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異世界で俺はスライム、嫁はネコ ~転生しても妊活します~  作者: 明桜ちけ
第一部 転生して初めての子を産む話
20/42

第二十話 宿で二人きり

 買い物を終えて、宿へ向かう。宿は少し大きめな、古いお屋敷といった趣き。宿の女主人も優しそうな老婆で、プラムさんやスズネを孫娘のように迎えてくれた。

 部屋に案内されて、俺はようやく擬態からスライムの姿に戻る。


⦅はーっ、ようやく自由に動けるぞー!⦆

「あはは」

「お疲れ様です」


 部屋にはベッドが二つ。一つはプラムさん、もう一つが俺とスズネってところか。

 床には大きなラグが一つ、毛布の入ったカゴが二つ。これはソル君たちの分だな。みんな一緒の部屋で、寝るんだ。


「さて、と。帰ってきて早々なんですが、私は少し出かけてきます。薬草を届ける仕事が、まだ終わっていないので」

「えぇっ! 先に言ってくれれば良かったのに」

⦅俺たちの用ばかり付き合わせちゃったな……ごめんよ⦆


 町に戻ってきたら、用があるに決まってるのに……すっかり失念していた。これだから、プラムさんの世話にばかりなってしまうんだな……。

 そんな俺たちに、プラムさんはいえいえと手をふる。


「届け先は宿の近くなので、気にしないでください。すぐに戻りますね」


 プラムさんは必要な荷物だけまとめると、扉の方に向かった。その後ろをソル君たちも、全員ついて行く。みんな出てっちゃうのか……。


「そうだ! 念のため、私が戻るまで絶対に部屋から出ないで下さい。鍵も開けてはいけません。マドレイの件もあるので……」


 本当に何をしでかすか、分からない人なので……と、心配そうにこちらを振り返る。プラムさんがここまで言うなんて……あいつ、本当にとんでもないやつなんだな。


⦅わかった、絶対に開けない⦆

「うん」

「よろしくお願いします。では、行ってきますね」


 みんなが部屋から出ていき、カチャリと鍵が閉まる。

 部屋には、俺とスズネが二人きり。


「二人っきりになるの……久々だね……」

⦅お……おう……⦆


 スズネは俺を拾い上げ、ゆっくり抱きしめた。


⦅ス……スズネ……?⦆

「……ぉん……」

⦅ん? なんだ?⦆


 震える声で、スズネは言葉を絞り出そうとしている。何か、重要なことだろうか?

 その口元に注目すると、口角がニヤリと上がった。


「おふとんだぁぁぁ!!!!」

⦅ちょっ!? スズネさん!!?⦆


 俺を抱く腕に力が入り、ガッチリとホールドされる。そしてそのまま一緒に、ベッドにダイブ。


「おふとん! ふわふわ! ふわふわミュ! ミュアッ! ミュアミュアアァァアァッ!」

⦅スズネ!? 興奮しすぎ! そんなに暴れちゃっ……ふわっふわだアァァ!!⦆


 抱き枕のように抱きつかれ、俺は為す術もない。ただスズネと一緒に、ベッドの上を転がり続けた。

 そんなに興奮しちゃって……本当に、仕方ないなぁ。

 あぁぁ……楽しいでっす!!


「ミャッミャッミャッ……へへっ……あはははっ……はあ……」

⦅はぁ……はぁ……もう、落ち着いたか?⦆

「うん。……ふへへっ」

⦅まだ笑ってるじゃないか……ふぅ……あはは⦆

「ヒロアキだって……ふへ……」


 二人でこうやって、じゃれあうのも久しぶりだな。やんだか、一気に緊張の糸が切れた感じがする。


「これから……どうしようか……」

⦅そうだな……⦆


 おそらく、明日には町を出ることになる。それにいつまでも、プラムさんについて行くわけにもいかない。

 あと、竜姫の家族のことも……。


「住む場所に……人探し……あと子ども……」

⦅そうだな……⦆


 やることも決めることも、盛りだくさんだな。はたして、何から取り掛かればいいやら……。


「あての無い人探しより……先に子どもを産んだ方が、いいかな? ……また年齢を気にすることになるの、辛いし」

⦅そうか……⦆


 ズキリと胸が痛む。

 魔物に転生してすっかり忘れていたけど、この身体にも寿命はあるだろう。だとすれば、生殖可能期間も制限があるはずだ。

 転生前と同じ後悔は、もうしたく……させたくない。


⦅どのみち、亜人にならないと旅をするのも大変そうだ。しばらくは町から離れて、魔素だまりを探すことになるな⦆

「うん……プラムさん、育みの森がいいんじゃないかって言ってたね」


 町を越えた先に、比較的穏和な魔物たちが多く暮らす森があるらしい。それが、育みの森。

 ここに来る道中、プラムさんが教えてくれたんだ。


⦅そこで俺たちの進化と……準亜人になったら妊娠も、か……⦆

「ねぇ、あなた……」


 スズネの、俺を抱きしめる腕に力がこもる。そして不安そうな問いが、こぼれた。


「私たちの子ども、どんな子が生まれるのかな?」

⦅魔素で妊娠すると、母体と同系統の子どもが生まれるんだっけ? やっぱり猫耳の子が生まれるのかな⦆


 これもプラムさんに教えてもらったこと。本当に、何でも答えてくれるんだよな。すごい子だよ。


「ちゃんと、お話し出来るようになるかな……? 亜人に、進化してくれるかな……? 魔獣にならないで、くれる……かな……」

⦅スズネ……?⦆


 彼女の口からは、不安な問いがとめどなく溢れ出す。


「ごめん……急に不安になっちゃって……どんな子でも、大事なはずなのにね……」


 生まれてみるまで、何が起きるかわからない。どんなに問いかけても、答えはきまっている。

 どんなに理解していても、やはり受け入れるのは大変なことなのだろう。

 ましてや、ここは病院もない異世界。そして俺たちは、魔物の体なのだ。


⦅その……不安な気持ち、気づかなくてごめん⦆


 俺は触手を伸ばして、スズネの頭を撫でる。本当は抱きしめたいけど、ちょっと難しいんだよな……。


⦅もしスズネが嫌なら、子どもを諦めてもいい。でも、もし俺たちの子を産んでくれるなら……⦆


 こんな姿だけど……ちゃんと言わないと。

 何があってもスズネを守るって!


⦅何が起こるかわからない、その全てを受け入れる⦆

「ヒロアキ……」

⦅なんて言うのかな……格好つけてるみたいだけど……覚悟を、決めるよ⦆


 うう……なんだか恥ずかしくて、念話だけど声が震えてそう……!

 スズネは、じっと俺を見つめている。

 何か、しゃべって……緊張しちゃうから!


「へへ……変なの……」

⦅なんだよ、泣きそうになってたくせに……⦆


 しばらく間を空けて、スズネが口を開く。その顔は、安堵の笑顔をしていた。


「ありがとう……落ち着いた。私も一緒に、覚悟を決める」

⦅あ……あぁ……。ありがとな……⦆

「うん……」


 今度こそ俺たちの子どもを産んで、家族をつくろう。

 きっと、楽しい家族になるはずだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

第一部は40話で構成しているので、ここが折り返しになります。

これからもどうぞよろしくお願いいたします!


■■■■


宿の主人

「今日連れてきた女の子、元気ねぇ。さっきまで、部屋で大騒ぎしてたわよ」


プラム

「す……すみません……」



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