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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
最終章【傲慢】悪魔ルシファー討伐編/マギア侵略編

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39  信念の拳

「あなたの魔法は嘘っぱち――そうじゃありませんか、ゼステーノさん!」


 こちらに背を向けて水晶玉の魔道具を操作している赤いツインテールの皇女様に、僕はそう突きつけた。

 当然、確証はない。彼女の詠唱に含まれた「罪」という単語、そこから直感で当てはまりそうなものを選んだだけだ。

 こんなギャンブルじみたやり口、僕らしくないけど――ハッタリでも通ればそれで構わない。


「僕たちは十字架なんかにかけられてない! 僕たちは、床に足をつけて立っている! 動けないのは、僕らがそう思い込んでいるからに過ぎないんだ!」


 叫んだ直後、僕の身体はすっと楽になっていった。

 その瞬間、床に着地した感触はない。最初から、僕らは十字架に磔になどされていなかったのだから。


「……あら、見抜かれてしまいましたか。『炉』の炎が見せる幻――視覚のみならず、五感全てに働きかけるこれが、破られるなんて。思ったよりも鋭いんですね」


 その「嘘」に隠された「本当」を暴き出すには、自分の感覚を疑うところから始めなくてはならない。

 幻覚を見せる魔法――闇精霊の奥義――を何度か使って、対処法を頭に入れておいたのが幸運だった。

 拘束や痛みの錯覚から脱した僕らに、ゼステーノさんは拍手を送ってくる。

 

「私のこの技を破れる人は、そんなにいないんですよ。【ヘパイストスの神器使い】のお兄様だって、抗えなかったのに。

 あなたへの評価、撤回させてください。やはり、あなたは陛下が求める存在というだけあって、光るものを持っています」


 心からの賞賛。彼女の感嘆に嘘はないのだと、その瞳を見つめて分かった。

 ゼステーノさんは多分、実力の高い戦士という存在に強い興味を示すのだ。彼女はあの力がほしい、と貪欲に手に入れようとする、子供のような無邪気な目をしている。


「エイン、行くんだ!」

「――うん!」


 僕の疾呼にエインは応じる。

 床を蹴りながら先程の詠唱を再開、魔力を高めてゼステーノさんへ肉薄せんとした。

 箱型の魔道具の類いは壁際に整然と並べられているため、中央の通路に彼の障害はない。

 あとは速度の勝負。

 コンマ一秒の間に跳弾のごとく飛び出すエインの一撃は、ゼステーノさんの胸へ吸い込まれるように突き込まれ――。


「【ぼくがぼくであるために、今、力を解放せん】! ――【信念拳しんねんけん】!!」


 皇女の胸の前に展開されたのは、紅の光を放つ六角形の防壁。

 彼女の魔力を生み出す「核」を守らんとする障壁――白く輝く拳をそれに激突させたエインは、歯を食いしばって雄叫びを上げる。


「ううううううッ、らあああああああッッ!!」


 迸る気合。

 死を望んだ弱い少年はもう、どこにもいない。

 救われたのなら報いるんだと、彼はその叫びで伝えてきていた。

 その声に胸が熱くなる。自然と、僕の喉は震えていた。


「エイン、頑張れぇええええええッ!!」


 エインの咆哮、ゼステーノさんの瞠目。

 光の波紋を広げながら徐々に亀裂を走らせていく防壁に、皇女様はそのツインテールを振り乱す。


「馬鹿げています、なぜっ、【神器使い】の盾が、ただの魔導士なんかに――」


 引きつった金切り声は、防壁が爆砕される音に掻き消された。

 エインの拳はゼステーノさんの胸のオーブにめり込み、罅を刻む。

 乾いた呼気を吐きながら仰向けに吹き飛ばされた彼女は、砲のスイッチが置かれた台座の足元に崩れて動かなくなった。纏っていた魔力は蒸発し、神化も解除される。


「はぁ、はぁっ……トーヤ君、今のうちにスイッチを!」


 肩で息をするエインに頷きだけ返し、僕はその台座へと駆け寄った。

 魔力が溜まっている状態なら、スイッチを押すだけで大量殺戮を可能とする兵器――平和な未来に、そんなものは必要ない。

 力魔法で作った「見えざる刃」でボタンと台座の接続部を破壊し、そこに繋がれたコードも断ち切る。

 室内で起こった異常に、これといった反応らしいことも起こらず、『魔導機構モーター』が回転する音だけが外から遠く聞こえてくるだけだった。


「トーヤ君、この人どうしよう?」


 倒れたゼステーノさんを見下ろすエインに訊ねられ、僕は彼女の様子を注視する。

 胸が浅く上下しているのを見るに、命は残っているようだ。止めを刺す選択肢は、もちろんあった。でも……。


「そのへんに寝かせておこう。背が高いから年上かと思ったけど、こうして見ると僕らと変わらない年の女の子なんだ。殺せないよ」


「了解。……ゼステーノさん、これは貸しだからね」


 泡を吹いて白目を剥いているゼステーノさんに、エインは呟く。その声が聞こえているかは定かではなかったけど、皇女様の手がぴくりと動いた。

 彼女を放置して僕らは『制御室』のドアの隙間から顔を出し、廊下に誰か来ていないか確認する。

 ……誰もいない。軍事施設なのに、これほどまで人気がないのはやはり異様だ。


「『魔導砲』を撃つことは、これで出来なくなった。あとは、僕の【神器】と君の魔剣【紅蓮】を回収するだけ」


「ぼくの魔剣はモナクスィアさんに投擲してから回収しそびれたままだけど……トーヤ君の【グラム】と【テュールの剣】はそもそもどこにあるか分からない。何か、見当はついてるの?」


 僕がこれからやるべき行動を挙げると、エインにそう訊ねられた。

【神器】が保管されているであろう場所は、この要塞の構造に無知な僕には導き出せない。

 だけど、誰の手のうちにあるかは何となくだけど察しがついた。


「アダマス帝……モナクスィアさんが『儀式』に臨んでから姿を消した彼が持っているに違いない。【神】に拘る彼なら、【神器】をより多く手元に置きたがるだろうから」

 

「戦闘以外で魔力を消費するのは避けたかったけど……【神器】の魔力反応を探ってみた方がよさそうだね」


 その提案には同感だ。僕は一度深呼吸をして心を落ち着けた後、目を閉じ、魔力に感応する「第六感」を研ぎ澄ます。

 すると、すぐに――。


「すごく近くに一つ! 場所は、隣の部屋だ!」

「えっ!? トーヤ君の【神器】は二つだし、それじゃあ――」


 身構えるエインの肩に、瞑目したまま僕は手を置く。

 マギアの【神器使い】が近くにいる。だけど、これだけの距離にいながら、その人物は僕らの戦闘に介入してこなかった。それどころじゃない状況にあるのか、だとしたらそれは何なんだ……?

 

「……焦らないで、エイン。その【神器使い】は僕らに気づいていないか、泳がせているのかわからないけど、僕らに干渉する意思はないみたいだ。連戦は得策じゃないし、今は無視しよう」

 

 そう言い切って、僕は再び意識を魔力探知に集中させる。

 激しい魔力反応を、ここから200メートルほど下に離れた位置に幾つも感じた。その数、七つ。七人の【神器使い】、及びそれに準ずる力を持つ者が戦っているようだ。

 それ以外にも『神事の間』から二つ――これはモナクスィアさんとノアさんだ――と、南の方向に四つ、さらに250メートルほど下に二つ。後者二つの反応はそこまで強くなく、戦闘状態にないことが分かる。


「アダマス帝本人が【神器】を持っているなら、この階層の南。そうでないなら、250メートルくらい下に安置されてる」


「に、250メートル下って……そんな地下まで階層が続いているなんて、ものすごい規模の要塞ってこと、ここは……!?」


「そうだよ。でも、一つ間違えてる。この『要塞』に地下なんてない。この『アイテール』は最下層から数えて百もの階層からなる、『天空要塞』なんだから」

 

 驚愕するエインに声を返したのは僕ではなく、廊下から届いた男性の声だった。

 背筋を凍らせる僕らに、その人は言葉を続ける。


「ねぇ、君たちは一体何をしているの? ここは僕の要塞なんだよ? 僕が作り、僕が運用する、僕の最高傑作なんだ。……知らないなら、教えてあげる。僕はフォティア・クィ・マギア。マギアで最も優れた設計士であり、【神ヘパイストスの神器使い】」


 苛立ちを露にした、ざらついた声音。彼の感情の静かな高まりに比例するように、発される魔力も強さを増していく。

 そして、次の瞬間。

 ドガッッ――!! と轟音と共にドアが蝶番から離れて吹き飛ばされたと同時、僕はエインを抱き寄せて横に飛び退いていた。


「ねぇ、答えてよ。君たちは、何をしているの? 僕の美しい作品に泥を塗ろうというのなら……容赦はしないよ」

 

「っ……僕たちは、【神器】を取り返してここから脱出を目指してる! あなたの作品に傷をつけようだなんて、思ってない!」


 扉がなくなって覗けるようになった廊下に立っていた影は、小柄で華奢なものであった。

 薄暗い制御室からは逆光で顔が窺えない。明らかなのは、彼が憤激していることだけ。

  

「嘘つきは嫌いだよ。現に、君たちはそこのスイッチを壊したじゃないか。あれがなければ、『アイテール』は光線を吐けない。この子がフルスペックを発揮することは、できなくなるんだ」


 青い魔力を炎のごとく立ち上らせるフォティアさんは、一歩、室内に足を踏み入れる。

 一歩進むごとに熱量を増す火炎は、彼が歩んだ跡を焦がしていく。 


「逃がしはしないよ。スイッチが破壊された今、この部屋はもう使えない。多少焦げようが、纏めて後で作り直すだけだから」


 部屋の奥へと後ずさりしている僕らを見据えて、フォティアさんは青い呼気を吐きながら言う。

 ここでようやく、彼の顔が露になった。中性的に整った繊細そうな顔。見たところ、年も二十歳前後だろうか。着ているのは軍服ではなく黒い着流しで、若いながら職人の雰囲気を漂わせている。

 目を隠すように下ろされている前髪は――彼の語気が荒げるのに呼応して、逆立(さかだ)っていた。

 額に巻かれていた紐を上げて逆立った前髪を留めたフォティアさんの身体は、青い光に包まれながら変化を始める。


 ――【神化】だ。

 僕らがゼステーノさんに勝てたのは、彼女に「スイッチが破損するのを防ぐため派手な魔法は使えない」という制約があったから。しかし、その制約は取り払われた。全力の【神器使い】に、僕らは【神器】を持たない状況下で抗わなければならない。


「……」

 

 フォティアさんは僕らに目もくれず、スイッチの台座へと足を運ぶ。

 僕らなんて取るに足らない相手、そう思われてるようで、悔しかった。歯を食いしばって拳を握り締める僕は、鋭く息を吸い込み、魔力を溜めていく。

 

「……何?」


 と、その時、フォティアさんは虚を突かれた声を漏らす。

 彼の足元にはゼステーノさんが倒れており、その白い手に足を掴まれたのだ。


「お、兄様……私を、助け……」

「うるさい。僕の作品を守りきれなかったくせに、助けなんか求めないで」


 妹の請願の声に、燃える炎のごとき青髪の青年は吐き捨てた。

 触れた手を振り払い、蹴り飛ばす。呻吟(しんぎん)する妹を汚物を見る目で見下ろした彼は、彼女の骨ばった手を踏みつけた。


「その手は何のためにあった? その身体は、身につけた魔法は、何のためにあった? よくも、僕の心を汚してくれたね。【マギ】だかなんだか知らないけど、君に利用されっぱなしでいる僕じゃないよ」

 

 何度も、何度もフォティアさんは妹の手を踏みにじった。二度と杖を握れなくしてやる、そんな憎しみさえも滲ませて。

 戦えない人に、これ以上そんな真似はするな――僕は声を上げようとして、できなかった。 

 言ったとして、この人は逆上するだけだ。激情は【心意の力】を高め、魔法の威力を大幅に後押しすしてしまう。そうなれば、僕らに勝ち目はなくなる。

 なるべく刺激しないように立ち回れ。静かに、「攻撃」の瞬間まで、空気と一体化するほどに気配を殺すんだ。


「……焦らなくてもいいよ。ゼステーノにお仕置きした後、君たちはじっくり炙ってあげるから。予め言っておくと、この部屋の扉は僕の『(ほむら)の檻』に閉ざされてる。君たちに逃げ場なんてない」 

 

 彼の余裕の根源は、それだったのか。僕らが『焔の檻』を突破不可能だと、確信しているんだ。

 正面から戦って勝つか、その檻を破れるかに賭けるかの二者択一。どちらも失敗すれば命はないだろう。彼はこれまでの敵とは違い、僕らに加減なんてしない。    

 怒っている人は、誰よりも強いのだ。感情を燃やし、爆発させ、一切の躊躇なしに殺しに来る。


「やめて、お兄様っ……私は、そんなつもりじゃなかった! 【マギ】のために、『魔導砲』を撃ちたかっただけで……お兄様の作品に、泥を塗るつもりなん――うぐっ!?」


「言い訳も責任転嫁もいらないよ。君はこのスイッチを守れなかった。『アイテール』が備える攻撃手段の一つは、君に潰されたようなものだ。失敗者には相応の処罰が下される……軍法でも決まっていることだよね」

 

 少女の顔面に、青年の踵落としがめり込む。

 悲痛な顔で兄を見上げ、目に涙を溜めるゼステーノさんに、僕らと相対していた時の高慢な余裕は微塵もなかった。


「……エイン、二人で力を合わせるんだ。きっと一人の力じゃ勝てない。僕らの心と魔力を一つにして、抗うんだ」

 

「君の呼吸は僕の呼吸だよ。大丈夫――必ず、勝てる」 

 

 ゼステーノさんには申し訳ないけど、彼女が痛めつけられている間に小声で打ち合わせる。

 エインは剣、僕は盾。二人で一つの体となって、あの【神器使い】を突破する!

 フォティアさんの姿は、そうしている間にも完全な【神化】を遂げようとしていた。

 小柄で華奢だった面影は、どこにもない。はだけた胸元や捲られた袖から覗く腕には分厚い筋肉が纏い、肩幅も増している。背丈は180センチを超す長身になり、腰から抜いたハンマーに刻まれた文字は青く輝きを放っていた。

 優しげな垂れ目は切れ長の吊り目に、中性的な顔立ちは精悍な雰囲気を帯び、まるで別人になってしまったようだ。

 ゼステーノさんの涙混じりの悲鳴が響く中、登場した偉丈夫に僕らは立ち向かっていく。


 ――意思は共有した。あとは、戦いで結果を示すだけ! 

 

 飛び出した僕らへフォティアさんは首を回し、怒りを孕んだ目で睨みつけてくる。

 片手持ちのハンマーをくるくると弄びながら、彼は肩を震わせて言ってきた。


「僕のこの姿を見たら、誰しもが驚くんだ。当然だよね。ひ弱で陰気だと蔑んでいた相手が、いきなり筋骨隆々の戦士になるんだから。気持ちいいんだよ、その瞬間は。最初は僕を侮っていた兵士たちも、【神化】してみせたら簡単に態度を変えた。

 でも……なんだい、君たちの態度は? もっと驚いてみせなよ。もっと恐れなよ。僕がロン兄さんにも劣らない戦士だって、称えなよッ!!」


 エインが射出した水の矢の連弾は、フォティアさんの激情にかき消された。

 ハンマーを振ると同時に生み出された炎の盾が、その焦熱で水の矢を蒸発させたのだ。


「そんなっ……!?」

「ははっ、その顔だよ! 僕はこの槌で何でも作れるんだ。何も、武器だけじゃない。たとえば……」

 

 瞠目しつつも諦めずに次なる魔法の準備を進めるエインと、光の糸を放って拘束せんとする僕に、フォティアさんはにやりと笑む。

 炎の盾に守られた後ろで彼がハンマーをひと振りした次には、瞬く雷光を纏って蠢く大蛇が二匹、出現していた。


「この子たちを倒せるかな? 僕の作品は、みんな強いんだよ」

 

 舌を激しく鳴らす大蛇は、僕の「光の糸」を掻い潜ってこちらへ急迫してくる。

 ――速い!? それに、なんて動きなんだ……!?

 床から跳躍して渦を巻くように「光の糸」の周りを回ることで、蛇はそれを回避していた。

 首根っこへ肉薄しようとする蛇の毒牙。防衛魔法をすぐさま発動し、その攻撃を受け止めた僕だったけど――


「なっ!?」


 激突した蛇の牙は、その勢いのまま防壁を溶かして貫く。

 咄嗟に左腕を突き出して牙から身を守った直後、噛まれた傷口から痺れが広がっていた。


「即効性の、毒……!」


「【ヘパイストスの神器】は僕が思い描いたものを何でも作れるんだ。一定時間が経てば消えてしまうけど、戦闘に使うのには十分持つ。……あと数分で、君は動けなくなるよ」


 得意げに言ってくるフォティアさんの前にあった炎の盾は、なくなっていた。

 もしや、生成したものを二種類同時に維持することはできないのか。同種なら二つ同時に扱えるみたいだけど……これは彼の弱点、といえるかもしれない。


「トーヤ君! 僕の血を!」


 土属性の「魔素(まそ)」を基に生成した短剣で大蛇の首を断ったエインは、僕のもとに駆け戻りながらその刃で自身の腕を切った。

 振った勢いで飛び散った血液を、僕は蛇に腕を噛ませたまま飛び出して顔に受ける。

 口元に垂れてきた血を舌で舐め取り、飲み込むと――不思議なことに、腕の痺れが少しずつ引いていくのを感じた。


「ぼくの血液は、闇属性の『魔素』の抗体になる! 長い間、悪魔の魔法にかけられていたせいで、耐性ができていたみたい!」


「ありがとう、エイン! 少量を口に含んだだけで、この効果……よし、これなら!」


 噛まれた痛みなんて、毒に比べれば些細な問題だ。

 僕は引っ付いた蛇ごと腕を近くの箱型の魔道具に思いっきり叩きつけ、その頭部に致命打を負わせる。

 死んだ蛇を振り払おうとすると内向きに生えた牙がしつこく食い込んだけど、肉が持っていかれるのも構わずに引き剥がした。

 ……猛烈に、痛い。でも、こんな痛み、フェンリルに左腕を噛みちぎられた時の激痛に比べれば何でもない!


「ふぅん、面白いね。同じ属性の魔力を継続的に浴びていれば、耐性が生まれる――知識としては知ってたけど、実際に確認したのは初めてだよ」


 当然だろう。そんな環境に置かれるなんて、非人道的にもほどがある。

 エインは――悪魔に憑かれた人たちは、精神を汚染する魔法を常に受け続ける苦境にあったのだ。そこから脱し、立ち直った彼は強い。

 闇を打ち払う光の戦士として、彼は生まれ変わったんだ。


「……でも、技を一つ対処できたくらいで調子に乗らないことだね」


 フォティアさんの青く燃える瞳が、僕らを射抜く。

 ハンマーを構える彼の腕は青白い闘気を纏い、流麗な動きでそれを振るう。

 槌が打ち鳴らされる音がどこからともなく響くのに連動して、彼の前には次々に武具が誕生した。

 剣、盾、槍、斧、棍棒、ハルバード、苦無(クナイ)、ブーメラン。よく見るものから異国の武器まで、八つの多彩な武具たちが円環を描くように並び、僕らを威圧してくる。


「武器が、こんなに……!?」


 さっきは蛇が一匹ずつだったから何とかなった。

 でも、八つの武器で一斉に攻められたら、果たして防げるだろうか? モナクスィアさんとの「儀式」、ゼステーノさんとの戦いで消耗している僕に、フォティアさんの全力を止められるのか――?

 冷や汗を頬に伝わせる僕が不安に思う中、ふと。

 聞き覚えのあるクラシックのフレーズが、耳朶を打った。


「~~♪」


 僕も、フォティアさんもぎょっとして停止する。

 戦場にそぐわない荘厳な調べを鼻歌で奏でるエインは、僕の方を向いて片目を閉じた。

 君も歌おうよ、とでも言うように。

 

「……うん!」


 エインの意思を察した僕は頷き、彼の声に自分の声を重ねていく。

 高音パートはエインが、低音は僕が。歌いながら走るのは魔法の詠唱で慣れている。

 彼我の距離は五メートルもない。互いに呼吸を揃えて接近してくる僕たちに対し、フォティアさんは苛立ちに歪んだ表情で迎え撃つ。


「ふざけてるのかい? 僕を愚弄するなら、相応の報いを受けてもらわないとね」


 剣が、槍が、斧が、ハルバードが、僕らを惨殺せんと刃を向ける。苦無とブーメランは回転しながら飛び、宙から舞い降りる。混紡と盾は術者のフォティアさんを守るべく構えられる。

 僕らは二人で一つ。一秒一秒、心を重ねて、武具の連撃を掻い潜るんだ!

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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