第二十三話 スライムウォーカー
⦅うぅ……ん……重……?⦆
「ミュゥ…………ミュゥ…………」
「フミュン…………ミュ…………」
朝、目が覚めると大量の子ミュアたちに埋もれていた。寝ている間に、俺たちの巣穴に集まってきたみたいだな。
すっかり隣人宅との境界が、無くなってきている気がする。
ミューアの親子に紹介された洞窟を拠点に、俺たちの森での新生活が始まった。
「意外に魔素だまりが見つからないね」
⦅そうだな⦆
昼間は専ら、食料集めと魔素だまり探しをしている。
水や魚といった、とりあえずの食料の補給ルートは確保できたが……魔素だまりがなかなか見つからない。
この森の滞在理由としては、一番見つけたいものなんだけどな。
「でも見つけやすい魔素だまりって、見つかりやすいって事なんだよね」
⦅そりゃそうだろう?⦆
「それって、妊娠するには向かないよね?」
⦅あ……⦆
そういえば魔素で妊娠すると、出産するまで魔素だまりから出られないんだっけ。
進化のための魔素だまりはどこでもいいけど、妊娠用に物陰も探した方がいいのか。
「なんか疲れちゃった。少し休憩にしない?」
⦅あぁ、そうだな⦆
「この木、美味しそうな木の実がなってるんだよね〜」
そう言うと、スズネはヒョイっと一気に木を登る。本当に、少しジャンプする程度の動きで登っていくんだよなぁ。
木にはブドウのような果物が実っていて、スズネは一房切り取った。そして木の上で、食べ始める。
「酸っぱ……っ! はぁ、巣穴に魔素だまりができたりしないかなぁ」
⦅そんな都合よく、出てくるわけ無いだろ? でも長期間滞在するなら、雨風がしのげる方がいいよなぁ⦆
実際に妊娠したら、どのくらいの期間動けないんだろう? 人間と同じだとしたら十ヶ月、猫に準拠だとしても二ヶ月くらいかかる。
それに魔素を使う妊娠なんて、現実には無かった。何が起こるか、わからない……本当にスズネを妊娠させて、大丈夫なんだろうか?
「あっ!!」
⦅うぉっ!? ど、どうしたスズネ?⦆
スズネの声で、現実に引き戻される。何か下の方を、気にしてるみたいだ。
「あれ、魔素だまりじゃない?」
⦅え? ……あ、本当だ⦆
先ほど俺たちが立っていたあたりに、魔素だまりが光っている。休憩していたこの短時間に、新しい魔素だまりが発生したってことか?
すぐに地上に降りて確認したが、魔素だまりで間違いない。育みの森に来て、ようやく見つけた。
「今回はヒロアキかな。次の進化ができるといいね」
⦅あぁ、行ってくるよ⦆
プラムさんは、次は準亜人種だって言ってたな。これで俺もようやく、人型になれるかもしれない。
俺は期待を込めて、魔素だまりに触れた。魔素の光が、体内に入っていく。
《魔素 を 吸収しました》
《スキルポイント を 獲得しました》
《進化ポイント を 獲得しました》
《スライムウォーカー に 進化可能です》
よしきた! スライムウォーカーに進化するよ!
《スライムウォーカー に 進化します》
魔素の光の霧に包まれて、俺の体が変化していく。今回は明らかに、縦に伸ばされてる感じがするな。
体の周りが、少しヒリヒリする。小刻みにくすぐられてるようで、落ち着かない。
「ヒロアキ……?」
進化が終わって、魔素の霧が晴れる。こちらを見ているスズネの顔が、少し下に見えた。
俺の背が伸びたのか? 下を覗き込むと、脚があった。
⦅俺……立ってる……?⦆
まじまじと足元を見ていたら、手が写り込んでくる。
これは……俺の手? スライムの青色に透き通っているけど、形はしっかり人の手だ。
「ヒロアキ!!」
⦅うわっ!?⦆
進化の確認をしていたら、突然スズネが抱きついてきた。なんだか、懐かしい光景だな……。
転生前は、毎日こうやってハグしてたっけ。
⦅大げさだな……⦆
「だって……嬉しくて……」
ゆっくり頭を撫でてやると、ケモ耳がピクピクと反応する。これは新鮮……。なかなか離れないので、スズネが満足するまでハグしていた。
スズネは顔を擦り付けながら、俺の首元や耳の裏の匂いを嗅いだり舐めたりしている。そういう本人確認、前もしてたなぁ……。
くすぐったいけど、反応してると思われると悔しいのでガマンする。
「フー……」
⦅そんな不満そうな顔するなよ⦆
「スライムのにおいだった……」
全く……どんな匂いを期待してたんだ?
ようやくスズネが離れたので、自分の進化の状態を確認する。
急に人型になって素っ裸かと思ったら、体の一部が擬態して服になっていた。黒いフード付きローブにシャツとズボン、ゴツめのブーツを履いている。
⦅体の一部だけ擬態して服になってるのか……剣はどうだ?⦆
「おおっ!!」
竜姫の聖剣の擬態を作って、手にする。普通に剣技として、使うことも出来そうだな。
擬態に使用してるのは、分裂増殖したもの……壊れても、ノーダメってことか。それにこれって、ほぼ無制限に物を作り出せるってこと?
「そのスキル凄い! それなら釣り竿や包丁を擬態で作って、一緒に釣りや料理ができるね!」
⦅いや……釣りは遠慮しとこうかな……⦆
「えー……」
この前みたいな怪魚がかかっても、俺には釣る自信が無いよ……あと、生の魚に触れない。そこはスズネに任せて、お願いしよう。
⦅シャドウスライムのスキルや特性は、そのままだな。これだと、格闘系のスキルと相性が良さそうだ⦆
影になる動作も、色々試してみる。
一瞬で地面に同化したり、スズネの影に潜り込んだり出来た。擬態した服や武器も、自分と同じように影に入れるんだな。
なんだかすっかり、忍者みたいなスキルのラインナップだ。
「無事に進化もしたし、今日はもう帰ろうよ」
⦅あぁ、そうだな。巣穴でもう少し、色々試してみるか⦆
そう言うとスズネは、軽やかに走り出す。その姿は一瞬で、豆粒のように小さくなってしまった。
⦅え? 待って!? スズネさーん!!⦆
人型になっても、走るスピードはミューア種に遥かに劣る。
せっかくスライムウォーカーになったのに……俺は結局マントに擬態して、スズネに着て運んで貰うのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
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スズネ
「ようやく人型になれたね」
ヒロアキ
⦅ああ⦆
スズネ
「でも、まだ念話なんだね。顔も一応ヒロアキってわかるけど、塗装前のフィギュアみたい」
ヒロアキ
⦅そ……そうなのか……⦆
スズネ
「次は亜人なんだよね……どんな姿になるのか、楽しみだな」
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