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閑話 管理番の思い

コメント、誤字報告をありがとうございます

とても励みになっています。


今回は管理番の回です。こんな事を思ってたのか、と知ってもらえたらと思っていますが、お話が長くなってしまいました。今までの中で1番の長さです。最後までお付き合い、いただけたらと思います。


よろしくお願いいたします



私は王宮に勤めて5年過ぎになる。

私の仕事は、王宮に入荷する全ての品物を管理することだ。それは献上される物も含まれる。

それこそ、紙の一枚、果物一つ、陛下や殿下の衣服に至る布地や、献上される宝飾品まで全てだ。

ある意味、王宮にある品物で私の知らないものはないと言える。


王宮に仕入れられるもの、持ち込まれるものは、周辺諸国で貴重な品から、変わったもの、珍しいものまで集められる。陛下に気にいられるため、珍しいものなども集められるからだ。

その意味では、私は珍しいものにも詳しいと自負していた。

姫様に会うまでは。


姫様にお会いしたのは、この国が少し肌寒い季節になってきた頃だ。

食材を探していると、呼び出されたのが初めての出会いだった。


王宮の中ではあまり噂を聞かない方だった。

私も離れにいらっしゃることは知っていたが、それだけだ。我儘や、何かほしい、とかも聞いたことが無かったし、欲しい物の希望も聞いたことがなく、私の部署に要望がきたこともない。それだけおとなしい方だと思っていた。 


しかし『姫』の肩書を持つ方だ。

実際はどんな方かわからない。

噂だけで、実際は違うことも多いため、お会いするときは緊張していた。

成人していない方だ。分別なく、無邪気に、どんな無茶を言われるのかと、身構えてもいたのだ。


お会いすると、別の意味で驚かされた。

私に気を使ってくださるのに、自分の希望もきちんと口にされていたし、だからといって、無理な要求はなかった。お願いはあったが。


そして、博識だった。調味料や野菜。調理器具に嗜好品に至るまで、細かく聞いてこられる。私の方が無知で恥ずかしくなり、泣きたくなっていた程だ。


口籠る私を見ると姫様は、サッと質問を変えて来られる。内容を私に合わせてくださるのだ。

立場上、私が提案し、品物をお教えしなければならない立場なのに。


自分の無知のために、王宮の品揃えが悪いと思われるのは、不本意だった。姫様は『なかったら仕方ない』と、仰ってくださったが、私のプライドがそのままにはしておけなかった。


入職から親しくなった城下町の商人がいる。

年齢も近いせいか話しやすく、付き合いやすかったので親しくなったのだ。


その商人なら知っているかも、と思った。私には心当たりがあったのだ。商人から売れなくて困っているものがある、と聞いていたし、その商品の事も少しは教えてもらっていた。王宮で使えないか検討もした事もあったのだ。

実際は料理長から不要と言われ、実現はしなかったが。


翌日、仕事に来た商人を捕まえ、姫様のお尋ねの物がないか確認したら、今度は商人が驚いていた。

この辺では扱っていない品のようだ。私も仕入先までは聞いていなかったので驚いた。なぜ姫様はそんな物を知っているのか?国で扱っていらっしゃったのだろうか?

疑問はつきない。


品物を直接お見せしたいから、姫様にお会いしたいと商人に言われた。


しかし、離れに簡単に人を連れていくわけには行かない。許可を取るのも難しいだろうし、あの侍女長が許可をくれるとは思わなかった。

初対面の時に良い印象が持てず、気難しい感じがしたので、許可はもらえないような気がしたのだ。

だから断った。

だが粘られた。


説明は自分にしか出来ないし、他に欲しいものがあったときも自分にしか、わからないだろうと。

確かに、否定は出来なかった。私ではわからない事だらけだったし、姫様の要望に、私では応えることが出来ないだろう。


そう思うと断りきれず、許可をとらずに直接連れて行き、姫様の許可を貰うことにした。姫様が断れば諦めるだろうし、商人も納得するだろうと考えたからだ。


姫様はあっさりと商人と会われた。嫌がる様子もなく、朗らかな様子で話をされ、品物の確認をしている。やはり姫様がお探しの物のようだ。姫様はなぜ知っておられるのだろう。

私も知らない、この国では知っているのは、商人ぐらいのものだろうか。

まだ小さくていらっしゃるのに。


実際の年齢は9歳との事だが、身体が小さいので7歳前後にしか見えないのに。いや、外見は関係ないだろう。頭の中は大人と変わらないような気がしてならない。


それでも、私は姫様のお探しのものを見つけられた事で、肩の荷が降りた気持ちだった。


しかし、そこから姫様の規格外の言動が始まる。

自分の目を疑ってしまった。商人を相手に交渉を始めてしまわれたのだ。

商人を相手にも一歩も引く様子が見られない。

ハラハラしながら様子を見ていると、部屋を出されてしまった。

私には聞かせられないようだ。姫様や商人の事が気にかかり渋っていると、心配ないからと出されてしまった。

ドア越しに見ていると穏やかに話しているようだ。

私には理解できないが、話は纏まったようだ。


良いことなのに。安心したが、なんとなく疎外感を感じてしまう。

商人を連れてきて、姫様に紹介したのは私なのに、と小さい事を思ってしまった。


そこからはトントン拍子に話は進んでいく。


私は月に2回、商人は1回、姫様をお尋ねして商品の確認や、販売の方法を教えて頂くことになった。

離れを訪れる度に、姫様が料理を振る舞ってくださる。『商人に使い方を教えるからついでだ』と言われるが、恐れ多い事に姫様の御手作りだ。私などの身分では考えられない。その上、姫様の料理は信じられないくらい、美味しいのだ。

今まで食べてきた物が、料理と思えないほどに。


そうなると私は離れに行くことが、指折り数えるほど楽しみになってしまっていた。

仕事の一環として伺っているが、実際は仕事は二の次の気持ちになっていた。


自宅でも、商人から発売されている調味料を使っている。しかし不思議と姫様と同じ味にはならない。何か秘密があるのだろうか。姫様に聞いてみたい気持ちもあるが、ご好意に甘えすぎかとも思っている。だから聞くことは出来ないでいたが、商人は気にせずなんでも聞いている。

羨ましいが私には真似が出来ない。


姫様は朗らかで、身分を気にすることなく、私や商人に接してくださる。

身分を笠に着てわがままや、無理を押し通すような事は一度もなかった。どちらかと言えば、私たちと楽しく過ごせるようにと、気を使ってくださる方だ。離れに行く度に『いらっしゃい』と笑顔で迎えてくださる。


品格維持費もなく、外出も制限されている中でも腐ることもなく。

与えられた中で穏やかに、いかに楽しく過ごせるかを考えて過ごされている。その先が料理をされることなのだろう。私たちが来てくれる日が『楽しみだ』、とか『食べてもらえるから張り切ってしまう』と言われていた。私の方が楽しみなのに。


私は姫様から頂くばかりだ。品物をお持ちするが、それは仕事の一環で、私自身の物ではない。

姫様は助かっている、と笑って言ってくださるが、私自身として何かお返しをしたいと思っている。


いつかそんな日が来たら、姫様のご厚意に報える日が来たら、頑張ろうと心に誓い、姫様御手作りの唐揚げを口に運んだ。


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人質生活から始めるスローライフ2
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[良い点] さかのぼっての感想ですが。 「閑話 管理番の思い」は、平民の視点から姫様がどう見えるか、姫様に対する好感度の高さを感じさせてくれる大変好きな挿話です。 管理番は品格維持費の件や断罪の場での…
[良い点] 管理番の回、お待ちしておりました!本当にありがとうございます。 [一言] いつも楽しく読ませて頂いてます。姫様が可愛くてカッコ良いし、わちゃわちゃ感も大好きです。
[良い点] >私は姫様から頂くばかりだ。品物をお持ちするが、それは仕事の一環で、私自身の物ではない。 > >姫様は助かっている、と笑って言ってくださるが、私自身として何かお返しをしたいと思っている。 …
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