第二十一話 二人の旅立ち
宿に泊まった翌朝、俺たちは日の出と共に町を出た。
青白い空を、あの大きな飛竜が飛んで行く。こんな朝早くから活動しているなんて、いつどこで寝ているのだろう?
「それでは、私はこの辺で」
町からだいぶ離れた場所まで、プラムさんは見送りについて来てくれたのだ。
俺はマントの擬態からスライムの姿に戻って、地面に降りる。ちゃんと、お別れの挨拶をしないとな。
「こんな遠くまで、お見送りありがとう。お世話になりました」
⦅本当に、何から何まで世話になったよ。おみやげまで貰っちゃて……⦆
「いえ、好きでやったことですから」
気にしないでくださいと、プラムさんが手を振る。
おみやげというのは、彼女お手製のお守りだ。本来は魔物使いが、他の魔物使いに魔物を奪われないようにする物らしい。
それを念の為にと、俺たちに持たせてくれた。
「本当は私が近くにいないと、効果が薄れてしまうのですが……それでも、いきなり隷属させられることは防げると思います。なのでもし、人間に捕まることがあったら……」
⦅その隙に逃げろってことだな⦆
「はい」
プラムさんは本当に、先の先まで考えて動く子だな。俺が若い頃は……いや、今だってこんなに気が回らないだろう。
若くして魔獣狩りとまで言われる実力とは、こういうことか。恐れ入るなぁ。
「この先にある育みの森は、あまり人が立ち入らない場所です。人里から遠い割に、実入りの良い魔物や素材がないので」
「そうなんだ」
「でも魔物にとっては、比較的安全な場所だと思います。広大で住む場所も多く、食料や魔素だまりも多い」
⦅それはいいな⦆
少し間を空けて、プラムさんがこちらを見る。倣うように、ソル君たちも。
これが本当の、最後のお別れなんだな。
「またいつか……お会いしたいです。お二方がどんな姿になっていて、どんなお子さんが産まれているのか……気になります」
「うん、私もまたプラムさんに会いたい! 子どもにも会ってもらいたい! ね、あなた?」
⦅ああ、もちろんだよ!⦆
プラムさん達はこの世界で最初の友人で、恩人だ。彼女たちが居なかったら、俺たちは生まれた洞窟から出ることも出来なかった。
ここまで来れたのも、この先に行けるのも……彼女達と出会えたから。
「ではヒロアキさん、スズネさん、お元気で! お二方の未来に、幸多いことを」
⦅プラムさんもお元気で! またいつか会おう!⦆
「プラムさん、いままでありがとう! ソル君も、キヨさんも、ケルシーも、元気でね!」
「バフゥ!」
俺たちはそれぞれの道を、歩き出した。
今度プラムさん達に会うのは、俺たちは亜人になってからか。子どもも産まれてるといいな。
「……行っちゃった、ね……」
⦅あぁ……本当に、良い子だったな⦆
「うん。また会いたいね」
⦅そうだな⦆
魔物と人間が、この広い世界で再開する。
それってもしかして、すごく大変なことなんじゃないか? ネットもスマホも無い世界だし……。
でもなんだか、彼女とはまた会える気がする。なんとなくだけど。
■■■
プラムさんたちと別れてから、二週間ほど。
道中は谷や山が多く、道はとても狭い。強い魔物とは遭遇しなかったが、人が立ち入るのは難しそうだ。
そして俺は再びマントに擬態して、スズネに着てもらっている。スライムの体だと、歩みが遅くて……。
「なんか、寄生されてるっぽい」
⦅変な言い方しないで!?⦆
最初はすぐ戦えるようにって、剣に擬態して移動してたんだ。でも剣での移動は瞬発力はあるんだけど、長距離移動するのは苦手なようで……スタミナが切れて地面に落ちてしまった。
なので、影に入るかマントに擬態して移動することに。どちらにせよ、スズネに運んでもらっている。
⦅お! あそこの崖の上の木、赤い実がたくさん実ってるぞ⦆
「本当だ!」
⦅旨いのかな……スズネ、登れるか?⦆
「まかせて!」
そういうと、スズネは崖を登り始める。ちょっとした横突起をつたって、スイスイ登っていく。このミューアの身体能力、羨ましい!
「とうちゃく!」
あっという間に崖を登り、木の上にあがった。そして赤い実をもぎ取る。
「うわぁ……」
⦅おおっ……⦆
木の実を取った先――登ってきた崖の反対側には、広大な森が広がっていた。
「あそこが……育みの森?」
⦅たぶん、な⦆
一目見ただけで、豊かで穏やかな森だと感じる。うまく説明出来ないけど、生まれた洞窟の外の森とは違う。
体を吹き抜けていく風が、とても柔らかい。
同じことを感じているのか、スズネもどこかリラックスした感じだな。
⦅やっと、落ち着いた生活ができそうだな⦆
「うん。そういえば、ずっと旅暮らしだったもんね」
スズネは良い景色を眺めながら、大きく深呼吸をした。そして気合いを入れる。
「ここで進化して、安心して暮らせるぐらい強くなるぞー!」
⦅お……おーっ! 俺もーっ!!⦆
「子どもも産むぞー!」
⦅おーっ! ……おおっ!?⦆
つられて一緒に、恥ずかしいこと叫んでしまった。恥ずかしい!! 念話だけど!!
当のスズネは嬉しそうに、はにかんでいる。まったく、俺の嫁さんは……大好き!
「これからも、頑張ろうね」
⦅ああ、よろしくな⦆
俺たちは木の実を食べて一休みすると、育みの森へ降りていった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
■■■■
ヒロアキ
⦅キヨさんとケルシーは、全然鳴かないんだな⦆
プラム
「人前ではあまり鳴かないように言ってますからね。でも念話はたくさんしているので、結構にぎやかなんですよ」
ヒロアキ
⦅そうなんだ! ソル君は念話を使わないの?⦆
プラム
「ソルは念話がなくても、私たちのことをよくわかっていますから」
ソル
「バフゥ!」
■■■ブックマークと評価について■■■
● ブックマーク
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
続きの気になる方は、ぜひブックマーク登録をお願いいたします。
● 評価について
「面白かった!」「続きが気になる!」という方は、ぜひ応援をお願いいたします!
広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて評価応援いただけますと、幸いです!




