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異世界で俺はスライム、嫁はネコ ~転生しても妊活します~  作者: 明桜ちけ
第一部 転生して初めての子を産む話
22/42

第二十二話 育みの森

「寝床になる洞窟とかあるかな?」

⦅まぁ、まず川を探そう。崖の上から、何本か流れてるの見えたし⦆


 俺たちは生活の拠点となる場所を探して、育みの森を進んだ。

 森の中は柔らかい光が差し込み、思っていたよりもかなり明るい。そこかしこに花が咲き、木の実がみのっている。


「あ、川発見!」

⦅おう! 結構、きれいに澄んだ水だな⦆


 小さな崖の下を、小川が流れている。水底も見えるし、水量はそこまで多くなさそう。

 とりあえず、飲水はこれで確保だな。あとは、川から適度な距離に住む場所を見つけたい。


「あっ! あそこ見て!」

⦅ん? あっ!⦆


 スズネが指さした方を見ると、鴨のような鳥が小川を泳いでいる。それも、親子連れだ!


⦅かっ……かっ……可愛い!!!!⦆

「下流の方に泳いでいくね」

⦅せっかくだし、追いかけてみないか?⦆

「うん。いいよ」


 親子の鳥に並走するように、俺たちは崖の上を進んでいく。あまり近寄ると、警戒されそうだしな。

 雛鳥はおぼつかない泳ぎで、必死に親鳥のあとを追う。少しの段差や急流で水に飲み込まれそうな雛たちは、見ていてドキドキする。


⦅うん! いいぞ! 可愛い! ガンバレ! あっ……よし! 可愛い! あぶなっ……ふぅ⦆

「ヒロアキ、ああいう可愛いの好きだよね」

⦅うん、好き!⦆


 鳥の親子を追って小川を下っていくと、やがて大きな湖にたどり着いた。鳥たちは流れの穏やかな岸の方へ泳いで行き、木陰に入って行く。

 あそこが、子育ての場所なのかも。


「あの親子はこの湖を目指してたんだね。餌が豊富なのかな?」

⦅そうかもな⦆

「うーん……」


 湖はとても広く、キラキラと太陽の光を照り返している。周囲の森の葉が水面を漂い、彩りを添えていた。


「ここって、水の中どうなってるのかな?」

⦅どうって?⦆

「ほら、魚とかいるのかな? って」

⦅あー。いるんじゃないか?⦆ 


 魚かぁ……転生した時の洞窟は、魚の魔物がいたし。これだけ広ければ、そこそこの大きさの魚もいそうだよな。

 そんなことを考えていると、スズネがもじもじとしている。何か言いたいことがあるんだな。


⦅どうしたんだ? スズネ⦆

「いや……例えば……その……()()竿()()()()()()に擬態して、中を見てみるとか……」

⦅みたいな物って何だよ!? 釣り竿になって湖に入れってか?⦆

「お願い! 濡れるの先っちょだけだから!」

⦅変な言い方しないで! はぁ……仕方ないなぁ⦆


 まぁ、食料となる生き物がいるならそれに越したことはない。

 俺は釣り竿に擬態した。イメージだけでも、意外となんとかなるものだな。

 釣り竿は、リールも付いてる本格的なもの。水中の様子がわかるように、顔はルアー部分に配置。


⦅念話で様子を伝えるから、危なそうだったら引いてくれよ?⦆

「わかった! いくよー!」


 スズネは勢い良く竿を上に振り、俺を水中に投げ飛ばす。思い切りが良すぎない!?

 かなり遠くまで飛ばされ、ボチャリと音を立てて水中に落ちた。


⦅ひどい……⦆

「ごめんごめん」


 岸でスズネが謝っているのが聞こえる。顔から離れているけど、竿の方の音も聞こえるのか。

 まぁ、文句を言っても仕方ない。気を取り直して、探索を始めよう。


⦅水深はかなりありそうだ。あと、魚影も見えるぞ⦆

「本当!?」


 嬉しそうに、スズネはクイクイッと竿を引く。そんな本格的に、釣りするみたいに引かなくてもいいんじゃないか?

 ゆっくりと糸を引き寄せられていると、遠くに黒い影が見えてきた。


⦅なんか大きいのが寄ってきてるみたいだ。もう引き上げてくれ⦆

「大物!?」


 俺の声掛けに、スズネは竿を大きく左右に振る。ちょっと待って。何でアピールしてるの?

 その動きに反応して、黒い影はグングン近づいてくる。これは……シャレにならない大きさだぞ!?


⦅いいから引いてくれって!!⦆


 なかなか引いてくれないので、俺は自分でリールを巻き始めた。この釣り竿は俺の体なんだ、好きにさせてもらう!

 岸に戻る俺のスピードに合わせて、黒い影も加速してくる。やっぱり、捕まったら厄介そうな相手だな。さっさと岸に上がってしまおう。

 そう思って全力でリールを巻いていると、ガクンっと動きが止まる。え……リールが抑えられてる!?


⦅ス……スズネ?⦆

「あなた、がんばって!!」

⦅がががががががががんばって!!???⦆


 衝撃の言葉に気を取られていると、いつの間にか黒い影は大きな魚の姿になっていた。

 なんだよこれ!? とてつもなく巨大で、こんなの魚じゃなくて――


⦅魔獣じゃないか――!!???⦆


 心の叫びも虚しく、俺は瞬時に飲み込まれる。針になった部分が、魚の口の内側に食い込むのを感じた。

 次の瞬間、思いっきり体が引かれた。陸と水中から強い力で引かれ、釣り糸のラインが張り詰める。


⦅き……切れる……!?⦆

「大丈夫! 任せて!!」


 力任せに逃げようと暴れまわる魚に対して、スズネは緩急をつけながらリールを巻いていく。あれ……? 意外に釣りが上手かったんだな……。

 暗闇の中を激しく引き回されること数分、俺はようやく岸に引き上げられた。


「長い戦いだった……!」

⦅まったくな!!⦆


 俺と一緒に引き上げられた魚は、スズネよりもデカい。二メートルくらいあるんじゃないか?

 こんな怪魚がいるなんて、なんて恐ろしい湖なんだ……。


「魔獣って叫んでたけど、イトウっぽいね」

⦅……それって、どんな魚なんだ?⦆

「サケやマスの仲間だよ」

⦅よし、食おう!!⦆


 まぁ、過ぎたことをグダグダ言っても不毛だしな。美味しいものは、美味しくいただこう。

 河原の石を適当に集めてきて、簡単なかまどを作る。スズネが切り分けてくれた魚を、枝に刺して焼いていく。

 本当にサケみたいな魚だなぁ。見慣れたオレンジ色の身に、期待が高まる。


「ミュア~」


 魚が焼けてきて、すごく良い匂いだ。ハラスの脂がパチパチと弾けあふれだし、トロトロと滴っていく。

 ああ……ここに白米があったなら……!


「ミュゥ~ミュゥ~」

⦅かわいい声出して、そんなにお腹が空いてたのか? スズネ⦆

「何言ってるの?」

⦅え……えぇっ!?⦆


 鳴き声とは反対側から、スズネが答える。じゃぁ、今俺の横で鳴いているのは……


「ミュア!」


 隣を見ると、ミューアの子どもがちょこんと座っていた。

 いつの間に……。


「可愛い~! 一緒に食べる? ミュアミュア?」

「ミュ―!!」


 おお、スズネはミューアと会話ができるのか。子ミュアが、嬉しそうに鳴いている。

 可愛いお客さんとのお食事だな。


「ミュア~! ミュアミュア~!!」

⦅えっ……ちょっと待て待て待て!!⦆

「ウソ……ええ!? 子ミュアがいっぱい出てくる――!!」


 子ミュアが声をあげると、木陰から大量の子ミュアがわらわらと湧き出てくる。

 うわーっ、何匹いるんだよー!! 動き回るから、数えきれない……とりあえず、十匹以上いるぞ……。


「これは魚、全部食べきっちゃいそうだね」

⦅ははは……まぁ、可愛いから良いかぁ⦆


 高さの低い平らな石に、焼いた魚を並べてあげた。子ミュアたちは輪になって、勢いよく魚を食べている。

 勢い余って、他の子に乗り上げて食べてる子が……ほら、こっちの石にも魚置いてあげるからね~。

 子どもの食事って大変だなぁ。


「ミュア~」


 食事を終えた子ミュアたちが、今度は俺とスズネにすり寄ってくる。次から次へと群がってきて、あっという間に子ミュアに埋もれてしまった。

 うわ~可愛い~!! 幸せ~!! お~よしよし……。


「ミュ~ミュウゥ~」

「ミュア~ミュア~」

「あっあっ……そんなにいっぱい……ひぁ~……」


 体中を子ミュアによじ登られ、顔中を舐められているスズネ。懐かれているんだろうけど、完全に襲われてるみたいだ。

 スズネは子供や動物の扱いが苦手で、こわごわと手を出すから舐められるんだよな。


「ミュアァァァァァ!!」


 平和な仲良しタイムに、突如ミューアの咆哮が響き渡る。

 次の瞬間、俺の体は激しく吹き飛ばされた。


⦅え!? なになに!?⦆


 何か重たい物に、地面に押し付けられている。

 影を見上げると、ミューアが牙を見せながら唸り声をあげていた。


「ミュアッ! ミュアッ!!」

「え? あなた達の……お母さん?」

「ミュ―ミュー!」


 遠くで、子ミュアとスズネの声が聞こえる。

 ミューアの怒りは収まらず、二本の尻尾が刃物になって俺に襲い掛かった。


⦅ひぃぃぃ!! このミューア本気だー!! 助けてー!!⦆

「その人は私の……ミュアー! ミュアミュア、ミュミュウゥ―!!」

「ミュアンミュアン!!」

「ミュ―ミュー!」


 体を伸縮させながら、必死にミューアの攻撃を避ける。その間、スズネと子ミュアたちが説得している声が聞こえた。

 ミュアミュア言ってるだけで、何言ってるかわからないけど……。


「ミュ……ミュア?」


 低い声でミューアがスズネたちの話に耳を傾ける。攻撃が止み、俺は解放された。

 その後もしばらく、スズネと母ミューアは何かを話しているよう。結構、長話だな。

 俺は子ミュアたちに囲まれて、その様子を見守った。


「ミュア。ミュア~」


 母ミューアがこちらに声をかけると、子ミュアたちが一斉に母ミューアに駆け寄った。

 そして森へ入っていく。チラチラとこちら見て、付いてこいと言ってるみたいだ。


「新しくこの森に来たって話したら、巣穴を紹介してくれるって」

⦅そうなのか……⦆

「子どもたちがスライムに襲われてると勘違いして、攻撃したみたい。私の夫だって説明したら、納得してくれたよ」

⦅なるほどな⦆


 確かに、知らない別の魔物とベタベタしてたら怪しいよな。

 むやみによその子を触っちゃいけないのは、人間も魔物も一緒か。

 俺たちは、親子ミューアに案内されて森を進んでいく。しばらく歩くと、横穴の洞窟に辿り着いた。


「ミュア!」


 こちらを見て一声上げると、母ミューアはピョンと飛んで洞窟の壁を登って行った。

 上にも、別の横穴が開いているな。他の子ミュアたちも、母親を追って上の洞窟に入っていく。


「下の洞窟は無人だから、好きに使っていいよだって」

⦅そうか。ありがたいな⦆


 ここが俺たちの新居か……まぁ、悪くないな。


⦅これから頑張ろうな! 魔素だまりを見つけて、進化して――⦆

「それに、赤ちゃんもね」

⦅お……おう!!⦆


 俺たちは、どちらからともなく体を寄せ合う。

 そういえば、安全な場所で二人きりになれるのは町以来だな。


⦅スズネ……⦆

「ヒロアキ……」

「ミュッ!」


 俺たちの間で、可愛い声が上がる。声の方を見ると、先ほどの子ミュアの一匹がちょこんと座っていた。

 どうやらこの巣穴は、お隣さんも出入り自由なようだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


■■■■


スズネ

「物質への擬態って、前世の物にも擬態できるのかな?」


ヒロアキ

「そうだな……やってみるか。何かリクエストあるか?」


スズネ

「ベビーカーとか、どう?」


ヒロアキ

「ベビーカー……こんな感じでどうだ?」


スズネ

「見た目は良い感じかも。こう、座るところ揺らせたりする?」


ヒロアキ

「こうか?」


スズネ

「カンペキ!」




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