その頃
「ようこそ。おいで頂いて光栄です」
「こちらこそ、お招きいただきまして。楽しみにしていました」
姫様の母親が招かれたのは陛下の姉、隊長の母君だった。ここは男子禁制の場、女性だけのお茶会。言うならば女性の戦場。
ここで姫様の母親は情報収集を行う予定だ。彼女は政治家として一流との評価を受けている。だが、その実態は作られたものであり、両親が話し合い努力して作り出した結果だった。夫である国王が凡庸であるとのイメージを作り、侮られやすくする事で情報を集めやすくしながら国内は安定させる、そのために噂話を流布しているのである。
そのお陰で、国内は親戚が多いということもあり、困った陛下を助けなきゃ、的な空気があり良好な関係を築けている。国外はあの国王だから警戒しても仕方がない、的な雰囲気が出来上がっている。お陰で情報は集めやすく目的を十分果たせていると言えるだろう。副産物として自分たちの長男も、その噂を信じており国内は母親のお陰でまとまっている、と信じている事だろうか。そのせいか母を手助けしよう、自分がしっかりしなければ、と思っている。それを眺めている両親はまだまだだな、などと考えていた。
母親は眼の前の女性陣を眺めながらニッコリと微笑む。多くの女性たちの視線が突き刺さっているが、これでビクつくようでは母親ではない。この程度、と言えなければ国内外を騙し続けることはできないのだ。
今日もしっかりと夫から指示をもらっている。
まずは隊長の母君から国内情勢を聞き出すこと。そして本命は陛下が婚約に対しどの程度本気なのか、という事を聞き出す予定だ。
何をもって娘を取り込みたいと思っているのか。本気なのか。その真意の全てを解明できるとは考えてないが、姉なら話を聞いている可能性があると考えている。もしくは噂だけでも聞き出せるはずだ。その噂、情報をここで取りたい考えている。このお茶会に参加している理由は他にもあった。この国で娘の立場は弱いだろう。本気で皇太子妃、にと望むのであれば後ろ盾は絶対に必要だ。そうなれば、隊長殿の家が最有力候補になるだろう。その打診は入っているのか、入っていれば婚約話の信憑性は高くなる。その辺りも知りたいところだ。
どこまで話が出ているかは不明だが、聞ける範囲は聞き出すようにと託されている。母親は自分の役目を果たそうと力が入っていた。
お茶会である。予想はしていたが着飾った奥様方が多い。あちら側にも何かしらの指示があるのだろう。その場にいる女性たちは、たおやかな笑みを浮かべながらお互いの出方を伺っていた。
母君に勧められ、それぞれが席につく。
この場に招待されている女性たちの人数は多くなかった。母君の言葉によれば厳選したメンバーとの事。 人数が多いと騒がしいと会話が楽しめないので、とにこやかに話す母君は紛れもなく陛下の姉なのだろう。昨日の会食と同じ理由で人数を制限したようだ。
姉弟だな、という感想は胸のうちに押し込みながら感謝だけを口にする。
定番のセリフを交わしつつ全員が席に着いた。
国賓である母親を迎えるだけの位を持っているだけあって、招かれた部屋は落ち着きがあり、さりげなく豪華だった。
この部屋にある調度品を売ればどれだけの家族が食べていけるだろうか? そんな事を考える母親は間違いなく姫様の母親だろう。交わされる挨拶を受けながら脳内は別な事を考えている。
そうしてお茶が供されお喋りが始まる。もちろん、初めは月次な会話からだ。
お天気やこの国に来るまでの道のりなど世間話や当たり障りのない会話。そうした話に愛想よく付き合いながら、時折テーブルの顔ぶれが変わりつつ話しを繰り返す。母親は話しを楽しむ振りをしつつも殿下や娘、隊長の噂話を集めていた。
そうすると殿下や隊長の噂はだ妥当な話を聞くのだが、娘に関しては別だった。本当に自分の娘の話なのだろうか? と思わずにはいられない話が飛び込んでくる。
小さな話から大きな話まで耳を疑うような内容だ。
曰く。 新しい食材を探し、料理を世間に広めている。
商人と手を組み商売をしている。
侍女や護衛たちに料理を振る舞ってい飼いならしている。
宰相と揉め敵対している。
陛下のお気に入りである。
信じがたいのは最後の2つだった。
陛下と交渉し離宮の使用権利をもぎ取り陛下は殿下との婚約を望んでいる。
隊長を利用し軍に手を伸ばそうとしている。
自分の娘は何をしようとしているのか? もしこの話が本当なら陛下が婚約を勧めようとするのは理解できる気がする。自国の軍事情報を知っているのなら、手放せるはずがない。機密が漏れては困るのだ。それなら婚約をした後に適当な理由をつけ幽閉したほうが理にかなっている。
そこまで考えた母親はゾッとし、その思いを表情に出さないようにするのに多大な努力を要していた。
他の参加者からは、英才・多才・陛下に気に入られ羨ましい、だの多くの言葉をもらう。その都度如才のない返答で誤魔化しているが、この話がでまかせであることを祈っていた。
何人のご婦人方と話しをしただろうか。ある程度の人数が入れ替わったあと、最後は母君と同じテーブルに座っていた。どうやら一巡したらしい。
そして今度は母君と二人だけのテーブルになっている。
どうやら母親同士の話があるのだろう。
知らず知らずにお互いの顔をじっと見つめ合っていた。
彼女は何を話したいのだろうか?





