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美味しさはすべてを忘れさせる

  私的にいたたまれない視線を受けながら、やっとの思いで席にたどり着いた。その後は陛下の挨拶に父の返礼があり食事が開始される事になっている。

 席は真ん中に陛下と殿下。陛下の隣に両親、逆側に私と隊長さんだ。披露宴の様に正面の中央にある横長のテーブルに私たちの席があり、その正面に爵位に合わせた席が設けられている。

 なので当然正面に令嬢がいるのが見え、父親の横に座っている。貴族の末席にいる、と言っていた管理番や姪っ子ちゃんの姿はない。もちろん商人の姿もない。仕方がない、というか当然の帰結だが、なんとも堅苦しいし楽しくない。

 私の隣は殿下で、以前よりも気楽に話せるようになったとはいえ多少の遠慮は残っており『気楽に楽しく』というのは難しい。とはいえ両親は反対側にいるので話しかけることはできない。そうなると私が気安く話せるのは隊長さんだけになる。誰もいないよりはマシだと思う事にしよう。マシだと思うけど先程の件を思い出すと積極的に話す気分になれないのは仕方がないと思っている。

 

 そんな私的には切実で世間的にはくだらないことを考えながら、自分の気持の立て直しを図っていた。

 図らずとも婚約発表となった現状。この場で私はどう振る舞うべきなのか。そして今後の自分の在りようを考えるとグダグダとなってしまうので別な内容を考えていたのだ。

 だが、その立て直しは上手くいかなかった。どうしても今後の展開が気にかかり考えこんでしまうのだ。

 なにせ言葉は悪いが、わかりやすく言えば私は売り物だ。国の責任者の娘である以上これは変えられない。そのために私は労働を免除され、マナーや歴史、国交を学び自国の立場を良くするために行動しなければならない。今回、この国で人質になったのもそうだ。名目は留学生とはいえ実情は変わらない。その考えに乗っ取るなら隊長さんとの婚約を断る理由はないわけで。両親が自国の責任者として、この婚約を認めたのなら受け入れるしかないのだ。

 そこに私の意思は関係ない。というか、不満を口にするわけにはいかないのだ。

 

 隊長さんを好きか嫌いかで分ければ、私は間違いなく好きだと答えるだろう。そう嫌いではないのだ。それを思えば見知らぬ人に嫁ぐわけじゃなし、この結婚は条件は良いほうだと思う。

 そう理性では理解している。わかっているのだ。

 問題は気持ち、心情の方。なにせ私は一度は人生に幕を引いた身。そう言うと聞こえは良いが、単なるおばさんだ。だからこそ、将来有望で若い隊長さんと夫婦となることに抵抗がある。なんか騙してるみたいで気が引けるのだ。結婚詐欺みたいだし。近くで接する事が多かった分、若い親戚、甥っ子と結婚するみたいな気分にもなっている。犯罪だろ、みたいな? 感じ? といえば良いのだろうか。それが私の中で引っかかっている一番の問題だった。とはいえ、私の気持ちがおばさんなことを誰も知らないし。表面上はお姫様なわけだし。だったら問題ないだろうか? 中身なんて誰にも見えないわけだし。

 という自問自答を繰り返している間に挨拶は進んでいる。


 私は陛下の挨拶を聞き流しながら、自分の気持ちを分解して納得させようとしていた。そう、断ることはできないのだから納得させるしかない。それに私は自分の事ばかり考えていたけど隊長さんの気持ちはどうなのだろう? 

 殿下の婚約が整っていないので自分に婚約者はいない、と言っていたので決まった人はいないはず。まあ、隊長さんも婚約や結婚について、立場上断るのは難しいはずだから、仕方がないのだろうけど。納得できているのだろうか? 私が知らないだけで好きな人がいるかもしれないし。自分の立場を考えてそれを口にしないだけの分別が隊長さんにはあると思う。それを考えれば隊長さんの方が気の毒かもしれない。いや、でもそんな人はいないかもしれないし。

 もう一つ思い出した。陛下は殿下との婚約を、と私に言っていた。自分のお姉さんが言い出した事とはいえ、隊長さんに変更にする事に問題ないのだろうか? まあ、陛下の采配がなければ隊長さんがここに来るはずもいので、問題ないのだと推察は出来る。こう考えると現状は二転三転しているけど。陛下の中でも収まるところに収まったのだろう。

 最終的に私がこの国に残ることに変わりはないし。


  私の中で自問自動していると、でも、やっぱり、だから、の繰り返しだった。要は私自身自分の中で混乱していることを理解する。

 今回は相手のいる話だ。いくら考えたって自分一人の考えで結論が出るはずもない。

 それに私は自分の気持ちばかり考えていて隊長さんの心情を思いやれない自分をもう一度反省する。私が色々思うように隊長さんだって受け入れなければならないにしろ思うところがあるはずだ。


 今ここで隊長さんを見ることはできない。さっきの会場の視線が思い出される。というか、現在進行系で見られているのだ。迂闊な行動は取れなかった。 

 諦めよう、いくら考えたって結論は出ないのだ。終わったら隊長さんの気持ちを聞きながら相談するしかない。

 私はやっとの思いで結論を出した。


 

 口角をあげ上品に微笑んでいる仮面をつけながら、その場で待機しているうちに前菜が運ばれてくる。

 会場は広いので多くの人が行き交っても窮屈に感じることはなかった。大勢の人が同時に給仕を開始しているのに慌ただしい感じがしないのはプロの技を感じ取れる。それに侍女さん、侍従さんたちの動きはスマートで落ち着いているので、ぎこちなさがなく優雅さだけが際立っていた。

 この広い会場を一斉に人々が動き出すのはなかなかに壮観な眺めだった。

 

 しかし、この場で食べる食事は美味しくないとは言わないが楽しめない。なにせ人々の視線が気にかかる。皆さん、眼の前には美味しそうな食事が置いてあるはずですよ。それを楽しんで下さい。と声を大にして言いたいが実行する勇気はなかった。

 会場にいらっしゃる皆々様は、テーブルを見ているようでチラチラとこちらに視線が流れているようだ。見ている側は気にしていない、バレていない、と思うだろうが見られている側は視線を感じているし、バレていると言いたいし落ち着かない。

 これは自意識過剰なのか? 誰かに聞きたいが聞けるのは一人しかいない。そう、隣にいる隊長さんに聞くしかないのだ。

 でも、この場で聞いていいものだろうか? 「人の視線って気になるよね?」なんて聞いて良いものだろうか? マナー違反? こんな席に慣れないのでどう振る舞っていいのかわからない。テーブルマナー的なものは練習しているし理解もしている。エチケットも多分、常識的な部分では大丈夫だと思う。だが、実際にその場になると不安が顔を出すのも事実なのだ。 

 確認のために聞くべきか? チラッと隊長さんを盗み見る。隊長さんも私の視線に気がついたのか、いつもと変わらずどうしました? と視線で聞いてくれた。


 小心者の私は自然と小さな声で、こんな所で普通の声量で話す勇気もないけど。見られて落ち着かない、的なことを口にすると隊長さんは仕方ないでしょ、的な雰囲気で諦めて下さい、と私の方へ身を寄せて宣った。わかってる、そんなことはわかっているのだ。それでも嫌だから言ってるのに、と不服に唇がアヒルになりそうになるのを堪えた。

 堪えた私を褒めてほしい。

 そう思いながらも仕方なく食事に集中することにする。食べることだけに集中すれば気にならないだろう。多分。


 食事に逃げた私は分析に集中する。

 前菜的なものが来たら次は卵料理だった。茶碗蒸し的な料理、フランだった。

 さすがは料理長、美味しそうだ。キノコとこれは何かの魚だろうか一緒に蒸してある。匂いもきつくないし薄味だけど魚とキノコの味がしっかりと感じられるものだ。これがこの席でなければ何よりのご馳走なのに。と思っていたのは初めだけだった。料理に集中しだすと周囲のことは気にならない。時折話し相手になってくれる隊長さんと料理の感想を言いあいながらバッチリと食事を楽しんでいた。

 隊長さんは話上手で自然と会話が盛り上がる。最近は周囲にも気を使っているのか、それとも相手が殿下だからなのか。殿下にも話題を振りまきつつ場のぎこちなさがないように気を使ってくれていた。


 殿下も楽しそうに話題についてくる。その結果、普段では聞けない話を聞くことができた。何より楽しかったのは隊長さんと殿下の子供時代の話だ。初めて聞いた話だが殿下は小さいころ隊長さんの後をついて回っていたらしい。ついてまわっている時は何をするときも一緒だったとか。そのお陰と言うべきなのか、隊長さんの勉強している時も一緒に授業を受けていたそうだ。わからない問題があっても逃げ出さずに教わっていたらしい。その根性は立派だと思う。私だったら無言で遠慮すると思う、というか一緒に勉強しない。私は姉が授業の時は庭で散歩をしていた。この辺からも違いを感じてしまう。

 殿下の成績のよさは隊長さんとの子供時代のエピソードにあるのかもしれない。


 そんな知らない話を聞いていると楽しいし食事も美味しいし。二人からは、出される料理について聞かれ、分かる範囲で答えたり。隊長さんは作ってみたいと言い出すし。殿下はその作りたい発言に驚きつつ自分も、と便乗してくる。これはお料理教室アゲイン? とか考え本気なのかと聞き返したり。

 その御蔭で私は周囲のことを忘れ去り、しっかりと最後のデザートまで楽しんでいた。

 宮廷料理長の食事は美味しかった。流石はプロの味。堪能させていただきました。

 ご馳走さまでした。


 隊長さんの言う通り今夜は親睦会だった、満足。と思うのは私たち3人だけで、他の方々は情報交換や私たちの様子をしっかり観察していたようだった。

 

 私は悩んでいたことを忘れていた。その結果。婚約発表の肯定と共にそれを後押している自分に気が付かずにいた。



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人質生活から始めるスローライフ2
― 新着の感想 ―
まあ嫌じゃないなら、むしろ理想的でしょしね。
歓迎会が一転して実質的に婚約お披露目会になってしまって、姫様はいろいろと悩みが深いようで。 読んでいるこちら側からすると、婚約相手が殿下から隊長さんに替わって一安心な気分ですが、姫様本人にとっては自分…
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