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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第8章  神殿ノルン攻略編

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25  緊急脱出

 今度は僕が動きを縛られる番だった。

 少女ケルベロスの詠唱と同時に天井が嫌な音を立て始める中、ナイフを突き付けていた僕の手が振り払われ、腕を掴まれてしまう。

 

「くっ……!」


 火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか、ケルベロスの力は物凄かった。

 こんな細い腕のくせに──どんなに引っ張っても振り回しても離せない。

 歯噛みする僕は、こちらに駆け寄ろうとしてくるエルたちへ鋭く警告を飛ばした。今来れば彼女らは絶対に巻き添えで致命傷を負ってしまう。そんなことは死んでもごめんだ。


「エル、来るな! 大丈夫、僕ならこの状況も何とかできるから。信じて待ってて──」

『無駄なことよ! トーヤ君はここで塵芥となる。それは決して逃れられないことです。それに──いつまでもそこにいたら、あなた方も潰されてよ?』


 覚悟を決めた人間は強い。僕はそれを知っている。

 だから、今のケルベロスを侮ろうなんて全く思わなかった。こいつは本気で自分もろとも僕を殺す。回避するには……。


「【斥力魔法】!」


 亀裂が走り、崩れ落ちてくる天井へ魔法をかける。

 ケルベロスが発動したのは、重力であらゆるものを自分に引き付ける《力魔法》だ。水晶と岩石で圧殺しようという彼女に対し、僕は逆に周囲の全てのものを突き放す魔法で挑んだ。

 持てる全ての魔力を注ぎ込み、既に壊れた水晶と岩石たちを押し戻そうとする。


「なんて、力……!?」


 しかし、話はそう簡単に解決しない。

 顔を上げ、迫り来る鉱物を睨みながらそれをどうにか支えるも、この状態が長く続けられないことは明白だった。

 落ちてくる総重量なんか考えたくもない。早くもごりごりと削れてきている自分の魔力マナを意識して、僕はエルに再び声を投げ掛けた。


「エル! 地形を元に戻す魔法、それがもし存在するなら、使ってくれ! このままじゃどうにもならない!」

「ごめん、トーヤくん! ……私には、これだけの重量全てに対応することがとても出来そうにない」


 返事は即座に返ってきた。

 流石にダメか……! くそっ、やはり崩落は避けられそうにないのか──。


「なら、君たちだけでも先へ進んでくれ! 今ならまだ間に合う、前進するんだ! 君たちが神殿を攻略し、新たな神器使いとなる……悪魔討伐の使命のためなら、それでいい!」


 現在、少女と僕の魔法は拮抗している。ここから移動するチャンスは今しかないのだ。

 僕を助けようなんて考えなくていい、先へ行ってくれ──。

 少女の腕を振りほどこうともがきつつ、エルやシアンたちの目を見て訴える。

 

「…………っ、トーヤ! あなたを置いていくことなんて、私には……!」


 案の定、エルたちは僕を残して行くことを躊躇した。

 ──僕には君たちが全てなんだ。だから、こんなところで死んでほしくない……!

 足を止めてしまう彼女たちへ、なけなしの声を絞り出して突き放すように言う。


「馬鹿なことを言うな、シアン! 僕にとって最悪なのは君たちが死んでしまうことだ! 君たちが僕のことを想っているのなら、後ろを振り返らず走れ! 必ず切り抜けて戻るから──行くんだ!」


 正直、この危機を潜り抜ける方法なんて思いつかない。

 けれど、そう言うしかなかった。

 僕の心の声を汲み取ったのか、シアンは目に涙を溜めつつも頷いてくれた。

 彼女の隣でちょっとでも力が加われば再び崩落を始める天井を見据え、ジェードも腹をくくったようだった。


「俺たちだけでも女神ノルンのもとに辿り着くんだ。それがトーヤの望みなら、迷うことなんかない」

「すみません、トーヤ殿。……行きます」


 アリスが僕に頭を下げ、そして背を向ける。

 リオやユーミ、ヒューゴさんももう何も言わず、アマンダさんたちが通った道へ足を運んだ。

 最後に、エルは僕とケルベロスを静かに見つめた。彼女は小さく唇を動かし──その直後、杖から黄金の光を迸らせる。


 薄闇を瞬く間に明るく染め上げた彼女の魔法は、《転送魔法陣》か。

 しかしいつも使う円形のものとは異なり、陣は八芒星を描いている。

 僕とケルベロスの足元にそれを出現させ、エルは告げた。


「この魔法陣は、私から半径一キロの範囲のどこかに君たちを転移させる。どこに落ちるかは私にも分からない。……トーヤくん、絶対生きて合流しよう。私、それまでは絶対負けないから」

『ちょっと、何してくれてるんですか! そんなの、反則じゃない……!』


 ケルベロスがわめく横で僕はエルに頷いて見せた。

 足元の光はどんどん強まり、まともに目を開けていることも困難になる。エルの姿も隣のケルベロスの顔さえも白く薄れてきた、その刹那──。


 地面を踏んでいた感覚が消え失せ、身体を上に引っ張られるような浮遊感と共に、僕たちはそこから別の場所へ転移した。

 

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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