ行きなさい⦆
「ミューッ」
俺にしがみついていた子ミュアたちは、飛び降りて母ミューアに駆けていく。母ミューアは子ミュアを確認すると、巣穴に戻って行った。
⦅さて、と。このザリガニは捌いちゃっていいかな?⦆
「うん。襲ってきた魔物は食べてよし!」
辺り一帯にうごめくザリガニの魔物を、夫婦二人で倒していく。全てを捌き終わるころには、すっかり日が暮れていた。
「すごい大漁だったね〜」
⦅本当にな。保存してる食料も減ってきてたし、良いタイミングだったよ⦆
焚き火でザリガニの身を焼きながら、夕食の支度をする。空には満天の星が輝いていた。
俺たちの傍らには、子ミュアたちが食事を待ちわびている。野生の魔物なのに、ちっとも火を怖がったりしないなぁ。
「熱いから、気をつけて食べるのよ」
「ミュー!」
平らな台に焼けた身を置くと、子ミュアたちが一斉に食事を始める。食べる姿も、だいぶ様になってきて可愛い。一緒に暮らし始めて数週間だけど、すっかり大きくなっちゃって。
「本当に、子供が好きね」
子ミュアたちを眺めていると、スズネがしみじみと言った。俺、そんなに変な顔で見てたかな……?
⦅だって可愛いじゃないか⦆
「そうね……」
食事を終えた子ミュアたちが、俺たちの膝の上に集まってくる。これは、このまま寝ちゃうぞ。
そうと分かっているのに、頭や背を撫でてしまう。この愛くるしさには、抗えない。
「もうすぐ、私たちの子ども産むのよね……」
⦅あ……ああ! 俺も準亜人になったしな⦆
あとは良い場所に魔素だまりを見つけたら、魔素交配をしても良いんだな。いよいよ、自分たちの子供か……。
「ヒロアキは、どうして子供が欲しいって思ったの?」
⦅どうしてって……⦆
膝の上の子ミュアたちが、ウミャウミャと寝言を言う。この子たちが、自分の本当の子供だったなら……そんな気持ちが湧き上がる。
⦅そう聞かれると、うまく言えないけど……ただすごく、欲しいと思うんだ⦆
「そう……ヒロアキは面倒見も良くて、優しいから」
きっと理由がどうこうじゃなくて、欲しいという欲求が強いんだろうな。これが俺の、子どもに対する性分なのかもしれない。
⦅そういうスズネは、どうなんだ?⦆
「私? 私は……」
穏やかな表情で子ミュアを撫でながら、スズネはゆっくりと話す。膝の上では、子ミュアたちが小さく寝息を立てている。
「ヒロアキと出会って、あなたと一緒の人生は悪くないと思えた。だから子どもにも、この世界を見て欲しいと思ったの」
スズネはそんなことを思っていたのか。というか、真顔で言われるとすごく恥ずかしいな。
俺ももうちょっと、気の利いたこと言えば良かった! いや、全然思いつかないけど!!
「それに自分の子どもが見る世界を、見てみたい。きっと自分には、想像もつかない世界だと思うから」
⦅それは……そうだな。なんてったって、異世界で魔物の子どもなんだから⦆
「あはは。それもそうだね!」
大きな声で笑ってしまっからか、子ミュアたちが起きてしまった。みんな寝ぼけてよろよろしながら、巣穴に向かっていく。
火の始末をして、俺たちも巣穴に戻る。
自分の子どもが見る世界、か。一体どんなものに、なるんだろうな。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
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ヒロアキ
⦅お隣さんの子ミュアたち、大きくなってきたなぁ⦆
スズネ
「本当にねぇ」
子ミュア
⦅しゅきっ!すずね、しゅきっ!⦆
ヒロアキ
⦅うおっ!?念話で話してる子がいるぞ?それにそんな言葉、どうやって覚えたんだ……?⦆
スズネ
「あなたが念話で飛ばしてる寝言だ!」
ヒロアキ
⦅うわぁぁぁぁ!!⦆
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